M.M WHITE ALBUM2 〜closing chapter〜




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
10 9 10+ 94 30〜35 2017/12/17
作品ページ(R-18注意) ブランドページ(R-18注意)



 この「WHITE ALBUM2 〜closing chapter〜」は前作である「WHITE ALBUM2 〜introductory chapter〜」の続編となっております。その為レビューには「WHITE ALBUM2 〜introductory chapter〜」を含めたネタバレが含まれていますので、「WHITE ALBUM2 〜introductory chapter〜」のネタバレを避けたい方は避難して下さい。

「WHITE ALBUM2 〜introductory chapter〜」のレビューはこちら

※このレビューにはネタバレしかありません。前作と本作の両方をプレイした方のみサポートしております。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。





















































































<誰かに頼り、頼られ、自分の持つ強さで人を助け、自分の抱える弱さを人に助けられながら、生きていくしかない。>

 最後までプレイし終わって、あなたはどのような感想を持ったでしょうか?胃が痛い、切ない、辛い、それでも目が離せない、そんな様々な感情が入り混じった、何とも言えない余韻を感じている事と思います。この作品に、ハッピーエンドは一つもありませんでした。どのエンディングに行っても誰かが傷つき、誰かが報われ、誰かが幸せになり、誰かが諦めるのです。そして、それは全て一人では決してたどり着けない結論ばかりでした。この作品は、恋愛を通して何を選択し何を捨てていくかを描いた作品だと思っております。

 北原春希の有能さは誰もが羨むものだと思います。自分よりも他人を優先し、困っている人がいたら手を差し伸べ、仕事も効率的にこなし、行動力もある。これをナチュラルにこなしているのですから、それはそれは多くの人に慕われるというものです。峰城大付属・峰城大・開桜社とフィールドを移していっても春希の利他的な行動が変わる事はありませんでした。そんな春希だからなのでしょうね。他人に自分の弱みを見せず、全部自分で何とか解決していこうという気持ちになるのは。どんなに厳しいスケジュールでも、どんなに仕事が多くても、見事に全てをこなし解決していく。それだけの実績があるからこそ、他人に頼ることがどんどん苦手になっていたのではないかと思っております。

 ですが、恋愛はそういう訳にはいきません。同じ人を好きになってしまっても、日本の法律では重婚は認められておりません。最終的にどちらか一人を選ばなければいけないのです。もちろん愛というものはそんな法律のようなもので語られる訳ではありません。様々な葛藤を経て折り合いを付け、男女の恋愛という形だけではなく友情などの感情に昇華させていく事もあります。大切なのは大好きな人の幸せ。そう思えば、例え好きな人の隣にいるのが自分でなくても我慢できる。今すぐは無理でも時間が解決してくれる。そういった尊さがあると思います。ですが、真剣に向き合って時間を掛けて、考えて考えて話をして、それでも諦めきれなかったらどうするのでしょうか。その時は、私は好きになられた方が勇気を持って一人を選びその他の人を捨てるしかないと思います。



 私は、このWHITE ALBUM2という作品は北原春希という主人公と小木曽雪菜というヒロインの2人の男女の物語だと思っております。もちろん、北原春希が始めに好きになったのは冬馬かずさであり、その後の3人の関係が物語の主軸になります。一般的にも公式的にも小木曽雪菜と冬馬かずさの2人がメインヒロインの物語であり、その点を否定するものではありません。ですが、それを承知で私は敢えて春希と雪菜の2人の物語と断言させて頂きます。その理由は、全ての恋愛の結末が春希が雪菜を選ぶが捨てるかという決断をしているからです。

