M.M 紅 インプレッション
1、紅
2011/5/7更新
この物語は紅真九郎と九鳳院紫の物語です。俗世間を知らない紫と過去に縛られた真九郎の物語です。全てはこの二人が作り出す雰囲気です。正直これだけを感じてもらえればこの紅を読んだ価値はあると思います。が、さすがにこれだけでは感想として少なすぎるので色々と思った事を書いていこうと思います。
まず、昨今のライトノベルには珍しい文章表現だと思いました。とにかく文章が柔らかい、それは日本語の柔らかさを理解して描かれた柔らかさです。
♯背中の温かさを心地良く感じながら、真九朗は五月雨荘へと急いだ。
♯早く帰ろう。
♯この子が、風邪を引いてしまわないように。
この文章だけで真九朗の紫を愛おしく思う気持ちがよく伝わってきます。そして、声に出して読んでみて非常に優しい気持ちになれる表現だと思いました。このような柔らかい表現が作品全体に伝わっています。シナリオはそれなりにシビアなものがあるにもかかわらず、どこか安心して読み進めていける文章だと思いました。
次に真九朗と紫を含めた登場人物についてですが、非常に素直な人物ばかりだと思いました。それは決して善人ばかりが登場するという意味ではありません。善人でも悪人でも、自分を偽らず真っ直ぐな人物ばかりだという事です。五月雨荘の住人も普段はふざけているように見えますがそんな中でお互いに信頼し合っています。銀子や夕乃も良き相談相手として真九朗を裏切る事はありません。また悪役として出てきた竜士と≪鉄腕≫ですが、彼らも悪役ながら真っ直ぐに真九朗の障害となってくれます。特に≪鉄腕≫については真九朗と対等と認識すると自分から名乗り出て戦いを始める真摯な一面を持っています。とりあえず、様々なパーソナリティがありながらそれぞれが真っ直ぐだなという印象を持ちました。
さて、そんな紅ですが物語の主軸はやはり真九朗の過去からの脱却と紫の立場にあるようです。九鳳院家のしきたりから抜け出して外の世界を見て恋をしてみたい紫、そしてそんな紫を守りたいと切に願う真九朗、初めはお互いにこの思いを成就できるか不安でした。それはやはり権力や現実などを見るあまりに尻込みしてしまうからでしょう。そんな二人ですが、紫は兄である竜士に自分の気持ちをぶつけ、真九朗は紫の為に誠心誠意戦い守ると誓います。もしかしたら、この紅は二人の心の成長を描いた物語かも知れませんね。
そんな訳でこの一冊で完結でも良いのではないかというまとまりの紅でしたが、今後の紫の動向や悪宇商会という組織、そして紅香の詳細についてなどまだまだ未解決な点が山ほどあります。今後この辺りを掘り下げてくる事でしょう。楽しみです。
最後にこの巻で最も心に響いた言葉を。
♯「人生には無数の選択肢がある。が、正しい選択肢なんてもんはない。選んだ後で、それを正しいものにしていくんだ」