M.M WHITE ALBUM2 〜introductory chapter〜




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 9 8 85 5〜6 2017/12/8
作品ページ(R-18注意) ブランドページ(R-18注意)



<登場人物達の抑えられない気持ちが、時間と音楽に合わせてめまぐるしく変化していく様子に目が離せませんでした。>

 今回レビューしている「WHITE ALBUM2」という作品、恐らくビジュアルノベルを嗜んでいる方であれば全ての人が名前くらいは聞いた事があるのではないでしょうか。2010年に老舗のブランドであるLeafから発売された18禁ゲームであり、同年に発売された作品の中でもピカ一の支持を集めております。1998年に同じくLeafで発売された人気作品「WHITE ALBUM」は浮気をテーマとした恋愛シミュレーションですが、本作も同様の流れを汲んでおり男女の心の揺れ動きをリアルに描いたシナリオが特徴です。シナリオライターである丸戸史明氏は戯画など幾つものブランドで活躍しており、多くの作品がその年を代表するタイトルとなっております。また最近ではライトノベルである「冴えない彼女の育てかた」でも人気を集めており、多くの方にその名前が知られる事となりました。そんな丸戸氏が不屈の名作である「WHITE ALBUM」の続編を手掛けるという事で、発売前から多くの注目を集めその結果に応える形になっております。

 本作は2つのパートに分かれており、今回レビューしている「introductory chapter(以下ic)」が前半でその続編である「closing chapter(以下cc)」が後半という構成になっております。icが前半でccが後半ですので勿論icのみでシナリオが完結する事はなく、2つプレイする事で完結する事になります。私自身、今回「WHITE ALBUM2」という作品をプレイするに当たっては勿論予め両方の作品を入手しておりました。加えて冬の作品であるという事、非常にボリュームの大きい作品であるという事、年を代表する作品である事、伝統あるタイトルを冠しているという事を加味して特別なタイミングでプレイしようと決めておりました。「WHITE ALBUM2」そのものは今回レビューしている1年以上前から入手していたのですが、大作という事でどうしてもプレイする踏ん切りがつかず二の足を踏んでおりました。ですが、今年私のレビュー本数がいよいよ100本に到達出来そうというタイミングになり、自分にとっても節目の作品として何か特別なタイトルをレビューしたいと思っておりました。プレイするなら今しかない。そう思い、99本目の作品としてこの「WHITE ALBUM2 -introductory chapter-」を選ばせて頂きました。勿論100本目の作品は「WHITE ALBUM2 -closing chapter-」です。このレビューを投稿したら直ぐに取り掛かろうと思います。

 主人公である北原春樹は、一言で言えば「模範的な優等生」を地で言ってる3年生です。困っている人がいたら勝手に裏で根回しして首を突っ込み、委員長を務めていた経歴もあるという事で多くの人が彼の事を頼りにしておりました。かといって春樹が堅物な人間という訳ではなく、それなりに冗談も言いますし会話も楽しいですし、人並みの自己顕示欲もあります。普通の高校生でありながら他人に対して興味を持ち行動に移せる存在であり、いわゆる「普通の主人公」とはちょっと違う人間味を感じる人物です。そんな春樹の隣には、周りに無関心を装う女の子がいました。名前は冬馬かずさと言い、授業には遅刻し他人と会話もせず一匹狼のように振る舞っております。そんなかずさにも勿論春樹はおせっかいを発揮します。それでもかずさは目にもくれず、イタチごっこのような関係が続いておりました。春樹は軽音楽同好会に所属しておりました。担当はギターです。ですがその実力はお世辞にも上手いとは言えず、最後の文化祭にも出場できるか危うい状況でした。そんなある日、春樹が引くギターに誰かのピアノが重なりました。そしてそれに天使の歌声が重なりました。その歌声の正体は小木曽雪菜。彼女の歌声に触れた時から、物語がスタートする事になります。この時演奏した曲は往年の名曲である「WHITE ALBUM」。また、この「WHITE ALBUM」の季節が幕を開けるのです。

