M.M ゼロの使い魔 インプレッション
19、ゼロの使い魔外伝 〜タバサの冒険3〜
2009/5/30更新
ついにゼロの使い魔の外伝である「タバサの冒険」も3巻目に突入です。今回はずいぶんと核心的な話が多かったです。それはシルフィードとの出会い、タバサの恋心、そしてタバサという名が誕生した由来がいよいよ明かされたからです。という訳で「ゼロの使い魔外伝〜タバサの冒険3〜」の感想です。
すでに本編においてタバサはガリア国の女王となったので今後北花壇騎士として動くことはありません。よって、このタバサの冒険シリーズも出ないものとして考えていました。それがこのような形で帰ってきて非常に嬉しいです。それにしても、ここまで核心的な話を持ってくるという事はいよいよこのタバサの冒険シリーズも最後なのでしょうかね。とりあえず、本編では感情の乏しい控え目な少女として描かれていましたがそんなタバサが愛おしく思えてくるようなエピソードばかりでしだ。
まずは「タバサとシルフィード」ですが、これは完全にシルフィード視点の話です。時はタバサがシルフィードを自分の使い魔として呼び寄せるシーンから始まります。やはりシルフィードのあの性格ですから始めからタバサに懐くはずがないんですね、いつものようにタバサに反抗してばかりでした。さらにシルフィードは人語を解し人の姿に化ける事が出来るとは言え全く人間界の常識を知りません。それじゃあお使いの一つも出来るわけがないのです。さらにタイミングの悪い事に人攫いの手に捕まってしまいます。始めから踏んだり蹴ったりですね。それでも使い魔と主人は一心同体、もちろんタバサはシルフィードの事を助けてくれます。結局のところシルフィードがタバサの不格好な気持ちの表現に気付けはそれまでなのです。タバサの事を「お姉さま」と呼んだ時点で、基本的にシルフィードはタバサの事を信用したのでしょう。その後ハチャメチャな事をさせられるとは今の段階で知らないシルフィードですが、とりあえず本編を読んでいる限り使い魔と主人の関係はうまく続いているようです。
次に「タバサと老戦士」ですが、これは今までのどの話よりも怖かったですね。むしろ怖いよ言うよりも不気味といった方が適当かも知れませんね。タバサもシルフィードも何も気づかなければ何の問題もなくこの物語は終わっていたんです。いや、タバサとシルフィードが気付いたとしてもこの物語は終わっていたんですね。何しろこの村に人はたった一人しかいなのですから。さて、もし私がこの老戦士だったとしたら果たしてどう思うのですかね。確かに何も知らなければそのままそれなりに幸せに人生を全うできたかもしれませんね。ですが、その人生は新しい発見も何もない人生、それは死んでいるのと同じなのではないかと考えます。確かにこの村人全員が実はガーゴイルだと知ったら絶望するのでしょうね。自分が信頼して来た人たちが誰もいない事を知ってしまうのですから。ですが、確かにそれを知って絶望するでしょうけどそこから新しい人生を始める事も出来ます。少なくとも止まった人生ではなくなると思います。私だったら本当の事を教えてもらいたいです。そして、一回死ぬほど絶望してそこからもう一度新しい人生を歩んでいきたいです。そんな事を考えさせられるエピソードでした。
次に「タバサと初恋」ですが、これは完全に「ゼロの使い魔12〜妖精達の休日〜」の「水精霊騎士団、突撃せよ」のタバサ視点ですね。それだけにタバサの落ち着かない心理描写がよく書かれたエピソードだと思いました。タバサは才人に対するこの気持ちを知りません。とにかく落ち着かない、気分が変になる、それでも傍にいたい、そんなまとまりのない行動が垣間見れました。この際タバサが才人を好きなのかどうなのかは置いておく事にします。重要なのは、才人がタバサにとって非常に重要な位置づけになった事、才人の影響でタバサの行動に良くも悪くも変化が生じた事です。今まで無感情に(正確には怒りですが)任務をこなしてきたタバサですがこのままではタバサは本当の意味で成長出来ません。それを才人が手助けしてくれたんです。その事が一番大切なのではないかと考えます。今後タバサが才人に対してどういう行動に出るかは分かりません。ですがそれがどういう結果になっても、タバサにとって後悔の無いものになってくれればと思います。
そして、今巻にとって最も重要なエピソードである「タバサの誕生」です。ついに明かされたオルレアン家に起きた事件の全貌、そしてその後シャルロットがタバサになるまでのエピソードが語られていました。これは私も是非読んでみたかったエピソードでした。それにしてもやはり悲しいな話ですね。既に「ゼロの使い魔15〜忘却の夢迷宮〜」でジョセフの心理は分かっているので簡単に割り切る事は出来ませんが、人の心が生み出した最大の悲劇なのではないかと思います。そして、元々は感情豊かだったシャルロットをタバサに変えてしまったのは「怒り」、それも「凍えるような悲しみから生まれた怒り」でした。メイジの魔力は感情の大きさに左右されます。皮肉にもタバサの魔力の大きさはこれら一連の悲しい事件が切っ掛けだったんですね。自分の魔法が生き物を殺してしまった、自分の魔法の未熟さが人を殺してしまった、自分のが何も出来なかったから父と母を失ってしまった、そんな様々な負の感情から生み出された怒りは何人も叶わない物でした。今でこそ魔力の強さで活躍しているタバサですが、やはりいつまでもあのシャルロットのままの方が幸せだったのかも知れませんね。そんな事を思わざるを得ないエピソードでした。
という訳でページ数の割に内容盛り沢山の巻でした。本編も先読み出来ない展開となった中、タバサの事がもっとよく分かってすっきりする事が出来ました。先に言った通りタバサが北花壇騎士として活躍する事は無いのでこれが最後の外伝かも知れません。それだけに実に核心的な内容ばかりでした。もしかしたら他のキャラクターで外伝が出るかも知れませんね。そんな事を期待しつつ今回はここで終わりにしたいと思います。
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