M.M 涼宮ハルヒシリーズ インプレッション


1、涼宮ハルヒの憂鬱

2007/9/9更新


 読み終わってみて正直思った事は、この「涼宮ハルヒの憂鬱(以下憂鬱)」、各キャラクターの紹介にほとんど重点を置いてる構成でありながら、見事に微笑ましく涼宮ハルヒが抱えている「憂鬱の内容」とその「解消」を描いたなぁ思いました。

 全7章に別れている憂鬱ですが、第1章〜第2章は「各キャラクターの紹介」、第3章〜第5章は「各キャラクターの正体」、第5章〜第6章は「各キャラクターの正体の証拠」、第7章で「涼宮ハルヒの憂鬱の解消」と、大まかに分ける事が出来ると思います。これだけシンプルな構成だと、読者がこの涼宮ハルヒの世界観に入り込むのは易しいなぁと思ったわけです。

 そして、メインキャラに当る「涼宮ハルヒ」と「キョン」に関しては絶妙な心理描写がなされていると思いました。基本的に、この2人が世界に対して思っている事はほとんど同じです。2人とも、「宇宙人や未来人や超能力者みたいな、現実にはありえない面白い出来事がやって来ないかなぁ」と思いつつも、「現実にはそんなことは起こりえない、あきらめるしかない」としっかり現実を見つめている側面も持っています。ただ、それに対して涼宮ハルヒは積極的に面白い事を見つけようとして動いており、キョンはそれをほとんどあきらめて普通の生活に楽しみを見出そうとしているだけです。だからこそ、キョンは涼宮ハルヒの突発的な行動に半ば飽きれつつも、それを必死に止めないで何だかんだ言って面白がっているわけです。

 そして、涼宮ハルヒには特殊能力が備わっていました。それは、「自分の思い描いた世界に、今ある世界を作り変えてしまう能力」です。これの切欠は憂鬱本編から3年前、涼宮ハルヒが小学生の時に野球観戦に行った事でした。それまでの涼宮ハルヒは、今までの世界が「面白い・楽しい・特別だ」と思っていたのに、野球観戦している多くの人間を見て、そう思っているのは自分だけじゃないと思いました。言ってしまえば涼宮ハルヒは、今まで涼宮ハルヒが送っていた生活は「相対的に普通」なものだと認識してしまうわけです。そして同時に、この相対的に普通な生活は自分一人の力ではどうしようもないという事も悟ります。この「理想と現実」のギャップが、涼宮ハルヒの「憂鬱」の原因です。

 ここで重要なことは、涼宮ハルヒの憂鬱の原因は、あくまで一般の人間と自分の生活が「相対的に普通」だという事です。これが、涼宮ハルヒが持っている「世界を変える能力」に自分自身が気づかない原因です。涼宮ハルヒは中学に入ってからは積極的に世界を面白くしようと努力します。実は既にこの段階で、世界は涼宮ハルヒの思い描いていた世界に作りかえられていました。その例として、「長門有希」「朝比奈みくる」「古泉一樹」の誕生です。ですが、自分の思い描いていた世界に今の世界が本当になってしまったら、涼宮ハルヒとしては何も面白くないに違いありません。何故なら、今の世界が涼宮ハルヒの世界に追いつくことで、涼宮ハルヒにとって「相対的に普通」になってしまうのです。この構図は、永遠に終わらないイタチゴッコを連想させます。つまり、涼宮ハルヒがあきらめないでもない限り、この「世界の変化」は止まらないはずでした。

 ですが、高校生活に入ってそれにも変化が訪れます。それが「キョン」の存在です。おそらく涼宮ハルヒは、キョンの事をいつの間にか「好き」になっていたのではないでしょうか(これはキョンも同じ)。だからこそ、第7章でとうとう涼宮ハルヒが今の世界に絶望して、徹底的に新しい世界にならないかと願った時に、キョンのキスで元の世界に帰って来れたわけです。では何故好きという気持ちとキスが関係しているのか。それは、その直前のキョンのセリフにあります。キョンは言いました「今までの世界でも十分面白いことがあった。俺は今までの世界に帰りたい。」と。そんなセリフを聞いた涼宮ハルヒは思いました、「ああ、もしこのまま世界が新しくなったら、今のキョンをガッカリさせることになるんだ。」と。そして、心の奥底でキョンのことを好きだった涼宮ハルヒに対してそのキョンからのキス、ここで涼宮ハルヒは「このキョンの大好きな今までいた世界に、キョンと一緒に戻りたい」と思ったわけです。だからこそ、世界は間一髪のところで元通りになったわけです。

 この事は、涼宮ハルヒの能力が無くなった事を意味しているわけではありません。ですが、涼宮ハルヒがキョンの事を好きでいてくれる限り、大きな世界の変化は無いと思われます。言ってしまえば、涼宮ハルヒによる世界の変化の「片棒」をキョンも持つことになったと言う解釈も出来ると思います。まあいずれにしても、当分世界は安泰なままに過ごされることになると思います。

 と、後半は何やら説明チックになってしまいましたが、人間なら誰しも思うであろう願望(宇宙人や未来人や超能力者みたいな、現実にはありえない面白い出来事がやって来ないだろうか)を、このような量子力学の他世界解釈みたいな世界観と、普通の高校生らしい純粋でこそばゆい思いを交えた非常に魅力のあるシナリオでまとめ上げたのは見事だと思いました。なるほど、これならこの「涼宮ハルヒシリーズ」が人気沸騰にあるのもうなずけます。何よりもこれでメインキャラの紹介も済んでしまったわけです。今後の涼宮ハルヒシリーズがどのような展開になるか、非常に期待してしまいますね。


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