 closing chapterの中では雪菜の他に3人のサブヒロインが登場しました。杉浦小春・和泉千晶・風岡麻理です。彼女ら3人は峰城大で初めて知り合っており、峰城大付属の時代から関わっている雪菜とは圧倒的に関わっている時間が違います。それでも、春希の事を受け入れることが出来なかった雪菜に取って代わるだけの魅力を持っておりました。それでも春希は、峰城大付属時代から過ごしてきた雪菜を忘れる事は出来ませんでした。雪菜との関係を曖昧にして、3人のヒロインとも恋愛を続けるという二重生活を送っていたのです。一般的には許されない事です。ですが、そう単純に割り切れるものでない事も十分理解できると思います。きっぱりと選択しきっぱりと断るのが男らしさです。ですが、それが出来ず悩み苦しむ姿もまた男らしさだと思います。作中でも、3人のヒロインとキスをしセックスをしたらそれで終わりなどという事はなく、その後雪菜の事を捨てるまで非常に多くの時間を費やしました。3人のヒロインと結ばれる物語は、同時に雪菜を捨てる物語だったのです。

 そして、codaではそれがより強力な牙となって春希に襲い掛かりました。全てのスタートとなった峰城大付属軽音楽同好会、そのコンサートメンバーである冬馬かずさが帰ってきたのです。こんなの、迷わないハズがありません。何しろこれはintroductory chapterで目を背けてきた問題なのですから。春希は、正直に言えば雪菜もかずさもどちらも好きなのです。どちらも選びたくありませんしどちらも捨てたくないのです。何故なら、彼ら3人はあの峰城大付属軽音楽同好会のコンサートメンバーなのですから。あの恋愛要素のない、たった2週間で仕上げた、最高のステージメンバーなのですから。あの時も思い出を忘れたくない、綺麗なものとして残しておきたい、それは3人の誰もが望んだ事でした。

 introductory chapterのレビューでも書きましたが、このWHITE ALBUM2という作品において歌を切り離すことは出来ません。峰城大付属軽音楽同好会が最初で最後に披露した「届かない恋」、これは北原春希が作詞し、冬馬かずさが作曲し、小木曽雪菜が歌唱している曲なのです。全てはこの曲が起点でした。この曲を完成させるために、何もかもをかなぐり捨ててがむしゃらに走った2週間、これ程美しい時間はありません。言ってしまえば、恋愛などというものに汚せるものではないのです。それが痛いほど分かっているから、春希も雪菜もかずさも、お互いの事が好きで、仲間はずれにされたくなくて、そんな相手の気持ちも理解出来るのです。だから譲るんです。だから切ないんです。これは唯の3人の恋愛ではなく、届かない恋を歌い上げたあのステージに縛られた、3人にとっての人生の分岐点なのです。

 ではどうすれば良いのでしょうか?その答えは意外と簡単でした。もう一度、峰城大付属軽音楽同好会を復活させれば良いのです。世界的なピアニストとして日本に帰ってきた冬馬かずさ、そのかずさが日本で初めて発表する音楽CDは、北原春希が所属する開桜社と小木曽雪菜が所属するナイツレコードの共同企画で発売される雑誌の付録でした。それでも日本で初めての音楽CDです。決して手を抜くわけには行きません。そうであるのなら、彼らはプロとして全力で仕上げるしかありませんでした。ナイツレコードの小木曽雪菜としてピアニスト冬馬かずさに接触したあの瞬間から、峰城大付属軽音楽同好会は復活しておりました。春希も社会人になってから初めてギターを手にしました。途中かずさの追加公演をこなしながら、何よりも3人の恋愛が解決していない中で、がむしゃらに走り抜けました。そしてたどり着いた結論、それが「かずさのことが好きだ。そして、雪菜を愛してる」という何とも身勝手なものだったのです。

 でも、それでいいのです。というよりも、それしかなかったのです。もうどうしようもないのです。かずさが好きで雪菜が好きなのはしょうがないのです。男として最低かも知れません。二股やろうと言われても何も否定できません。ですけど、それが真実なのです。それでも、春希はその事実を受け入れ、その上で雪菜を選ぶことが出来ました。そしてその決断をかずさも認める事が出来ました。もう、あの峰城大付属時代のような純粋な頃には戻れません。それでも構わないのです。3人が3人の気持ちの中で、お互いを認め選択し、諦める事が出来たのですから。もう仕方がないんです。散々ぶつかって、罵り合って、叩きあって、奏であって、そうするしかないんです。雪菜を選ぶという事、それは「届かない恋」に縛られた思い出を解放する事だったのかも知れません。



