M.M イリヤの空、UFOの夏 インプレッション


5、総評

2009/8/22更新


 私の言いたかった事は実は「イリヤの空、UFOの夏 その4」であらかた言ってしまったのですが何とか捻り出してみます。この物語にとってシナリオというものはあまり意味を持ちません。この物語にとって最も重要なのはズバりテーマです。そして、そんなテーマを達成するためだけにこのシナリオがあります。さて、そんなテーマですが、それは「生きる目的を見つける事」です。単純そうで実に壮大なテーマですが、彼らにとってこれが全てだったのです。特に主人公である浅羽直之とメインヒロインである伊里野加奈にとっては、生きる目的を見つけた瞬間に物語が終わったんです。そんな、テーマ性をくっきりと浮き出した傑作だと思います。
 この物語は浅羽直之と伊里野加奈の為の物語です。したがってそれ以外のキャラクターはおまけでしかありません。確かに魅力的なキャラクターばかりでした。そして、本編中でも各キャラクターごとに視点を用意し、どのキャラクターも疎かにしない姿勢が伺えました。しかし、それすらも浅羽直之と伊里野加奈の二人を盛り上げるために演出でしかありませんでした。なぜなら、他のキャラクターの注目は全てこの二人に向けられていたのですから。
 そして、あの終わらせ方は果たしてどうだったのでしょうか。私はあれはあれで良しだと思っています。なぜなら、彼らは生きる目的を見つける事が出来たのだから。生きる目的を見つけた二人にとって、その後どうなるかは全く意味をなさないのです。ですが、それはあくまで二人だけの事情であって他のキャラクターや我々読者はどうすればいいのでしょう。こんな中途半端な気持ちで終わらせられるでしょうか。結構多くの人はポカーンとしたと思います。まあ、仕方がないんです。これは二人のためだけの物語なのですから。我々がこれ以上踏み込む事は許されない、いや不可能なのですから。そんな、一つのテーマに向かって走った物語でした。



 それでは引き続き登場人物ごとに感想を書いていきます。

■浅羽直之
 主人公です。誰よりも一般的でどこにでもいそうな中学生です。そんな浅羽直之ですが、イリヤを救うというたった一つの目的を見つけてからは誰にも止める事の出来ない行動力を示します。彼は本当に普通の中学生なんです。彼がどんなに逆立ちしたって、国家機密の軍事組織に勝てるはずがないんです。それでも最終的に浅羽直之はイリヤを守る事が出来ました。最後の最後で、浅羽はたった一つの目的を達成することが出来たのです。これで、ようやく浅羽直之の長い長い夏休みが終わりました。次の目標は何でしょうか。彼ならどんな目標でも突っ走っていけそうです。

■伊里野加奈
 メインヒロインです。自分の人生・気持ち、そういったありとあらゆる全てを犠牲にしてUFOと闘ってきた少女です。浅羽直之と関係をもつことも結局はブラックマンタに乗ってもらうための作戦の一つでした。それでも伊里野加奈はやはり一人の少女でした。生まれてから全てを犠牲にしてきた彼女でも、やはり生きる目的を持ちたかったんです。そしてそれは与えられるものではなく、自分で見つけて自分で叶えていくものでなくてはいけないんです。だからこそ、最後の「浅羽の為に死ぬ」という目的を手に入れられた彼女は最高に幸せだったのでしょう。空に帰った伊里野、彼女の夏もまた、ここで終わりを迎える事が出来ました。

■水前寺邦博
 浅羽直之の友人であり、園原中学校新聞部の部長であり、イケメンであり、天才であり、ぶっ飛んだ奴です。いつも自分の興味を持った事だけに首を突っ込み、飽きたらポイ。やっぱり天才は違いますね。そんな彼ですが我々読者にとっては希望でもありました。なぜなら、一般社会という日常の立場で唯一軍の機密という非日常の世界に届いたのですから。結局彼は殿山で何を見たのか、それは最後まで語られることがありませんでしたが、この瞬間彼の思いも報われたのですね。

■須藤晶穂
 浅羽直之の友人であり、園原中学校新聞部の部員です。彼女もまた普通の中学生でしたね。水前寺と対立し浅羽を引っ張る姿は頼もしさもありましたが、浅羽に思いを寄せている様子は本当に普通の中学生でしたね。ですが彼女は最後の最後まで一般人である日常の立場の人間、浅羽直之と伊里野加奈の二人の目的達成の前にはちょっと甘かったという事です。途中ですっかり影をひそめてしまいました。それでも彼女の正義感と食欲には恐れ入りました。

■榎本
 園原基地の一員であり、イリヤの監視員です。ある意味誰よりもイリヤの事を理解しており、つねにイリヤの為に行動していました。しかし彼は軍人、最終的にイリヤをブラックマンタに乗せる必要がありました。そこで彼が考えたのが「子犬作戦」だったのですね。彼も辛かったと思います。浅羽直之、伊里野加奈の気持ちを理解しておきながらブラックマンタに乗せなければいけない、辛かったと思います。それでも最後は浅羽に思いを託し、何とかイリヤを空に返す事が出来ました。ようやく彼も解放されたんですね。

■椎名真由美
 園原基地の一員であり、イリヤの監視の為に学校に潜伏した諜報員です。彼女もまたイリヤの事を理解しており、イリヤの為に色々と尽力をします。そして、全てを知っているからこそ、浅羽直之の無責任な発言が許せなかったのですね。彼女も辛かったと思います。実際イリヤの代わりになりたかったのでしょう。ですがそれは叶わぬこと、何も出来ない自分に苛立っていたのかも知れませんね。



 とりあえず主要キャラクターについて感想を書いてみましたが、どのキャラクターもその思いは本物であり、自分に正直に生きる事が出来たのではないのでしょうか。





 まあ、正直私はこの言葉が聞けただけで満足です。それではこの辺で。








「ぼくは、伊里野のことが好きだ」
「浅羽のためだけに戦って、浅羽のためだけに死ぬ。」


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