M.M Summer!




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 - 81 2〜3 2019/8/16
作品ページ サークルページ



<二度と戻らない夏、それは今隣にいる人を大切にした確かな記憶の夏でした。>

 この「Summer!」という作品は、同人ゲームサークルである「SEAWEST」で制作されたビジュアルノベルです。SEAWESTさんは、私にとっては非常に特別なサークルさんです。初めてプレイした春のうららという作品ですが、私にとって非常に心に刺さる作品でした。プレイ直後は暫くの間春のうららの結末に悩み、仕事も手に付かない程でした。それだけ印象的な作品という事もあり、その後春のうららの聖地巡礼を行ったり春のうららのレビューをビジュアル化したビジュアルノベルをレビューするビジュアルノベルという作品を作ったりしました。そんなSEAWESTさんのC96での新作が、今回レビューしている「Summer!」という作品です。夏らしい爽やかなパッケージで、どのような雰囲気なのだろうと楽しみにしながらプレイし始めました。

 Summer!は、調度4年前に同じくSEAWESTさんが製作された「春の日に道が続く」という作品の後日談に当たります。春の日に道が続くの登場人物は大凡中学生なのですが、彼らが高校生になった時のエピソードです。後日談ではありますが、話としては独立しておりますのでSummer!からプレイしても差し支えありません。ですが、春の日に道が続くは1時間程度の短い作品ですのでお時間あれば是非こちらからプレイされる事をオススメします。

「春の日に道が続く」のレビューはこちらからどうぞ

 主人公である昇、彼の傍には宮下という女の子がいました。誰もいない家で2人だけの時間を過ごしていた昇と宮下、それでもどこか2人の間には遠慮と言いますかぎこちない雰囲気が流れておりました。そんな時、昇の元に1枚の葉書が届きました。それはドイツからの手紙、裏面には懐かしい女の子の写真と「Hallo, Versprechensbrecher!」というメッセージがあるだけ。その手紙を見て何かを悟った宮下。そして昇は、この手紙を見て一年半前の懐かしい夏の記憶を思い出します。中学生の時に出会い今は傍にいたい一人の友達と、言葉も通じない一人のドイツ人と遊んだ、2泊3日の夏の記憶を。

 この作品の魅力は何と言ってもドイツ語にあると思います。昇は一年半前の夏に、かつての友達だった小真と小真の友達であるハンナと3人で旅行をしました。そして、ハンナはドイツ人であり英語は多少話せますが日本語は殆ど分かりません。昇もまた英語は多少話せますがドイツ語は殆ど分かりません。そんな、言葉が伝わらないもどかしさを抱えたままの2泊3日の旅行です。皆さんならどのように接するでしょうか。言葉が通じなければコミュニケーションは取れないのでしょうか。少なくとも、昇はそうは思ってなかったようです。同じくハンナもまた持ち前のグイグイ行く性格で積極的に昇に関わっていきます。そしてその間に立っている小真、この不思議な3人の空気感を是非楽しんで下さい。

 そしてこの作品は主人公以外フルボイスです。この作品において、ボイスを丁寧に聴く事は必須と言えます。基本的にはウィンドウにテキストが表示されるのですが、それはあくまで昇が理解出来たものだけです。昇が理解できないドイツ語が、私たちプレイヤーも理解できる筈がないのです。何が言いたいのかと言いますと、テキストとして表示されるのは日本語と昇が聞き取れた英語のみで、ドイツ語は音声だけが流れるという事です。この、相手が何かを話しているのにそれが理解出来ないもどかしさの表現は見事だと思いました。時には昇の心理描写がテキストで表示されている裏で小真とハンナのドイツ語での会話が流れていたりします。それでもコミュニケーションを取りたい気持ち、友情以外の良く分からない気持ち、そんなものが見え隠れするシナリオを楽しんで下さい。