 上でも書きましたが、「WHITE ALBUM」は浮気をテーマとして扱っております。本作も主人公である春樹、ヒロインであるかずさと雪菜という3人の人間模様が一番の魅力です。言ってしまえば三角関係。胃が痛くなる展開が何度も訪れることになります。それでも一日一日を丁寧に描いたテキストは決して飽きさせる事がなく、臨場感がありますので真剣に文章を追う事になると思います。その上で場面転換は比較的早く、ダラダラする事は決してありません。まさに実力に裏打ちされたテキストであり、多くの方の心を掴む事に納得しました。臨場感を出すテクニック、それは恐らく一人称の心理と会話のテンポ感にあると思いました。自分はこう思っているからこう言おう、そう思っているのに相手が違う話を被せてくる。そんな経験は日常茶飯事だと思います。時間が流れるように会話も流れる。話題はどんどん移り変わり、少し前に自分が考えていたものは忘却の彼方に行く。そんな感覚をテキストで見事に表現しております。時には相手に流され、時には相手を流し、自分の本心がどこにいるのかも分からないまま事実だけが積み重なっていく。それを神の視点で見る事になるのです。胃が痛くなるとはこういう事なんだなと思いました。これが丸戸氏のテキストなんだなと思いました。

 そして「WHITE ALBUM」においてもう一つ欠かせない要素があります。それは歌です。前作「WHITE ALBUM」のヒロインはアイドルであり、その歌声が一つの魅力となっております。本作「WHITE ALBUM2」でも歌は重要なエッセンスとなっており、歌を切っ掛けに物語が動いていきます。軽音楽同好会に所属している春樹は、最終的に学園最後の文化祭でバンドを組み演奏する事になります。それまで血の滲むような練習をするのですが、少しずつ上達していくギターの様子がちゃんと音として再現されているのです。いったいどれだけの音源を用意しているのでしょうね。同じ曲だけで差分が10以上あるのは間違いありません。そしていよいよ本番を迎える文化祭当日。この時のライブの演出は必見です。何しろ曲が全くカットされないばかりか、その中でオートで流れるテキスト、生徒達のざわめきと盛り上がり、何よりも春樹を始めとした演奏者の心の揺れ動きが全てミックスになって流れていくのです。この文化祭の演出だけで、なるほどこの年を代表する作品になりえるなと思いました。文章+音+絵という醍醐味を十二分に発揮した演出を楽しんで下さい。

 プレイ時間は私で5時間20分程度でした。正直、短いと思いました。ミドルプライスではありますが選択肢はなく、一本道で物語のターニングポイントにたどり着きました。ですが、これはあくまでまだicです。ccからが本番だと思っております。少なくとも、icだけで十分胃が痛くなりましたしここからどれだけドロドロな物語を用意してるんだろうとビビッております。なるほど確かに年を代表する作品です。恋愛シミュレーションにおける一つの到達点だとすら思いました。ただ女の子と楽しく過ごすだけではない、生々しい心情とそれを置き去りにしてどんどん流れていく状況のもどかしさが、恋愛シミュレーションに必要だと強く思いました。結果として綺麗に終わるのかグチャグチャになって終わるのかはまだ分かりません。とりあえず、icの段階では誰も傷つかない等という事はありませんでした。ここまで盛り上げておいてのccです。正直怖いですが、100本目という節目を目指して一字一句大切に読み進めていこうと思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<正直、春希は嫌いです。でも、どうしようもなく春希の気持ちが分かってしまうんですよね。>


「三人じゃ、駄目なのか?」


 思うに、この3人は恋愛しなければ最高の関係だったのではないかと思いますね。ピアノの天才である冬馬かずさ、歌う事が好きでカラオケで何時間も歌い続けられる小木曽雪菜、そして素人ながらもやると決めたら必ずやり遂げる北原春樹、そんな3人で作り上げた文化祭のライブは最高のパフォーマンスであり、何物にも代えられない思い出でした。ですが、皮肉にもそんな3人の関係は同じ日に崩れることになるのです。3人である事を望んだのにそれを自分たちの手で壊してしまう。こんな滑稽なことはありませんね。ですが、これこそまさに恋愛の魅力なんだなとも思いました。

 誰だって悪者にはなりたくありません。それでも大切なものを手に入れたいと思うのであれば、その結果として対立するものが生まれてしまえばそれは仕方がないのだと思います。この3人を見ていて思ったこと、それは自分の気持ちを優先する事よりもこの3人が決定的に離れ離れになる事を恐れているなという事です。雪菜が押せばかずさが離れる。かずさが近づけば雪菜が離れる。仲直りしているように見せて心の奥底の本音は決して悟らせない。それでも春樹が好き。そんな一進一退の駆け引きが印象的でした。それでも、こんな本音を言えない関係が一生続くはずがありません。雪菜の告白で2人が結ばれて終わりなどという事は決してなく、むしろ春樹はこの事が切っ掛けで自分のかずさに対する気持ちを自覚してしまいました。表面だけ取り繕う関係はただ時間ばかり浪費するだけで、そしてその浪費した時間が長ければ長いほど跳ね返りも大きくなります。それが最悪の形で成田空港で起こってしまいました。

