M.M むこうがわの礼節 第一話 「逢魔が時の礼節」




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 7 - 73 〜1 2018/3/24
作品ページ サークルページ



<それぞれの場面をリアルにする事で伝わる臨場感が魅力でした。>

 この「むこうがわの礼節 第一話 「逢魔が時の礼節」」という作品は、同人サークルである「スタジオ・おま〜じゅ」で制作されたビジュアルノベルです。スタジオ・おま〜じゅさんの作品では過去に「”国”シリーズ」と呼ばれるシリーズ物をプレイさせて頂いております。”国”シリーズは現在みすずの国・キリンの国・雪子の国の3作品がリリースされておりまして、人間の国と天狗の国という2つの国の繋がりを多方面から描くシナリオが特徴です。人物描写と背景描写を大切にしており、ビジュアルノベルの良さを最大限に活かした演出はより人間の国と天狗の国を魅力的に見せてくれます。一度見ると暫く目を離せない力を感じるスチル、臨場感を表現している効果音など、逆に写真ではない絵だからこその表現力というものも感じました。現在各種DLサイトに登録されておりますので、是非プレイしてみて下さい。

「みすずの国」のレビューはこちら
「キリンの国」のレビューはこちら
「雪子の国」のレビューはこちら

 今回レビューしている「むこうがわの礼節 第一話 「逢魔が時の礼節」」もまた、スタジオ・おま〜じゅさんでシリーズ化されている作品です。ジャンルは「短編民俗学ミステリー」となっておりまして、その名の通りサラッとしたホラーとちょっとした蘊蓄が詰まったお手軽な読み物です。礼節とは、その名の通り「礼儀と節度」という意味です。世の中には様々な決まり事やルールがあり、それらに従って生きる事が社会で生きるという事です。また、これまで過ごしてきたコミュニティでは正しいと思っているルールでも、他のコミュニティにとっては間違っているという事もよくある事です。郷に入っては郷に従えという事ですね。相手を重んじる事、自分が間違ったら誤るという事、そこから礼節は始まるのだと思います。そんな、相手にとっての礼節とは何かという事を民俗学を通して教えて頂きました。

 この作品の主要な登場人物は2人です。高校生の萌佳と、地理を担当し民俗学に精通している教師のブンこと小室文太郎です。萌佳は天真爛漫でとても好奇心旺盛です。分からない事を分からないままにするのが嫌いで、疑問を解決するために人に訊いたり直接確認しに行ったりとアクティブでもあります。趣味は登山で、まさに山ガールのイメージそのものですね。一方ブンは恰幅の良い32歳の地理教師です。流暢な関西弁が親しみやすく、生徒たちを温かい目で見守ってくれます。運動はやや苦手のようですが、それでも学生時代は色々とやんちゃをしたみたいで良い具合に垢抜けた雰囲気が好感ですね。この2人の掛け合いを中心にして、1つのエピソードを通じて礼節を教えてくれるのです。

 特徴は、やはりスタジオ・おま〜じゅさんらしい背景描写・BGM・効果音・人物描写を大切にした雰囲気です。この作品はちょっとしたホラーという事ですが、私にとってホラーに大切なものは臨場感だと思っております。どれだけ作品の中に入り込めるか、場面の情景を思い浮かべられるか、それが出来ると出来ないとでホラーの怖さが全然変わってくると思います。そして、そんな臨場感を演出してくれるのはシナリオ以外の要素です。背景描写・BGM・効果音はもちろん、登場人物の会話のテンポやセリフも大切な要素です。どれだけリアルに表現できるかで臨場感が変わり、それがそのままホラーの評価になるのだと思います。まさにスタジオ・おま〜じゅさんの十八番ですね。直接的に怖がらせるのではなく雰囲気で怖がらせるのが上手で、私もドキドキしながら読む事が出来ました。

