M.M Everett Effect
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
7 | - | - | 80 | 4〜5 | 2019/4/5 |
作品ページ | サークルページ (作品ページと同じ) |
<科学に対するアプローチを登場人物達の行動と選択肢という形で表現した作品だと思いました。>
この「Everett Effect」という作品は、同人サークルである「Sapience」で制作されたビジュアルノベルです。Sapienceさんは、Campus Notesシリーズを制作された4th clusterさんの代表であり私がかつて制作した電子ソムリエのプログラム部分を担当されたあおみかん氏と、センサリーデザイン(感覚の違いから生じる問題を解決するデザイン)を広める活動を行っているTENTONTOさんの代表であるユミズタキス氏の合同ユニットです。特にあおみかん氏とはビジュアルノベルを中心として、ウェブデザインやフリーランサーとしての考え方など様々なお話をさせて頂きました。ユミズタキス氏とも物理のお話をしたりと、個人的にも緩い繋がりをさせて頂いております。
「Everett Effect」は、かつて開発途上版とされている「Everett Effect - entangle(以下entangle)」と「Everett Effect - interpretation(以下interpretation)」をプレイさせて頂きました。その為ここでまとめているレビューにはentangle及びinterpretationと内容が重複する部分が多々ある事をご了承ください。物語冒頭の展開やシステム周りは本作と殆ど共通です。作品の雰囲気を味わるのであれば、上記の開発途上版を先にプレイする事をオススメします。現在ふりーむでも公開されておりますので、是非ダウンロードしてみて下さい。
・「Everett Effect - entangle」のレビューはこちら
・「Everett Effect - interpretation」のレビューはこちら
最後までプレイしてみて、この作品で伝えようとしている科学に対する想いが分かった気がしました。主人公であるあなたを始め、作中に登場する3人の女の子はみんな科学が大好きです。ですが性格やアプローチの仕方は3人とも様々であり、それが時に衝突を生んだり意思疎通の齟齬を生んだりします。好きな事をしているはずなのになぜかうまく進まない、その理由は大凡コミュニケーションの不全にあると思います。逆に言えば、それはしっかりと自分の考え方や想いを整理して相手に伝えれば解決するという事です。元々、同じ分野に興味を持ち好きなのですから、後はそれぞれの個性を認めれば自ずと解決します。そんな、4人のちょっとした衝突を繰り返しながら前に進んでいく様子が印象的でした。
そしてこの作品において触れなければいけない点、それは圧倒的な選択肢の多さとその意味についてです。entangleでも書きましたが、日常のほんの些細な会話から科学部分に関するところまで、とにかく多くの行動を選択させます。そして、それはそのままエンディングの形を決定付けます。私、正直プレイ前まではこれらの選択肢には特に意味はなく、あくまでプレイヤーもまた彼らと共に科学にアプローチしていく為の手法だと思っておりました。ですが、それがエンディング分岐に関係してくると分かった瞬間、全くもって選択肢の意味合いが変わってきます。自由に選ぶ選択肢から、攻略対象への選択肢へと変わってしまったのです。
entangleで私は「あなたが選んだ選択が正しい」と書きましたし、今もその気持ちは変わっておりません。そして、自分が選んだ選択肢に相応のエンディングへとたどり着きます。ですが、それだけでは全てのエンディングを見ることは出来ないのです。自分の意志と反する選択肢を選ばなければ他のエンディングにはたどり着けない、当たり前の事を言っておりますがこの事実が分かった瞬間に楽しみが増す人と楽しめなくなる人が出る事と思います。加えて、この作品はセーブ&ロードが自由に出来ません。セーブは特定のポイントを通過する時にのみセーブ画面が開きますし、ロードについては一度アプリを閉じて再び起動しなければなりません。このシステム周りの制約もまた、攻略難易度を上げております。
私は大凡1時間45分で一つのエンディングにたどり着きました。物語の中心にあるグラビトン装置の真実についても分かりましたし、非常に気持ちの良いエンディングでした。ですが、その後簡単に幾つか分岐を検証してみましたが、どうやら一筋縄ではいかないようです。再びはじめからを選び、敢えて自分の意思とは逆の選択肢を選ぶといった事も必要かもしれません。まずは一旦ここでネタバレ無しのレビューを完結させ、この先の分岐は直接サークルさんに確認して進めてみようと思います。自分が選ばなかった選択の先に待っている物語、それを見ないのも気持ち悪いですからね。何れにしても、科学に対するアプローチを登場人物達の行動と選択肢という形で表現した作品だと思いました。是非これから科学を志す全ての方にプレイして欲しいですね。面白かったです。
(2019/4/5 追記)
上記のネタバレ無しのレビューを投稿後、サークルさんに連絡を取り公式リプレイを頂く事が出来ました。サークルさんもアナウンスしておりますが、エヴェレット・エフェクトについてはその難易度もありどうしても答えを知りたい方への配布を行っております。ただしその条件はサークルさんに感想を伝えたりレビューを書いたりTwitterで感想を呟いたり、自分の気持ちを外部へ出す事です。是非皆さんも臆せずエヴェレット・エフェクトをプレイして感じた事を外に向けてみて下さい。最終的なプレイ時間は私で4時間40分でした。全てのエンディングを見る事で、より科学を好きになれると思います。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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なお、ネタバレ有りのレビューは全てのエンディングの内容を包括したものとなっております。
