M.M 半分の月がのぼる空 インプレッション


9、総評

2009/6/28更新


 この物語のテーマはおそらく「思春期の少年少女達が自分の生き方を見つける事」だと思いました。主人公である戎崎裕一は入院中偶然出会った少女である秋庭里香を一生支える人生を選択しました。この結論に達するまでに有に5巻もの時間を使いじっくりゆっくりと物語を紡いでいきました。ですが、こんな感じで自分の生き方を見つけたのは裕一だけではありません。裕一の親友である山西、司、そして幼馴染のみゆきもまた、裕一の行動を受けて自分自身の生き方を見つけていきました。
 高校生にとっておそらく「生きていく」という事がどんな事かはまだ漠然としか分からないと思います。そしてそれは、まだまだ自分の人生は長く終わりが見えないから焦る必要が無いという点からも来ているのかも知れません。ですが、秋庭里香はそんな事を言ってる場合では無いのです。彼女の人生は短いのです。おそらくは10年、長くても15年程度です。そんな彼女だからこそ自分の生き方というものを決断しそれに向かって生きる覚悟を決める必要があったのでしょう。そんな彼女に触れたからこそ、裕一をはじめ他の登場人物も自分の生き方を見つけられたのかも知れません。
 そうして見つけた自分の生き方ですが、決して自分の望んだ形のものとは限りませんでした。ましてや裕一は里香と一生暮らしていくためにずっと伊勢で生きなければいけないのですから。正直伊勢を離れて都会に出たいという思いはいつまでも持ち続けるでしょう。それでも裕一は後悔はしていません。なぜなら裕一にとって里香と生きる事がこの世界の中で全てだからです。そんなシンプルかつ大きな答えを見つける事、それがこの半月の物語の全てでした。



 それでは引き続き登場人物ごとに感想を書いていきます。

■戎崎裕一
 主人公です。そしてこの半月という物語は彼の成長物語と呼ぶことが出来ます。果たして本当に裕一は幸せだったのでしょうか。自分のあらゆる可能性を犠牲にして少しの年月を一人の少女の為に尽くすのです。そしてその後には何も残りません。本当に、自分の人生を全て里香に預けたのです。この事が正しいのかどうなのか、それはむしろ戎崎裕一がどう思ったかによるのでしょうね。そういう訳で、最後に満足げに「伊勢でいいです」と答えたところを見るとこれが最良の選択だったのですね。きっと二人は幸せな生活を営むと思います。

■秋庭里香
 メインヒロインです。この半月という物語の最大のキーパーソンにして中心にいる少女です。とにかく思ったのが「芯の強い子」という印象でした。果たしてこれは自分の運命を悟って受け入れたから得られた強さなのでしょうか。それもあるでしょうけど、それ以上に一緒に支えると誓った裕一の存在が大きかったのだと思います。今後厳しい事も辛い事もたくさんあると思いますが、芯のぶれないこの子ならどこまでも突き進む事が出来るでしょう。

■谷崎亜希子
 秋庭里香の看護師です。厳しい口調の中で色々と二人をサポートしてくれたりと、誰よりも里香の事を理解しており、誰よりも二人の幸せを願っています。そして彼女には物語上重要な要素がありました。それは「生涯伊勢に住むという立場」です。これはのちに裕一が歩む道でもあります。彼女もまた裕一に警告しました。「伊勢で良いのかい?」と。そんな質問に裕一はしっかりと答えた事で、ようやくこの人も安心して二人を送り出せる気になったのかも知れません。

■夏目吾郎
 秋庭里香の専属医師です。彼もまた里香の事をよく理解した人物でありますが、裕一には厳しい態度をとります。それは、かつて自分が歩んできた道を歩ませたくないという思いが強かったのでしょう。それでもそんな夏目の忠告を聞いてもなお強い意志を崩さなかった裕一に対して、それならばと自分に出来る限りの事をしようと決めました。彼もまた、裕一の歩む道です。そして小夜子と里香に解放された今、もう一度自分の夢の為に羽ばたいていきました。

■世古口司
 戎崎裕一のクラスメイトです。お菓子と料理とプロレスが好きで何となく将来を考えていた少年でしたが、裕一と里香の行動を見て具体的に動こうとする気持ちを見せます。彼もまた裕一と里香を応援してくれる一人であり、本編中では何度もマスクを付けて登場し助けてくれました。そんな彼にも大切にしたい人が出来、今後二人でそれなりに幸せな道を歩んでいくのだろうと信じています。

■山西保
 戎崎裕一のクラスメイトです。よく裕一をバカをやる仲間でありながらも、将来に不安を覚え弱い一面を見せる場面もありました。それでも基本的に裕一と里香を応援し尊重しており、裕一にとってかけがえのない友達である事に変わりはありません。良くも悪くも普通の高校生だったなといった印象ですね。

■水谷みゆき
 戎崎裕一の幼なじみでありクラスメイトです。とある事件で疎遠になっていましたが里香の登場で再び友達付き合いを再開させます。彼女もまた良くも悪くも普通の高校生だった印象がありますね。そして、彼女も裕一と里香の生き様から色々と人生について考えてみる訳です。のちに里香の一番の友達になり司と付き合っている様子は微笑ましいの一言ですね。

 とまあ主要キャラクターについて感想を上げてみましたが、一連の物語の中で全員が何らかの形で考え、成長している様子が伝わってきました。そして、とにかくこの物語に登場する人物全員が幸せになる事を願ってなりません。






 最後に一言。




皆に幸あれ


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