M.M ユメツクリ - Monster -


 この「ユメツクリ - Monster -」は先に発売された「ユメツクリ」の続編となっております。その為レビューには「ユメツクリ」を含めたネタバレが含まれておりますので、ネタバレを避けたい方は避難して下さい。

・「ユメツクリ」のレビューはこちら

※このレビューにはネタバレしかありません。前作と本作の両方をプレイした方のみサポートしております。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。























































































シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 - 85 6〜7 2016/7/31
作品ページ サークルページ



<自分が思い描いていた夢、それは知識や経験を積むことで別の形へといくらでも昇華出来る。>


「その過程において当時者が動くしかない。用意された壁を登れば必ず目的への一歩となる。」


 私は誰の夢も叶えやしない。ただ、そこに繋がるレールを用意するだけ。頑張るのはあなた達自身だ。最後まで中立の立場を貫いたアン・レェヴの能力であり、冒頭のセリフはそんなアン・レェヴの言葉です。人によっては何も意味がない能力なのではないかと思うかも知れません。ですが、私にはこの能力はありとあらゆる魔法の中で最も素敵な能力だと思いました。どんな凡人でも努力すれば夢が叶うかも知れない。その可能性は決してゼロではない。現実世界において、これ程希望の持てる魔法は無いのではないでしょうか。

 どの登場人物も夢を持っておりました。それは皆が幸せになって欲しいという物、好きな人と両思いになりたいという物、逆に両親の敵に復讐したいという物、方向性も大きさも様々です。それでも一人一人にとって切実でありとても大切な想い。一つとして捨てていい夢などありませんでした。ですが、方向性が様々だからこそ相反する夢も存在します。例えば千種は両親の復讐の為にメヴィウスの死を願っておりました。ですがユメリは誰もが死なない幸せな結末を願っておりました。どちらかが夢を叶えればどちらかの夢が叶わないのです。これが現実。全員の夢を叶えるなんて、それこそ夢物語としか言いようがありません。

 ですがそれは果たして本当でしょうか。物語最後、レェヴは千種に「秩序からメヴィウスを救い出して欲しい」と言いました。メヴィウスの死を願っている千種に対して何という仕打ちでしょうか。当然始めは千種も耳を疑いました。ですが千種も分かっていたんですね。メヴィウスは不老不死。決して殺すことは叶いません。かといって秩序に閉じ込めてもそれでメヴィウスが苦しむわけではありません。何よりも、メヴィウスが死ぬとユメリや林檎が悲しむんですよね。やり切れない気持ちだったと思います。散々復讐を願って生きてきた10年が無駄になってしまうのですから。ですが千種は自分の意思でメヴィウスを秩序から救い出しました。この時思いました。夢を実現するという事は、必ずしも自分の理想通りの出来事を叶えるのではないのだと。

 これは何も現実を受け入れて叶わない夢を誤魔化すという事ではありません。自分が思い描いていた夢、それは知識や経験を積むことで別の形へといくらでも昇華するという事です。少し自分の話を書こうと思います。私は約10年前にこの「M.Mの部屋」というHPを立ち上げ、その時からビジュアルノベルのレビューを書いてきました。レビューを書く当初の目的ですが、世の中の人にレビューを読んでもらいたいという気持ちも勿論ありましたがそれ以上に自分自身の作品への感想を忘れない為のメモの様な意味合いが一番でした。誰かに読んでもらいたいという気持ちが一番ではなかったのです。ですが時が経ち商業作品のみならず同人作品も多くプレイするようになり、次第に自分の拙いレビューでも誰かに読んでもらっている事を実感する機会に恵まれました。私のレビューに対する感想も頂きました。この時思いました、レビューを通じて沢山の人と繋がりたいと。今まで一方的に書いてきたレビューが、人と繋がりたいと願うものに変わったのです。

 レェヴの能力は夢へのレールを引くというもの。ですがレールの先に何が待っているかなんて、本人にも決して見えないものですよね。ましてやレールは一本道ではなくポイントがあって様々な進路が存在します。大切なのはそこにレールがあるという事。そして辛くてもレールを進む事をやめなければ、必ずや何かしらのゴールにたどり着けるという事です。結果それは当初思い描いていたものとは全然違うのかも知れません。全然違う目的地かも知れません。ですがそれは不幸なものでしょうか?決してそんな事はないと思います。多くの人と出会い、様々な経験を積むことで自分の価値観はいくらでも変わります。そして少し未来の自分が何を目指しているかなんて分からないのです。大切なのはとにかく前へ進むという事。その先には、必ずやゴールがあるという事です。この作品はそんな夢を持つこととその夢を追い続ける事の大切さを伝えたかったのではないかと思っております。

 そろそろ締めようと思います。数多くの登場人物がいながらも全員に物語があり、一人として埋もれる事なく光らせ続けることができたテキストに驚きました。少しずつ明らかになっていく真実、そしてそれが登場人物ごとバラバラに伝わりそれが故に先が見えない展開に興奮しました。お互い誤解したまま対峙したり、逆に共闘する為に対峙する場面は緊張感があり、群像劇の魅力を存分に活かしたシナリオでした。伝奇ものとしてもザッピングとしても一流であり、中二心を擽らせる味わい深いテキストでした。人間の人生は死ぬまで続きます。夢は達成された瞬間に新しく始まります。私自身、自分のやりたい事や夢に向かってとにかくまっすぐ進んでみようとこの作品を読んで強く思いました。ありがとうございました。


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