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<もし私の前に未知の出来事が起こった時、その時は決して真実を曲げない選択をしたいものです。>
私が初回プレイでたどり着いたエンディングは電磁気力でした。突然榊原先生が小物っぽくなり(失礼!)、それを中学生らしい行動力で乗り越えるテンションの高いエンディングでした。同時に波動関数の収束の伏線を回収し、グラビトン発生装置に1つの決着を付けてくれました。ですがこれは電磁気力です。グラビトンが媒介となっている重力ではありません。サークルさんから公式リプレイを頂き、必ず重力は最後に攻略しようと思っておりました。そしてそれは読み通り正解だったと振り返っております。
始めに強い力からいきます。これは電磁気力と対になってました。グラビトン発生装置によって平行世界の自分達を見る事が出来た主人公、そしてそんな彼らに干渉出来たからこそ榊原の野望を阻止する事が出来ました。グラビトン発生装置に空の情報を載せて起動するとエンタングルメントが解除される、それを求めている世界が電磁気力でありそれを実現できた世界が強い力でした。物理学においても、力の大きさの順番は強い力>電磁気力>弱い力>重力です。ですが力が影響する領域は重力=電磁気力>>強い力≒弱い力です。強いけど狭い、だから電磁気力が届いて初めて相互に協力できたのかななんて思っております。そんな王道展開らしい、爽やかなシナリオでした。
続いて弱い力ですが、これは正直予想外でした。まさかこのエヴェレット・エフェクトで恋愛が見れるとは思っても見ませんでした。まあ、彼らは思春期真っ盛りの中学生ですからね。科学という共通点で知り合った異性がいつの間にか気になっている、そんな事は普通にあると思います。量子暗室で見た美しく光何か、私の解釈では恐らく平行世界の稜が重ね合わさった姿なのかなと思っております。どこか神秘的ですが目の色は同じでした。後は様々な情報が重なってますので白になったのだと思っております。もしかしたら、稜が見ていたのは光り輝く主人公だったのかも知れません。そんな特殊な環境での告白、多少の吊り橋効果があったとしても意識してしまうのは必然です。結果として優秀賞になった辺りに弱い力という名前を付けた理由を感じます。それでも、彼らの人生ですので是非末永く幸せになって欲しいと思いました。
そしてこの作品のメインとなっている重力についてです。ネタバレ無しのレビューやentangleでも書きましたが、この作品は科学に対するアプローチを丁寧に書いたものであり是非理科を志す多くの人に読んで欲しいと思っております。そして、その最も理想的であり最も決断が必要な状況にぶつかったのがこのシナリオの彼らでした。私も修士までしか研究生活を送ってませんので、修士論文は書きましたが実際のところ過去に書かれた教科書や論文を読み解きその理論の上でオリジナリティを加えただけでした。自らこれまでにはない新しい理論を打ち出したり、既存の理論が間違っているという提言が出来た訳ではなかったのです。
この作品では、それを天動説と地動説の例えを使って表現しておりました。別に天動説が間違っている訳ではありません。地球を原点に据えても、惑星の軌道を表現する事は出来ます。ですが、それでは座標の取り方が難しく複雑な数式になってしまいます。そうであるのなら、初めから太陽を原点に据えて表現すればいい。今となってはこんなに簡単に言う事が出来ます。ですが、当時は科学の黎明期でありどちらかと言えば宗教や神が台頭している時代でした。地球が中心ではないという発言は神への冒涜、理論を精査する以前の話だったのです。だからこそ、それでも地球は回っていると発言したガリレオ・ガリレイの勇気には敬服するものがあり、科学者は見習わなければいけないと考えております。
主人公たち4人が直面した実験結果は、波動関数が収束しない現象でした。コペンハーゲン解釈は観測する事で1つの情報に収束する事を告げており、現代ではそれが当たり前だと思われております。ですがそれでは説明が付かない現象が起きてしまいました。そうであるのなら、既存の理論とは違う新しい理論を打ち立てる必要がありますね。この瞬間に立ち会えた事こそ、科学者としての最大の喜びなのではないかと思っております。「新発見!?」と4人で叫んだあの姿、正直羨ましくすら思いましたね。
そして私が感動した点、それはそんな不完全な彼らの発表に最優秀賞を与えたスタッフの姿勢です。他の学部学科は分かりませんが、少なくとも物理学会のスタンスは研究の前に全ての人間が平等です。学生は教授を先生とは決して呼びません。先生と呼ぶ事、それはその瞬間に自分と相手が対等ではないという意思を示した事であり、研究者として平等ではないと言っている事です。これが物理学会のスタンスです。エヴェレット・エフェクトは、そんな物理学会の姿勢の部分もしっかりと踏襲しておりました。榊原先生を始め、スタッフは彼らを中学生だからといって侮ったりはしなかったのです。しっかりと発表を聴き、論文を読み、自然科学に向き合って評価を行いました。そんな、物理学会的な姿勢を見れた事に一番感動しました。
未知の出来事に出会った時、あなたはどのような行動をするでしょうか?私だったら、世の中の常識に照らし合わせて一生懸命つじつま合わせを行おうとすると思います。世の中を疑うのは、今浸かっている常識から外れる事であり1人になる事です。正直怖いと思います。ですがその壊した先にしか真実が無いのであれば、自信を持って前に進んでみましょう。ちゃんと理由があるのですから。最後に「これからどんな人生を歩んでいくの?」という問いかけがありました。何かクリエイティブな事が出来なくても、新発見が出来なくても構わないと思います。ですが何か知らない未知の出来事に遭遇した瞬間、そこには必ず選択肢があります。その時どんな選択をするのかは、あなた次第なのでしょうね。ありがとうございました。