M.M 半分の月がのぼる空 インプレッション
6、半分の月がのぼる空6 life goes on
2009/6/28更新
いつのまにか半月の世界は半年も経過していました。裕一のA型肝炎も治り普段通りの日常が返ってきました。そしてその中にある一人の影、それは退院した里香の姿でした。お互いこの伊勢の街で最後の時まで生きていく。そう決心した二人の姿はまっすぐで、どんな事があろうともこの先の未来を突き進んでいくであろうと思わせるプロローグでした。そうしたら第一章の一行目に
#留年した。
ですからね。本当面白いです。
今回の主役は裕一と里香ではありません。もちろん物語は二人の視点で進んでいきますが今回の主役は二人を取り巻く他のキャラクターの全てです。簡単に場合分けすると「山西保」「世古口&みゆき」「吉崎多香子」の三グループです。そして三者三様の悩みを抱えそれら全てが裕一と里香に繋がる構成になっています。
まずは山西保です。いつも何かしらの騒動を起こし軽いノリで場の空気をかき回す山西ですが、そんな様子とはかけ離れた神妙な趣で裕一に相談します。それは進路の話、誰もが避けては通れない悩みです。裕一既に里香とこの街で暮らす決意を固めてますし何より留年した訳なので当面生活が大きく変わる訳ではありません。それに比べて山西は三年生、しかも秋です。当時の私は大学進学の為にとにかく勉強していた時期ですね。そんな時期だからこそ自分の進むべき道が見えない不安に駆られるんですね。そんな山西に裕一はあえてきつく当ります。何故ならそれが二人の間のコミュニケーション方法だからです。とにかくやってみるしかない、やらなければ分からない、単純ですが確かにこれが心理だと思います。それよりもむしろその後の裕一のセリフの方が心に残りましたね。
#「うらやましいのはオレだよ、山西!」
#「オレだって行ってみたかったんだよ!東京へ!」
次に世古口&みゆきです。彼らの悩みは表向きは恋の悩み、しかしその実態は自分の気持ちにけじめをつけて前に進む決心をすることです。前巻でたどたどしさこそあったもののお互いの距離を縮めあった二人ですが、その後はずっと次の一歩を踏み出せずにいました。どちらかが歩み寄れは自然と収まるところに収まる二人なのですが、それが出来ずにやきもきしていた三年の秋、言葉とは違う手段で二人はまた距離を縮める訳です。ですがそれでも戸惑いあと一歩煮え切らない世古口に裕一は素直にこんなセリフを吐きます。
#「すげえな、司。マジですげえな」
#「すげえよ、マジですげえ」
素直な裕一のセリフ、そしてその後の裕一のエール、この辺りでようやく世古口も覚悟を決めたようですね。みゆきを守りみゆきと一緒に生きていく決意を。
次に吉崎多香子です。彼女は今巻初登場ですが実に人間性のある人物だなと思いました。中学生から自分の力で周りを支配してきた訳ですがそんな自信を里香に完璧に打ち砕かれ初めて挫折を味わいました。そして、挫折を味わって今までとは違う世界で生活する事になって初めて見えたものもたくさんありました。その中で特に表現していた事は、地味で目立たなくても自分には無い素晴らしい能力を持った人がいる事に気づけた事ですね。おそらくこの挫折を味わなければ綾子の良さに決して気付かなかったでしょう。そして、今までのように人をまとめ上に立つ事だけが大事ではない事に気付けなかったでしょう。さらにそんな多香子の気持ちの変化に追い打ちをかけるような里香とのアルバイトでした。里香が土下座したんです。これは衝撃だったでしょう。強がり弱みを見せない事が大事じゃないんです、自分と向き合い素直になって人と接する事が大事なんです。そんな頭では分かってもなかなか実行できない高校生らしい悩みを抱えた多香子のエピソードでした。
さて、そんな三者三様の悩みとそれを克服した姿を見た裕一ですが、その本心はやはり未来に無限の可能性を持っている彼らへの羨望が詰まってましたね。そんな気持ちを表すセリフが上記のものです。彼らは自分の気持ちと努力次第でどこまでも進めるんです。でも裕一はどんなに頑張っても伊勢から離れられないんです。やっぱり羨ましいでしょうね。そんな裕一ですが、やはり里香に対する覚悟は相当のものですね
#「伊勢でいいです」
この一言が裕一の全てでしょう。伊勢でいいんです。自分には里香がいるからそれでいいんです。里香がいる伊勢がいいんです。強いですね。心からこのセリフを言える裕一ならこれからも大丈夫でしょう。そんな中での夏目のアドバイスも実に前向きであり現実的なものでした。
#「いいか、里香のいない世界を、おまえはたったひとりで生きていかなきゃいけないんだ。」
#「里香がいなくなったときのことを考えて、少しは準備しておけ。」
#「二十七とは八だ。それくらいから道を選び直せるようにしておけ。おまえの人生のために」
さすが裕一と同じ道を歩ききった人のセリフです。重いです。でもそれが現実です。そんな真理を組みつつなんと素晴らしいアドバイスでしょうか。
とりあえずこれで半月の本編は終わりだそうです。あと二巻ほどありますがどうやらサブシナリオや補足的なものになるそうです。まあ、裕一と里香、他の登場人物の気持ちが決まった以上これ以上物語が進む事も無いでしょうしね。二人のたった一つのシンプルな答えにたどりついた物語、最後の瞬間に立ち会える瞬間が楽しみです。
←半分の月がのぼる空5 long long walking under the half-moonへ 半分の月がのぼる空7 another side of the moon-first quarterへ→