 プレイ時間ですが私で2時間15分程度でした。選択肢はなく一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。この作品の特徴として、セーブ&ロードがありません。その代わり、細かく栞が設定されており3〜5分くらいで次の栞へ移動します。この栞を基準としてリスタート出来ますのでセーブ&ロードは必要ないかも知れません。プレイ中の休憩タイミングにも活用できると思います。ボイスをじっくりと聞く必要がありますので思ったよりもプレイ時間が長い印象を持つかもしれません。是非、終わって欲しくない夏の空気と女の子達との関わりを楽しんでみて下さい。面白かったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<相手の気持ちなんて分からない、だからこそもっと話をしてもっと知りたいと思うのだと思います。>


「ことばが通じないのに、もっと話していたかった。」


 最後までプレイして、本当昇の真面目な性格が印象に残りました。小真を追いかけたくてドイツ留学を目指して高校を選択する姿、今までの自分と違うところを見せようと張り切る姿、言葉が伝わらなくてもコミュニケーションを取ろうとする姿、そして最後に宮下ではなく小真を選んでドイツに飛ぶ姿、真面目であり大切なものを分かっている姿だと思いました。そして、時より顔を見せる高校生らしさもまた魅力だと思いました。

 中学生時代に劇的な経験をした昇、そんな昇が小真を追いかけるのはある意味必然だったと思います。ですが小真は相変わらず何を考えているのが良く分からないいたずら好きな性格でした。昇との再会でも飄々としており、誘導尋問をしてからかったり、昇をかく乱し続けました。それでも、かつて男だと思っていた小真が女だと知り、そして高校生になり成長した姿に少なからず劣情を感じていました。まずは近くに居たい、色々と話をしたい、昇がそう思うのは当たり前でした。だからこそ、本当は二人きりの旅行になるはずだと楽しみにしていた昇は、ハンナという存在がいる事で置いてけぼりになってしまいました。

 恐らくですけど、昇は初めはハンナの事を小真に付きまとう邪魔者と思っていたのではないでしょうか。むしろ、小真に良い所を見せたい為に利用できる存在とすら思っていたかも知れません。自分がコミュ障ではなく外国人とも話せるという事、泳ぎが得意だという事、そんな姿をハンナを使ってみせたかったのかも知れません。ですが、そんな気持ちがハンナと関わっていく中でいつの間にか無くなっていきました。言葉が通じなくても何も分からない訳ではない、むしろ英語は多少通じますのでコミュニケーションを取る事が出来ました。それが嬉しくて、そして海で遊ぶ事が純粋に楽しくて、次第にハンナが傍にいる事が当たり前になっておりました。そんな中で発生した子供の水難と言葉が通じない父親との絡み、そしてエータを中心とした大学生グループとの絡みが、ますます昇の気持ちを掻き回していきます。

 スペックの高いエータが小真に歩み寄る姿を見て、昇は隠せない程動揺してしまいました。同じ大学生グループの女の子に絡まれても、やっぱり頭の片隅には小真がいました。大学生グループが下世話な集団ではない事が分かって、相手の事を推し量ってい考えていた自分が途端に恥ずかしくなったのです。だからこそ、小真の希望はちゃんと叶えてあげたいと思ったのだと思います。最後の最後、無茶をしてまで子供とハンナを助けに行ったのは、半分自棄だったのかも知れません。なんでこんなに頑張っているのだろう。救助隊に任せればよかったのではないか。そんな事も考えましたがもう後の祭り、自分の行動原理も分からないまま突っ張しった、大切な夏の思い出へと昇華したのです。

 結局のところ、最後の最後まで小真の気持ちは分かりませんでした。ハンナの事が好きなのかどうかも良く分かっておりません。それでも、もう一度小真とハンナに会いたい、その気持ちは本物でした。昇と宮下の間に何があったのかは分かりません。ですが、少なくともこの冬一緒に過ごす事が出来ない時点で何が終わったのだと思います。何か一つ決断をした昇、その先に何が待っているのか、非常に楽しみですね。ひと夏の経験を経たからと言って劇的に成長するはずがありません。それでも、何かを切っ掛けにしてその後の行動は幾らでも変える事が出来ます。そんな、昇の確かな成長を見る事が出来ました。ありがとうございました。


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