M.M Everett Effect - entangle




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 - - 75 〜1 2017/2/20
作品ページ サークルページ
(作品ページと同じ)



<選択肢を選ぶ中で是非作品の中に入っていき、研究や科学といった物に思いを馳せて欲しいですね。>

 この「Everett Effect - entangle」という作品は同人サークルである「Sapience」で制作されたビジュアルノベルです。Sapienceさんは、Campus Notesシリーズを制作された4th clusterさんの代表のあおみかん氏と、センサリーデザイン(感覚の違いから生じる問題を解決するデザイン)を広める活動を行っているTENTONTOさんの代表であるユミズタキス氏の合同ユニットです。あおみかん氏とはCampus NotesシリーズのみならずCOMITIAのサークル部活動の一つであるノベルゲーム部でも関わらせて頂きました。当時制作した「電子ソムリエ」はそのプログラムを全てあおみかん氏に制作して頂き、現在も中身を変えながら使わせて頂いております。そんなあおみかん氏が関わっている新しいユニットの作品が今回レビューしている「Everett Effect - entangle」です。テーマは科学。完全に私のフィールドという事で楽しみにプレイ始めました。

 タイトルにある「Everett」とは、アメリカ合衆国の物理学者であるヒュー・エヴェレット3世の事を指しております。彼は論文の中で非常に興味深い解釈を提唱しております。それはエヴェレットの多世界解釈(Everett interpretation)と呼ばれるものでして、量子力学の観測問題における解釈の一つです。多世界解釈という言葉そのものはSFなどで聞いた事があるのではないでしょうか。世界は選択の数だけ無数に広がっており、それは同じ時間軸で同時に存在しているといったところでしょうか。量子力学的には波動関数や不確定性原理などにより定性的に示されるものですが、ここでは割愛しましょう。この多世界解釈が直接この「Everett Effect」の本筋に関わってくる訳ではありません。ここで大切なのは、未来は誰にも分からないものであり自分の選択次第でどうにでもなるという事だと思っております。

 主人公は中学三年生の男子です。名前は自由に付ける事ができ決まっておりません。とある切っ掛けで学外で行われる科学コンクール「朝宮科学賞」に参加する事になります。コンクールでは予め決められたチームに所属して、そのメンバーと共に一緒に研究を進めていく事になります。主人公のチームメンバーは、仕切り屋で活発な冠野リリ、天真爛漫な元気っ娘朝倉輝未、クールなお嬢様二色稜の3人を加えた計4人です。性格も個性も様々な彼女たちですが、科学に対する情熱は人一倍で大人顔負けのものを持っております。彼女たちと研究をしていく中で主人公はどのような選択をしていくのか、そしてその選択の結果未来はどう変わっていくのか、忘れられない研究生活が幕を開けるのです。

 この作品の最大の特徴として選択肢の多さが挙げられます。とにかく多いです。彼女たちを始め人から質問される事もあれば、周りの人の行動に対してどう思うのかまで様々です。まるで自分自身がその場にいるかのような錯覚を覚えます。ですがこれこそがこの作品の魅力です。自分が唯のプレイヤーではなく実際に朝宮科学賞に参加して彼女たちと一緒に研究する、そんな気持ちになる事が出来ます。いわゆる分岐の為の選択肢ではなくプレイヤーを作品の中に取り込むための選択肢ですね。そういう意味で、全ての選択肢をコンプリートするような気持ちではなく純粋に自分がどう思ったかに従って選んでいくのが良いです。どの選択肢が正解とかありません。あなたが選んだ選択が正しいのです。多世界解釈の様に無数に広がっているのかもしれない、いやもしかしたら収束しているのかもしれない。そんな事を考えながら進めていくのも良いかも知れません。

 そしてもう一つこの作品には特徴があります。それは科学に対するアプローチの仕方です。この作品に登場するのは中学三年生の男女です。普通の中学生であれば、テストの点数が高い低い、今日はどこで遊ぶか、部活が忙しいなど考えていると思います。ですがこの朝宮科学賞に参加している中学生は全国から選ばれた中学生であり、科学に対する情熱と知識は相当高いものです。だからという事もあるのでしょうが、担当講師は彼らが中学生だからといって決して甘やかしたりはしないのです。勿論研究テーマを与えたり質問を受ければ回答はしますが、あくまで彼らの自主性に任せて自分から道を指し示すことはしません。研究とはどういうものか、科学とは何なのか、それを掴み取るのはあくまで自分自身。それは現実の研究生活と何も変わる事はありません。

 私自身大学大学院と物理学を専攻しておりました。特に大学院時代は原子核物理を研究する研究室に所属して修士論文を書き上げました。ですが実際は修士論文を書いたといっても一から十まで自分で書いた訳ではなく、研究室の先輩や指導教官に手とり足とり教わりながら書き上げました。大切なのは、この修士論文にどこまで自分の意思を込められたかだと思っております。人間どんなに特定の分野に興味を持ったとしても独学では限界があります。それはかつて歴史の中で偉大な法則を見つけてきた科学者の歴史をなぞる事に等しいですし、そんな事は不可能です。だからこそ世の中には教科書があり参考書があり自由に読める論文があるのです。基礎的な知識や技術そういった本や人から教わるのが一番の近道であり、その中で少しオリジナリティを加えられれば万々歳だと思っております。

 「Everett Effect」の中でも、材料は素材は用意しておりますがそこから先の道については用意しておりませんでした。それらは自分自身で見つけるものであり、それが出来るものが科学者になれるのです。時には意見の衝突もあると思います。どれだけ考えてもわからない事もあると思います。ですが彼らはまだ中学生です。大切なのは科学に対する興味と情熱です。分からない事にぶつかったらはい終わり、ではなくそれを分かろうとする気概が大切なのです。作中でも「好きなこと、とことんやったらいいんじゃない?」と言うセリフがありました。まさに学生だからこそ許された特権であり、そういった気概を身に付ける事がきっとこの朝宮科学賞の目的なのかなと思っております。是非皆さんも科学とは何か、研究とは何か、かつて研究者を志した事がある人も、現在研究者の人も、全然関わりのなかった人も是非考えてみて頂ければと思います。

 プレイ時間は私で50分でした。この作品は「Everett Effect」という作品の開発途上版です。あくまで「Everett Effect」という作品の雰囲気や登場人物のキャラクターを把握する為のもので、物語の本質まで伺う事は出来ません。それでも彼らがどうやって研究をしていくのかの足掛かりは感じる事が出来ます。沢山の選択肢を選んでいく中で、自分がその場にいたらどのような研究をしたいかという視点で選んでみるのが面白いと思いますね。またシステム周りについては、ビジュアルやデザインはあおみかん氏らしい洗練されたもので好印象ですが、セーブ&ロードなどの機能は一切ありません。またBGMや効果音すらありません。初めから過去に戻れる事を想定してないんですね。あくまでこれは開発途上版ですので、完成版が出来上がるのを楽しみにしましょう。オススメです。


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