M.M 夕凪のスノードロップ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 9 - 90 4〜5 2019/6/22
作品ページ サークルページ



<この作品は、私にとって一つの起点となる作品となりました。以下、レビューをお読み下さい。>

 この「夕凪のスノードロップ」という作品は、同人サークルである「かぷりそふと」で制作されたビジュアルノベルです。かぷりそふとさんとの出会いは、C95にて同人ゲームの島サークルを周っている時でした。シンプルなパッケージ、そして柔らかそうな雰囲気のヒロイン、とても自分好みだと思いました。プレイした切っ掛けは、いつものようにC95の戦利品の中から適当に選んだ事です。正直、何か琴線に引っかかるものがあった訳ではありません。まずは読んでみよう、私がビジュアルノベルをプレイする原動力はそれだけです。そして、まさかこの作品が自分にとって運命の出会いになるとは思ってもみませんでした。

 プレイを進めていく中で、私はどこか既視感と言いますが居心地の悪さを感じておりました。始めはその理由が分からなかったのですが、主人公が自分の心情を吐露したりヒロインと顔を合わせた場面の時にその既視感や居心地の悪さの理由に気が付きました。そしてその理由は酷く自分を落ち込ませる、と言いますが戦慄させるものだったのです。この作品の主人公である一ノ瀬悠、彼は私自身でした。正真正銘、自分と全く同じ考え方と思考を持っていたのです。それを自覚した時、果たしてどこまでこの主人公が自分と同じなのか確認したくなりました。すると、ことごとく同じでした。こうなってしまってはもう正直、先のシナリオが読めてしまいました。先のシナリオと言うよりも、主人公がどんな行動をするのか読めてしまったのです。何故なら、この主人公と自分は同一人物なのですから。これが、運命の出会いではなくて何なのでしょうか。以下、この作品のレビューは全て私自身の自己紹介と置き換えて頂いて構いません。自分を自分でレビューしてみようと思います。

 主人公である一ノ瀬悠は、人には言えない特別な体質を持っておりました。それは「触れた相手に、自分の感情が流れてしまう」という物でした。自分が喜んでいる事、楽しんでいる事、悲しんでいる事、怒っている事、それを声に出さずとも相手に勝手に伝わってしまうのです。この体質の為、悠は小学校の時にイジメの対象になってしまいました。この時のトラウマがにより、その後の悠は出来るだけ人と関わらないように生きてきました。例え人と関わってしまう事になっても、出来るだけ平常心でいようと心掛けました。自分が主役になんてならなくていい、むしろそっとしておいて欲しい、そんな穏やかな生活を求める日々を送っておりました。しかし、そんな生活が一人の転校生によって変わっていきます。新しい出会い、その中で悠はどのような選択をし決断をするのでしょうか。これは、感情を殺そうと努めた少年による生と死を見つめる物語です。

 この作品の魅力、それは作品全体を包み込んでいる丁寧な雰囲気だと思いました。シナリオ展開・登場人物のキャラクターなど、個々の要素は柔らかい印象で統一されております。そしてそれに合わせてBGMもピアノを中心とした穏やかな佇まいです。これらの要素が、綿密に練られたスクリプトによって融合し1つにまとまっております。この雰囲気作りと言いますかまとまり具合は中々見れるものではありませんでした。高次のまとまりであり、吸い込まれる感覚すら覚えました。出来るだけ彼らの生きている世界を壊したくない、余計な要素を入れたくない、そんな事すら思いました。没頭するとはこういう事かも知れません。先が知りたいと急ぐ事もなく、ただこの雰囲気に浸り続けたい。ここまで全ての要素が同じ方向を向かせる事が出来るんだなとビックリしました。

 そして、そんな高次の雰囲気で表現されるテーマは死生観です。ヒロインである冬月真白は、主人公が病院で出会った女の子です。私はもうすぐ死ぬ、自分の命の長さを自覚している少女です。主人公である悠が自分の感情を出そうとしない、言ってしまえば死んでいるような生き方をしております。そしてヒロインである真白は命そのものが死に向かっております。こんな2人が出会って、何が生まれるというのでしょうか。間もなく離れ離れになるのに、関係を深める価値などあるのでしょうか。それは、是非皆さん自身で確認してみて下さい。感情を敢えて抑え込んでいる主人公が、余命幾らもない女の子と何が出来るのでしょうか。その足掻きともいえる行動を見届けてみて下さい。主人公の行動と決断、そしてヒロインの行動と決断、もしかしたら何か心に残るものがあるかも知れません。