 ですが、かずさも雪菜もお互いの気持ちにずっと気付いていました。むしろ、気付かないはずがありませんね。何しろ同じ人を好きになってしまったのですから。そして同じメンバーであのステージを作り上げたのですから。それが分かっていて、それでもお互いに踏み込まない。これって誰のためなのでしょうね。春樹のため?自分のため?かずさのため?雪菜のため?そんな自問自答にすら答えを出させる暇もなく、時間は無情に過ぎていくのです。そして、降りやまない雪の下に隠された気持ちは雪解けと共に一番汚い形で姿を表します。どこで線を引けばよかったのでしょうね?むしろ線を引くことは正しいのでしょうかね?それすらも分からなくなります。だからなのでしょうね。かずさが春樹と雪菜が何度もキスをしている事に気付いても、雪菜がかずさと春樹が一夜を共にした事に気付いても、何となく受け入れている事に。もう、とっくの昔にこの3人の関係は醜く仕上がっておりました。そんな中でのかずさの別離。ここからccでどう場面が展開していくのかは、神のみぞ知るのでしょうね。

 さて、とりあえずここまではレビューっぽく書いてみましたがここからは自分の直接の感想を書こうと思います。思うに、恋愛シミュレーションってプレイヤーの経験の数だけ答えが用意されていると思うのです。ミステリーとは全然違います。論理とは対極にある存在です。何故って、恋愛ですからね。人の気持ちの中で一番不安定で醜くて汚いものですからね。それをテーマに扱い堂々とさらけ出してきたicです。これについて、私個人の感想を話さずにレビューを終える事は出来ません。ですので言わせて頂きます。

「春樹死ねや!」

と!

 正直気持ち悪すぎ。なんであんなに他人によく振る舞えるの?なんであんなに言い顔できるの?しかも自分の事をコントロール出来るとか言いながら、最後に一番かき乱したのはお前だろーが!雪菜とキスしてかずさが好きな事に気付いた?それだったらお前が雪菜に言うべきだろ!俺はかずさが好きなんだって!雪菜が可哀そう?仲間外れにするのが可哀そう?そんなの本人が一番分かってるわ!お前だけだよ!何にも分かってないのは!三人でいたいならそれを貫き通せよ!!自分で崩しておいて何泣いてんの?ふざけてるの?正直ね、かずさと雪菜も大概だと思うよ。普通じゃないよ。あんな心をすり減らせる関係よく続けられるよ。だからこそ!お前が踏ん張るところだろうよ!!胡散臭いって思ってたよ。どれだけ八方美人なの?ほんと、気持ち悪過ぎ。男だったら絶対に嫌いなタイプだわお前。

 でもですね、この自己中で何も責任取らなくて最後は自分の気持ちに突っ走る姿こそ、人間だと思うんですよね。理性的であって、責任感があって、自分の信念を貫く、正直すごく立派な事だと思います。これが中々出来ないからこそ、出来る人間を尊敬するんだと思います。春樹だってそんな立派な人間を目指していたんです。でも、自分の好きな気持ちに嘘は付けなかったんです。「ふざけるな!」って思いつつも、「分かる。」って思ってしまいましたね。自分は春樹の事は嫌いです。でも、それは春樹の人間性を否定するものではないんです。だって人間なんですもの、恋愛なんですもの。汚いものを曝け出すから、心が動かされるんじゃないですか!

 icは見事「WHITE ALBUM2」の序章の役割を作ってくれました。ああ、これは確かに「WHITE ALBUM」なんだなと。恋愛シミュレーションなんだなと。強く思いました。ここで合わないなと思う人は、もう止めるべきなんでしょね。どう考えてもここから更に加速していくのですから。自分にとっても苦手なテーマです。心と心のぶつかり合い程、見ていて醜いものはありませんからね。ですけど、次に進もうと思います。この醜い気持ちの終着点に何が待っているのか見届けようと思います。かずさと最悪の別れをして3年経ったccです。春樹と雪菜はどうなっているのでしょうか。他のヒロインはどのように関わってくるのでしょうか。これから、私たちプレイヤーはどのような選択をしなければいけないのでしょか。震えながら、次に進もうと思います。ありがとうございました。


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