M.M みすずの国




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 6 - 70 1〜2 2015/8/29
作品ページ サークルページ
フリーゲーム夢現



<オリエンタルなBGMと立ち絵の表情豊かさが、天狗の国の雰囲気を後押ししてくれます。>

 この「みすずの国」は同人サークルである「スタジオ・おま〜じゅ」で制作されたビジュアルノベルです。「スタジオ・おま〜じゅ」さんと初めてお会いしたのはC88が終わった後の打ち上げの時でして、代表であるKAZUKI氏と割と長い時間話をする機会に恵まれました。サークルさんの素材に対する思い入れについて知ることが出来ましたし、私自身どのようにレビューを書いているかについても話した気がします。そんな縁があり早めにスタジオ・おま〜じゅさんの作品はプレイしたいと思ってました。今回レビューしている「みすずの国」はスタジオ・おま〜じゅさんで展開している「”国”シリーズ」の第一弾でして、独特の世界観がプレイヤーを引き込んでくれました。

 人間の上位の存在である天狗が存在する現代の日本が舞台。人間と天狗は見た目こそ全く見分けが付きませんが、最大の違いはテレキネシスと呼ばれる神通力が使えるかどうかにあります。テレキネシスは神の力、人間はこの力を非常に恐れ、天狗の国と人間の国を断絶することを決定しました。しかしこのテレキネシス、人間でも10万人に1人の割合で発生してしまいます。主人公である秋山美鈴もまた後天的にテレキネシスが発生してしまい、15歳という思春期真っ只中に天狗の国で生活を送ることを余儀なくされました。運悪くテレキネシスが発生してしまった美鈴、それでも持ち前の大らかなで前向きな性格で天狗の国に馴染もうと奮闘します。物語はそんな美鈴が母親に連れられて天狗の国へ足を踏み入れるところから始まります。

 非常に細かい設定が成されれました。天狗の国も一つではなく複数あり、それぞれの国で色々と対立もあるようです。天狗にも階級があり、実力によって木葉天狗、鳥天狗、大天狗と区別されております。美鈴はこれからお山と呼ばれるテレキネシスを学ぶ学校のようなところに通うのですが、そこで人間と天狗との意識の違いや偏見に悩むことになります。美鈴以外にも何人か人間もおり、彼ら一人一人で想いが違っておりそこに個性を感じます。と、このような設定が物語を読んでいく中で少しずつ語られていき、プレイヤーは初めて天狗の国へやってきた美鈴と同様に何も分からない状態から少しずつ知識を与えられて読み進めることが出来ます。まさに美鈴と同じですね。是非美鈴と共に天狗の国がどのようなところかを探って頂ければと思います。

 後はBGMにこだわりを感じました。天狗の国は電気が通っておらず一昔前の人間社会を思い起こさせます。そんな旧時代な雰囲気を感じさせるオリエンタルなBGMは実に作中の雰囲気に合っており、私自身も天狗の国にいるかのような感覚を覚えました。他には何と言っても登場人物の表情ですね。立ち絵は水彩画のような柔らかい書き方でファンタジーさを表現しているのですが、笑顔や泣き顔も感情豊かに書かれており胸に響きました。特に美鈴と母親が離れ離れになる場面は涙なしには見れませんね。人間社会から離れることを余儀なくされた美鈴、それでもまだ美鈴を人間だと思い離れたくない母親、制度が否応なく二人を引き離すのです。それでも自分の運命を受け入れて、慣れない天狗の国で生活しようとする美鈴。今後の彼女の活躍に期待します。