 プレイ時間は私で4時間20分でした。体感的には、もっと短い印象でした。同人ビジュアルノベルとしては平均もしくはやや長めです。選択肢もあり、それによって幾つかのエンディングに分岐します。どのエンディングがノーマルエンドでどのエンディングがハッピーエンドなのかは誰でも分かるようになっておりますので、是非全てのエンディングを見届けて欲しいです。私は、正直ノーマルエンドもハッピーエンドもどちらも同等に印象に残りました。どちらの結末も確かにこの少年少女が交わった結果でした。心を抑える事を決めた主人公と命の終わりを見定めたヒロイン、そんな2人でも1つの結末を作り上げる事が出来たのです。素晴らしいと思いました。泣くほどではありませんでしたが、ちゃんと結末に辿り着く事が出来ました。それだけで、もう十分だと思いました。そんな、ひと夏の物語を味わってみて下さい。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。






















ちなみに、本当の意味でネタバレとなっております。

賛否両論あると思います。

それでも、これがこの作品に対する私のネタバレレビューである事に自信を持とうと思います。























<この作品に90点を付ける事で、私も悠と同じく新たなステージへと進む事にします。>

 「夕凪のスノードロップ」をプレイし終わって、私は1つ溜息をつきました。こんな、自分自身を生き写した様な作品をどう評価すれば良いのだろうと。悩みました。自分自身に点数を付けるのかと、そんな事すら思いました。という訳で、私は私が信頼しているお知り合いの方にどうやって点数を付ければ良いのかを相談してみました。

 正直に言いまして、始め私はこの作品に87点という点数を付けておりました。素晴らしい作品でした。もしかしたらどこかで見た事のあるシナリオかも知れませんが、そういった事を感じさせないまとまりでした。何よりも、主人公像がここまで自分と一致している作品に出会えた事が衝撃でした。それでも、この作品を万人に紹介するにあたり、本当に90点以上を付けるのかという葛藤もありました。別に、「M.Mの部屋」はわたくしM.Mが好き勝手にやっておりますので好き勝手に点数を付けて良いはずでした。ですけど、これまでプレイして来た数多くのビジュアルノベルと比較して、やはり90点の壁は重いと感じました。

 お知り合いの方に相談して、改めて同人ビジュアルノベルの中で90点以上の作品を列挙し自分が何故90点以上付けたのかを再評価してみました。すると、その殆どの作品が「個人的にも素晴らしいと思っており、同時に多くの方が素晴らしいと認めざるを得ない作品」だと感じる物ばかりでした。「ひぐらしのなく頃に」や「ファタモルガーナの館」など、やはり90点以上となれば主観的な要素だけではなく客観的な要素も双方組み合わさっているなと思いました。そうであるのなら、この「夕凪のスノードロップ」という作品に87点という点数を付けた自分の判断は妥当だなと思いました。

 ですが、そんな90点以上の作品群の中にも僅かですが完全に主観のみで点数を付けた作品が3つほど存在しました。私は、どうしてこれらの作品に90点以上付けたのかを疑問に思いました。ですが疑問に思ったのは一瞬でした。90点以上付けた理由、それはそれだけ自分の中でどうしようもなく好きだったからです。誰が何と言おうともこの作品に自分は90点以上付ける、そう決めたんだなという事が分かりました。なんだ、結局はそういう事ではないかと。過去に自分自身て言っておりました。点数を付ける基準は「プレイして満足したか否か」です。その価値機軸は現在も変わるものではありませんでした。何に感動したのか、何に惹かれたのかは作品によりけりです。ここでこんな事を悩むなど、これまでレビューを書いてきた作品達にむしろ失礼ではないか。そう思いました。

 そう思った時、私は自信を持ってこの作品に90点という点数を付けました。何となく、スッキリした気持ちになりました。ああ、これで良かったんだなと思いました。もしかしたら、あまりにも自分にそっくりな主人公の物語に高い点数を付ける事に恐れと引け目を感じていたのかも知れません。それでも少しだけ自分を信じてみようと、そう思える切っ掛けになりました。考えてみれば、作中でもあれだけ感情を出す事を恐れていた悠が真白に対してあそこまで真剣になれたのです。「伝えるべき言葉をちゃんと伝えるべきタイミングで伝えられた!」って喜ぶ悠、恋を理屈で考えようとする悠、女心が分からない悠、「安堵感と寂しさが一緒になった不思議な気持ち」を抱える悠、恋が楽しいものだって知った悠、悩む辛さを知った悠、「僕が行くまで、どうか安らかに」と願った悠、そんな悠を自分が認めないで誰が認めるというのでしょうか!

 …すみません、殆ど作品に触れないレビューとなってしまいました。どうしても、自分自身の葛藤を整理したいという気持ちが勝ってしまいました。それだけ、自分を照らしたような作品でした。生き写しの様な主人公でした。おまえはどうやって生きていくんだと見せつけられたような気持になりました。そうであるのなら、まずは自分が好きなこの作品を信じて見る事から始めよう、そう思いました。この作品に90点という点数を付けた今の自分を、こんなレビューになっていないレビューを書いた自分を、将来誇れるようになりたい。そんな事を思いました。これからも頑張ります。どうぞ「M.Mの部屋」をよろしくお願いします。


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