M.M 半分の月がのぼる空 インプレッション


8、半分の月がのぼる空8 another side of the moon-last quarter

2009/6/28更新


 いよいよ半月もこれで最後となりました。最終巻である8巻も7巻と同様の短編集ですので、やはり感想も各章ごとに書いていこうと思います。

 まずは「雨(後編)fandango」ですが、まさか半月の真のエンディングがこんなところに待っているとは思いもしませんでした。最初は唯の文化祭で起こった出来事を描くだけの物語だと思っていましたが、最後の最後での結婚式の演出は、まさに裕一と里香にとってのエンディングに相応しいものだと思います。もちろん時系列的には6巻最後が一番未来ですのでそこがエンディングなのですが、学校生活がスタートしてこれを終わらせるにはやはりこういったエピソードが一番です。これは二人に約束された未来です。6巻の幕間に合った婚姻届のエピソードもそうでしたが、全てはここに繋がっているんですね。そんな「雨」でしたが、一つだけ大きな謎が残ってしまいました。それはどうしてこのエピソードのタイトルが「雨」なのかということです。雨模様での出来事でもありませんし、誰かの心に雨が降っている訳でもありません。あとがきとかに書いてあるかと思ったのですがありませんでした。なぜ「雨」なのか、やはりいくら考えても分かりませんでした。答えを知っている方、是非教えてください。

 次に「蜻蛉 dragonfly」ですが、これもまた時系列的にずいぶんと古いエピソードでした。時は裕一がまだ「正規で」二年の夏です。まだ里香と会ってないどころか肝炎にすらなっていないときの話です。このエピソードの焦点はおそらく二つだと思います。その一つは「裕一の心理状態」です。里香と出会ってからこそ裕一は里香の為に生きる決意を固めますが、会う前はやはり未来など全然考えてない普通の高校生だったんですね。そんな中少し年上の大学生の先生との出会い、ちょっと未来について考える切っ掛けを得た夏のエピソードでした。もう一つは「伊勢の名物点の紹介」です。作者である橋本紡は文章からも分かる通り地元である伊勢をこよなく愛しています。おそらくは、その伊勢の名物店を紹介したくなったのでしょう。こんな大衆的な店、普通に考えればその存在は決して地元以外の人には知られないと思います。こうやって誰かが行動を起こさないと決して認知されないんです。おかげさまでまんぷく亭には今や多くのファンが詰め寄っています。私も行ってみたいです。

 次に「市立若葉病院猥画騒動顛末記」ですが。これは7巻の「君は猫缶を食えるかい?」と同程度のギャグ的なエピソードですね。とりあえず、多田さんの素晴らしさがこれでもかと強調された話でした。まさか数千冊もあるとは思いませんでした。まさか入院患者の9割が嗜んでいたとは思いませんでした。流石多田さんです。偉大です。現在その全ては灰になってしまいましたが、かつては多くの人に読まれていたんですね。面白かったです。多田さんの来生に幸あれ。

 最後に「君の夏、過ぎ去って」ですが、これは更に昔のエピソードでした。今度は里香が中学生の時、まだ伊勢に来る前の浜松でのエピソードです。そして主人公はかつてのクラスメイトであった「吉野綾子」、ここにきて初登場のキャラクターです。彼女はとにかく自分の気持ちをハッキリ言えない子、それがジレンマになって前に進めない子でした。それが故に友人と深くかかわる事もせず浅く付き合い、それが嫌で自己嫌悪に陥ってました。そんな綾子がふとした切っ掛けで里香と出会います。忘れそうですが里香は本当に唯我独尊なんです。普通の人は関わろうとしません。それでも今回ばかりは自分の優柔不断さが役に立ったのでしょうか、里香にとっても綾子にとっても良い話し相手となりました、なるはずでした。最後は分かりあう直前で離ればなれになりましたが、自分の気持ちをストレートに出す里香との出会いは彼女にとって自分を変える大きなきっかけでした。自分の気持ちを真っ直ぐ伝える、出来そうでなかなか出来ないこの事をやってみる勇気を貰ったんです。結局綾子がその後どうなったかは分かりませんが、おそらく今でも里香のことは忘れていないでしょう。そんな外伝中の外伝のようなエピソードでした。

 とまあこんな感じのエピソードで本当に終わってしまいました。この短編集でいろんな人の語られざるいろんな気持ちを知った気がします。まあ私としては正直「雨」だけで一冊作っても良かったんじゃないかと思うくらいこの話が好きでした。二人の慎ましくも幸せな人生を表すようなエピソード、やっぱりこれが一番です。という訳で8巻も終わりです。全体的なまとめは今後の総評で書こうと思います。


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