 さて、ここまで分かりやすく雪菜に傾倒したレビューを書かせて頂きましたが、それはあくまで恋愛という視点での事です。これが人生という視点で見れば、やはり冬馬かずさと結ばれるエンディングを欠く事は出来ません。冬馬かずさを選ぶということ、それはイコール雪菜を捨てるという事ではありませんでした。むしろ雪菜1人を捨てるだけでしたらどれだけ楽な事でしょうか。春希が捨てなければいけないもの、それは日本での生活全てでした。

 ピアノしか出来ず家事もコミュニケーションも全く出来ないかずさ。何よりも5年間春希との恋に決着をつけず日本を離れていたかずさ。どう考えても、かずさよりも雪菜を選んだ方が利口ですし、周りの人も納得してくれます。それは言い換えれば、雪菜を捨てるという事がそんな周りの人を捨てるという事です。事実、春希は住み慣れたアパートを解約し、バイト時代からお世話になった開桜社を辞め、峰城大付属からの無二の親友である武也と依緒と決別し、家族ぐるみの付き合いだった小木曽家から他人呼ばわれされました。introductory chapterからの繋がりの全てを断ち切ったのです。これは本当に勇気の居ることでした。レビューのタイトルに書かせて頂いた「誰かに頼り、頼られ、自分の持つ強さで人を助け、自分の抱える弱さを人に助けられながら、生きていくしかない。」、これは人生における絶対の真理だと思っております。人は一人では生きていけません。多くの人を支え、支えられながら歩んでいくものです。

 春希は、それの殆どを断ち切りました。人生の真理を捨て、それでもかずさとの生活を選びました。私は、この春希の決断に拍手を送りました。よく言ったと、あれだけ八方美人で何でも1人で解決して誰にも迷惑かけないようにしてきた春希がよく決断したと。もう、春希が頼れるのは目の前の人1人しかいないのです。人生の何たるかを理解して、それの全てを捨てる。それでも大好きな人と一緒にいたい。尊さや美しさという意味ではこちらのエンディングの方が光り輝いているように思えます。現実ではとてもとても選べない選択です。だからこそ、私たちは春希とかずさの幸せを望むのだと思います。

 これだけ魂を焦がす恋愛が出来たら、どれだけ幸せでどれだけ苦しくてどれだけ切なくなるのでしょうね。春希も、雪菜も、かずさも、素直などというものからは遠く離れた存在でした。自分勝手で、自分が可愛くて、さみしがり屋で、直情的で、単純で、そして音楽が好きでした。峰城大付属軽音楽同好会が作り上げた「届かない恋」、そこから始まった恋物語は、沢山の傷を経てエンディングにたどり着きました。雪菜の歌声が、かずさのピアノが、そして春希のギターがこのWHITE ALBUM2という物語を作り上げました。全てのキャラクターが愛おしいです。全てのキャラクターが恋しいです。どのキャラクターも嫌いで好きです。そんな彼らの選択を見させて頂いて、自分はどうしたらいいんでしょうね。恋愛について、人生について、将来について、趣味について、好きなことについて、そんな様々なものを考える切っ掛けになりました。



 最後に、今回レビューしている「WHITE ALBUM2 〜closing chapter〜」は、2017年における私にとっての100本目のレビュー作品になりました。これまで年間100本ものタイトルをプレイしレビュー出来た事はなく、自分のレビュアー人生にとっても記念すべきタイトルとなりました。仕事をこなし、趣味をこなし、ちょっとの恋愛と人間関係をこなした中での100本目のレビューとなっております。このレビューをもって、また一つ私も新しいステージへと上がらなければ行けないのかも知れません。今年が終わっても来年があります。雪が降ってもいつかは溶けます。また次のWHITE ALBUMの季節を目指して、魂震える経験を繰り返して行きたいと思っております。ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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