 プレイ時間は私で30分くらいでした。選択肢はなく、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。短編の名の通り本当にあっという間に終わりました。アニメを1話見た感じですね。このお手軽感も魅力的です。それでいてしっかりと1つ礼節を教えてくれます。長すぎない事の大切さを教えてくれる作品とも取れるかも知れません。ちょっとした怖さと爽やかさを求めている方に是非オススメですね。現在フリー公開されておりますので是非ダウンロードしてみて下さい。また既に第二話の方も公開されているみたいですので、レビューを書き終わったら早速プレイしてみようと思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。










































<皆さんがこの作品をホラーだと思えたのは、逢魔が時のルールを知っているからなんですよ?>

 礼節を重んじるという事は他者に対して敬いの気持ちを持っているという事である。そして他者を敬うという事はその他者に繋がりのある人たちへの敬いにつながる。人生にとって当たり前であり、意外と忘れられがちな価値観を思い出させてくれました。現代は得てして個性が大切にされ、自分が好きなものを求める事が尊いという価値観にシフトしつつあります。それでも、人との繋がりが変わらない以上礼節を重んじる事は変わりません。私も作品を通して相手の立場にどこまで寄り添えるか考えなければいけないと思いました。

 今作の中で私が一番心に残った言葉は、萌佳が最後にブンに訊いた「知らないって悪い事?」というセリフです。萌佳は逢魔が時のルールを知りませんでした。その事でおばあさんを怖がらせてしまいました。ですが、萌佳は一声呼びと二声呼びのルールを知りませんでしたので、萌佳にとってみればおばあさんの行動の方が怖かったのだろうと思います。萌佳にとってはおばあさんが、おばあさんにとっては萌佳がそれぞれ怖い存在でした。果たしてどっちが悪いのでしょうか?私は、ここに礼節の本質があると思っております。それは、知らない事は悪い事ではなく「知りませんでした、すみませんでした」と言葉にする事だと思うんです。

 人生において、悪意がない限り絶対に間違いを犯せない瞬間というものは意外と少ないと思っております。仕事でも趣味でも、大概の間違いは後で取り返しがつき修復可能です。何しろ、人生は知らない事だらけなんですもの。知らない事は悪い事なんて言われたら、世の中の人は全員悪人になってしまいます。ですが、知らなかった事で他者に迷惑を掛けてしまうのもまた事実です。自分が知っている知らないに関わらず他者に迷惑を掛けてしまったら、誠心誠意誤るしかありません。別に難しい事でも何でもないと思います。何しろ、知らなかった事は悪い事ではないのですから。恥ずべきことでもないと思います。そんな簡単なことが、実は意外と出来なかったりするんですよね。

 萌佳は素直な性格でしたが、同時にプライドも比較的高いのかなと思いました。何故なら、知らなかった事に対してとても悔しそうにしていたからです。だからこその上記の「知らないって悪い事?」というセリフなんだと思います。知らない事に対して何も思わない人は、こんな事すら考えません。ですがここからが萌佳の立派なところですね。ちゃんとブンに対して「教えて欲しい」と乞うたのですから。知らない事は悪い事ではない。それで他者に迷惑を掛けたら誤ればいい。ですが、そもそも知らない事が少なければどれだけ良いのでしょうね。きっと今回の逢魔が時の礼節から、萌佳とブンの教える教えられるの関係がスタートするのだと思います。きっと萌佳は利発な大人になれると思います。楽しみです。

 そういえば、皆さんは気づきましたか?おばあさんと会話した後に聞こえた「あの」という言葉に恐怖を覚えたのは、皆さんが逢魔が時のルールを知っているからだという事に。もし、逢魔が時のルールを知らなければ、何も考えずに振り向いていたと思います。この作品がホラーになるかならないかは、実は皆さんが知っているか知らないかにも掛かっているのです。勿論、今作ではあらかじめブンが萌佳に対して逢魔が時のルールを教えておりますので私たちが気付く事が出来ます。このギミックも面白いと思いました。礼節の大切さ、知る事の大切さ、そしてそれらを包括したシナリオ構成、短いながらも十二分に楽しませて頂きました。ありがとうございました。


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