M.M 半分の月がのぼる空 インプレッション


2、半分の月がのぼる空2 waiting for the half-moon

2009/6/28更新


 「半分の月がのぼる空2」の話の内容をまとめると以下の通りです、

・戎崎コレクションが里香にばれて喧嘩する
・主治医の夏目がやってくる
・そして許してもらう

これだけです。もちろん肉付きは様々ありますが骨組はこれだけです。正直言って殆ど物語は進行しません。何か大きな事件がある訳でもなく、季節が巡る訳でもなく、ただの病院でも裕一と里香のエピソードの一つを語っただけです。そんな感じの半月なのにそれでも引き込まれるのは、やはり何気ない日常の様子や心理描写が丁寧だからだと思います。

 里香は最終的に裕一を許しますが、直接「許した」と表現している訳ではありません。それでも許した事が分かるのは以下の会話からです。

#「女々しいね、裕一って」
#「悪いかよ」
#「別に悪くはないけど……」
#「じゃあ、いいじゃん」
#「あ、開き直ってるし」
#「復活復活」
#「さっきまで、今にも泣きそうな顔してたのに」
#「んなことないって」
#「もうちょっと虐めたらぜーったい泣いたと思う」
#「オレはね、心が優しいの」
#「優しいって……自分で言う?」
#「だって真実だし。ーーお、飛行機見っけ」
#「え、どこどこ?」
#「ほら、神宮のほう。飛行機雲をちょっとだけ引っ張ってるよ」
#「ほんとだ。あれ、どこに行くのかな」
#「どこだろうな。海外だったらいいな」
#「変なの。裕一が乗ってるわけじゃないのに」
#「そうだけどさ。なんかいいじゃん、遠くまでってのが」
#「遠くかあ」
#「どこまでもどこまでも行きたいよなあ」

この直前まで裕一は散々里香に攻められて相当参っていたのです。そして、里香も決して全て許した訳ではありません。それでも、こんな会話をされては誰もが里香が完全に裕一を許したんだなってのが分かりますね。明示的に許したって言わないのに明示的に言う以上に伝える事の出来るこの会話表現、こういうゆっくりで丁寧な物語進行こそ橋本紡の魅力なのではないでしょうか。

 そして、里香はずっと病院生活をしているので必然的に本が好きです。それを物語に組み込む事でより深く登場人物の心理を表現しています。前巻では芥川龍之介の「蜜柑」でしたが、今巻では宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」でした。屋上でこの銀河鉄道の夜の掛け合いの場面がありますが、これも仲直りした二人のエピソードで終わるものと思ってました。ですが、実際には里香の今の心情をこれでもかと表現している伏線だったんですね。カムパネルラの顛末を知っているからこそ里香はカムパネルラを演じ、そこに自分を重ねているのです。

 夏目に殴られ銀河鉄道の夜を読み終えた裕一はここでまた一つ里香の心の中を知る事となりました。そして時間は確実に無くなってきています。今後裕一はどう里香と接していくのか、まだまだ始まったばかりの半月ですが、劇的な場面が無いのに先が気になってしょうがないです。ホント。



P.S.私は基本的に本を読んでこなかったので「蜜柑」も「銀河鉄道の夜」も読んだことがありません。とりあえず半月を前巻読み終えたらこれらを読む事にします。


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