M.M ゼロの使い魔 インプレッション
5、ゼロの使い魔5 〜トリスタニアの休日〜
2008/7/17更新
今回は短編集でして、大きなシナリオ展開はありませんでした。それだけに、個々の人間の心理描写を中心にした物ばかりでした。
まずは「『魅惑の妖精』亭」ですが、これはひとえにルイズの成長物語ですね。今まで貴族としての生活しかしてこなかったルイズにいきなり平民の生活をしろというのもまあ無理な話ですね。ですが、ここでの問題は生活のギャップに慣れるというところに重きを置いている訳ではありません、たとえプライドがあってもそれを任務と割り切って遂行するという点にあります。本当にルイズは悔しかったのでしょう。自分は有名な貴族の出、こんな下世話な平民に媚を売るなんて本当にありえない話です。でも、ルイズは気づいていなかったのです。自分が平民に媚を売ったところで誰もルイズの事を軽蔑しないという事に。対外こういう自分のプライドに関わる出来事は自分しか気にしていないものです。それでも人というものは自分の行動に対する他人の気持ちを気にしたがるものです。ルイズもその例にもれず、むしろ人一倍プライドが高いが故に他の店員のようなマネは中々出来なかった訳です。ですが、さすがにルイズも自分の馬鹿さ加減に気づいたのでしょう。下手にプライドを振りかざす事はその分だけ自分の品格を落とすという事に気づく訳です。そしてその事が才人やアンリエッタの信頼を失うという事に。時には貴族の礼に反することでもやらなければいけない事もある、そんなルイズが一つ成長する瞬間の出来事でした。
次に「炎の出会いと風の友情」ですが、やはりこの二人はお似合いの友人ですね。確かに元からかなり仲がよかったので何か裏があるなと思ってましたが、なるほどこんな裏話があったんですね。何と言いますが、私の予想ですがこの二人はこの事件がなくてもいずれ勝手に仲良くなったのではないでしょうか。何故なら、この二人は他のクラスメイトに比べて圧倒的に大人だからです。この二人は確かにトリステインの生まれではありません。最初に外れものにされたのはこれが原因でしょうが、後にクラスメイトとつきあい出して自分と他とでは思考のレベルが違うという事に気づいた訳です。だからこそキュルケもタバサも他人にあわせずマイペースに振る舞っていた訳です。ですが、マイペースだからといって他人に対する心遣いを持っていない訳ではありません。キュルケにもタバサにもそれなりのポリシーがありました。だからこそ、二人が対峙した時に意気投合出来たのではないかと思います。そして、その後はお互いの誤解も解けて二人は完全に仲良しです。有るべくして有る関係になっただけです。おそらく、この二人の友情は死ぬまで途切れる事は無いでしょう。
最後に「トリスタニアの休日」ですが、いよいよアニエスの登場ですね。アニエスはこのゼロの使い魔シリーズの中でもかなり好きなキャラクターです。なんといっても信念が完全に一本通ってますからね。全体的に緩めのキャラクターが多い中でこういう一本ピシッとしたキャラクターがいると物語全体もピシッとする感じがします。で、物語もこのショートシナリオで少し進む感じでしたね。それも初登場のアニエスが大活躍です。と言うよりもアニエスがカッコよすぎです。そう思うのはおそらく、今まで絶対的だった貴族に平民が立ち向かい勝利したという事が大きいのだと思います。アニエスの心を支配しているのは自分の故郷を奪った者たちへの私怨です。アニエスはただその復讐達成の為だけに技を磨き今の地位を手に入れたのです。そして、その思いはついに達成されました。貴族の魔法によって深手を負ってもなお貴族に噛みつきました。今までにも争い的な物語は幾つもありそこには悲しいエピソードが含まれていましたが、今回の争いは久々に感動しましたね。決して派手でも壮大でもない戦いでしたが、たとえ立場が違えど想いの強さで幾らでも結果を変えることが出来るという事を教えてもらった気がしました。
という訳で、今回は短編集の感想を一つ一つ書いてみました。ゼロの使い魔はそのキャラクターの魅力に対して意外と重い設定とシナリオです。一冊まるまるのシナリオだと意外とお腹一杯になってしまします。そんな中で今回のような短編集がくるとちょっと気を休められますね。次回からは再び本編に戻るのでしょう、今後どういう展開になるのかが楽しみです。
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