 プレイ時間は私で1時間20分程度掛かりました。今作は美鈴が天狗の国へ来てほんの1週間程度で終わります。ですがその間にも美鈴には掛け替えのない出会いがあり、彼ら彼女らと切磋琢磨することで人間として成長していきます。導入部分という事で今後まだまだ美鈴には試練が訪れるのだろうと思います。ですがそこは持ち前の大らかさできっと乗り越えてくれるはずです。果たして天狗の国で生活できるのか、再び人間社会へ戻る事はあるのか、彼女のテレキネシスは開花するのかそれともしないのか。色々な事を思いながらプレイして頂ければと思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<自分の運命に負けたくない。その為には自分の軸をしっかりと認識し持ち続けること。>

「できるかできないかは、私が決める。全部、私が決める」

 本当はイヤでイヤでしょうがなかったんだろうと思います。なんで自分のPTK値がノーマル値を超えてしまうの?なんで高校生活を送れないの?なんで天狗の国へ行かなければいけないの?どうしようもなく理不尽ですよね。ですけどこれが美鈴に課せられた運命なんですよね。もう動いてしまったからには止められないのです。だったら、それを受け入れるしかないんですね。この「みすずの国」は、美鈴がその事に気づくまでの物語だったのだと思います。

 私、始め美鈴の事を随分楽天的な女だなと思いました。母親との別れが近づいても悲しい表情は出さず、むしろ母親を励ましながら別れを迎えました。まあ別れた後は泣いてましたが、それも直ぐに収まり人間のいないバラの館を選びしかも偏見の強い天狗との相部屋を選びました。確かに常識的に考えて頭の悪い選択です。敢えて自分から条件の悪い事を選んでいるのですから。楽天的なのではなくて、もしくは既に色々と諦めているのか、どこか壊れてしまったのかとも思いました。

 ですが決して精神が逸脱した訳ではありませんでした。なんだかんだいって美鈴は聡い子でした。もう心の奥底で受け入れていたんですね。もう天狗の国でやっていくしかないんだ。だったらやれるだけやるしかないじゃないか、と。ですがその気持ちに気付いていながらも周りとの協調に悩み、自分の気持ちを押し出すことに躊躇しておりました。今回であればヒマワリと人間達との板挟みでした。どちらに倒れてもどちらかがよく思わない。でもどちらに倒れてもそれなりに納得する。でも、これって本質的じゃないんですよね。その中に、自分の意志が無いのですから。もしかしたらそんな周りに振り回されて意思がない自分自身に苛立っていたのでしょうね。

 だからこそヒマワリから暴言を言われた時に今まで貯めていた想いが吹き出しました。バカにすんな!お前に何がわかる!誤ってばっかり!癖になってるのがイヤ!そしてそれ以上に美鈴を奮い立たせた想いは「負けたくない」だったのだと思います。ヒマワリに負けたくない、他の天狗に負けたくない、何よりも何よりも自分の運命に負けたくない。その想いが美鈴のテレキネシスを開花させる切っ掛けになったんですね。ヒマワリが「テレキネシスは精神が問題なの!」と言ってました。あの逆立った髪は、ようやく美鈴が自分の本音をさらけ出した事を示しておりました。結局は馬跳びは出来ませんでしたが、どこかスッキリした表情をしておりました。ここからようやく美鈴の天狗の国での生活が始まるんですね。

 再びバラの館での生活を決めた美鈴。ですがその思いは決して後ろ向きなものや自暴自棄なものではありませんね。ヒマワリとも一つまた仲良くなれました。あの子も単純ですからね。直情的ですが、それは相手の気持ちを真っ直ぐに受け止めるのが得意という事です。頭が良く真っ直ぐで才能のあるヒマワリ。そして同じく聡く秘めたポテンシャルを持つ美鈴。相性は最高ですね。もう美鈴は他の天狗からの中傷なんかに動揺しませんね。自分の目指すべきものが見えたのですから。彼女は今後どこを目指すのか。医者になる夢を叶えるために人間社会へ戻るのか。ひょっとしたら天狗の国に留まるかも知れませんね。全ては彼女の意思次第。ですが決して後悔する選択はしないと信じております。もう彼女は自分の軸をしっかりと持っているのですから。ありがとうございました。


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