M.M イリヤの空、UFOの夏 インプレッション
4、イリヤの空、UFOの夏 その4
2009/8/22更新
…この物語のテーマ、それはきっと非常に単純な事だったんだろうと今になって思います。それは「生きる目的を見つける事」、たったこれだけの目的を見つける為の夏休みだったんです。という訳で最終話「イリヤの空、UFOの夏 その4」です。
浅羽直之にとって、この夏休みは実に特別だったのだと思います。それはやる事出会う事起こる事が特別だったのもありますが、何よりもありとあらゆる物事を捨てて自分の意志で行動したという事にあると思います。何も今まで自分の意志で行動してこなかった訳ではありません。ここでいう自分の意志というのは、自分の限界を目指して自分のやりたかった事を目指したという事です。「イリヤを助けたい」、目的はこれです。ですが、それは浅羽直之という一中学生には到底無理な話で、中学生なりに頑張ったところで答えは目に見えています。そして、今までの浅羽直之だったら途中で無理だと悟って諦めていたでしょう。そして、それでも自分なりに頑張ったと最後に自己弁護して納得するでしょう。いや、これが普通です。むしろこれが最高の行動だと思います。ですが、この時の浅羽直之は違っていました。たとえ無理だと分かっていても、自分の身が朽ち果てるまでイリヤを助けようとしたんです。そんな浅羽直之の自分の意志の表れが、今回の逃避行だったのでしょう。
まあ、紛いなりにも浅羽はあの水前寺の傍にいたという事でそれなりに考えての逃避行だったと思います。それでもあらゆる場面で非常になれなくて甘さが出てしまうあたりが人間らしくていいですね。たぶん途中学校に潜伏する辺りが浅羽のピークだったのかも知れませんね。その後線路の上でイリヤに取り返しの無い一言をぶつけてしまう訳ですが、こんな言葉を発するほど本当に衰弱しきっていたという事です。浅羽は悪くありません。むしろ自分の見や立場をよくぞここまで犠牲にしてよくぞイリヤを守ったと思います。そしてその後イリヤが壊れた後もなんとか気持ちを奮い立たせて、見事最後の道までたどりつけたと思います。
ただ、そこまで来ても最後の一言を言えませんでした。むしろその事にすら気づいていなかったですね。結局イリヤが戦争を終わらせ、いつもの日常が帰ってきたと思ったらそんな事はありませんでした。むしろイリヤは出撃を拒否し、全てを否定し全てを拒絶していました。そんな姿を見たせいなのでしょうか、やっと言えましたね。そしてやっと完全にイリヤを守ろうと決意出来たんですね。
「ぼくは、伊里野のことが好きだ」
そして、そんな浅羽の気持ちは確かにイリヤに通じていましたね。まあ元々イリヤを学校に通わせたのは何とかイリヤをブラックマンタの操縦者として機能させることでしたが、浅羽の気持ちとは裏腹に皮肉にもその目的は果たされてしまった訳です。ようやくイリヤは自分の目的を見つける事が出来ました。そして、ブラックマッタの操縦者としてUFOと闘う決意を固める事が出来ました。
「浅羽のためだけに戦って、浅羽のためだけに死ぬ。」
果たして空に帰ったイリヤはどうなったのでしょうか。ですが、この点について語るのはもはや意味を失っていると思います。何故なら、浅羽直之と伊里野加奈の中で既に目的は果たせたのですから。この瞬間に、長い夏休みは終わったのですから。辛いエピローグでしたが、物語のテーマ性に拘った傑作だと思います。楽しかったです。