M.M 全ての恋に、花束を。




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 6 7 78 3〜4 2017/9/6
作品ページ サークルページ



<個性的な登場人物が、どのような幸せのカタチを見つけるのかを是非見届けて下さい。>

 この「全ての恋に、花束を。」は同人サークルである「Cosmillica」で制作されたビジュアルノベルです。Cosmillicaさんと初めて出会ったのはC89で同人ゲームサークルを回っている時でして、その時にプレイした「亡国のクルティザンヌ」という作品が非常に印象に残っております(亡国のクルティザンヌのレビューはこちらからどうぞ)。19世紀のフランスを舞台として愛に生きた2人の女性の生き様を描いたシナリオは、クラシカルなBGMもあり大変効果的に描かれておりました。何よりも百合という言葉で片付けられない真っ直ぐな求愛の姿はそれだけで美しいものであり、私のゲームレビューでも88点を付けさせて頂きました。そして今回プレイさせて頂きました「全ての恋に、花束を。」もまた百合を属性としております。それでも唯のフェチズムなシナリオでは終わらない予感を感じ、一文一文を噛み締めながらプレイさせて頂きました。

 主人公である星舟なぎさは、かつて夢を抱えて上京した女の子でした。ですが都会での生活に疲れ、周りで生きる人達のパワーに圧倒され、再び生まれ故郷である海沿いの田舎町に帰ってきました。父親からの仕送りで生きてはいけるものの、未来への希望も何もないニート生活の幕開けでした。そんななぎさの周りに突然女の子たちが集まってきたのです。しかもその女の子は誰もかれも普通ではない女の子ばかりでした。学生時代に可愛がっていた子犬を名乗る女性「のあ」、憧れのデザイナーに瓜二つの生きたマネキン「アリサ」、数年前に事故で亡くなった少女の幽霊「あやめ」、そんな人間ではない女の子に囲まれた不思議な同居生活が幕を開けるのです。

 私、この「全ての恋に、花束を。」というタイトルを見て第一に「綺麗だな」って思いました。それと同時に「どういう意味なんだろう?」とも思いました。恋には様々な形がありますが、基本的にその思いは尊いものであり報われて欲しいものであると思っております。言ってしまえば、全ての恋に花束を贈りたいという気持ちはある意味当たり前のものであり、敢えて言葉にする必要があるのだろうかと思ったのです。ですが、この作品をプレイしていく中でこのタイトルが持つ意味がじわりじわりと染み込んできました。全ての恋に花束を贈りたい。それは逆に言えば花束が贈られない恋なんてないという事です。この作品に登場するのはニート・犬・マネキン・幽霊です。世間一般的に普通ではない女の子ばかりです。そこで生まれる恋、それに花束を贈りたいという気持ちを、どうか大切にして読んでみてください。

 そしてこの作品にはもう一つテーマがあります。それは幸せになることです。幸せになると聞いて皆さんはどのような姿を思い浮かべるでしょうか。友達がたくさんいる、結婚している、お金持ちである、健康である、趣味が楽しい、人の数だけ幸せの形があり人の数だけ価値観があると思っております。そしてそれは彼女たちも同様です。夢破れてニートになり、故郷に田舎町に戻ってきて、突然人外の女の子と同棲する、そんな彼女たちの幸せとはどのような形でしょうか。少なくとも、ニートだからといって幸せになれないといった短絡的な事は有り得ませんね。もし自分がその場にいたらどのように思うだろう、そんな事を想像しながら読んでみるとより一層彼女たちの幸せを実感出来るかも知れません。

 最大の魅力は言わずもがな、主人公である星舟なぎさを中心とした登場人物達の賑やかな日常の描写です。この作品に登場する女の子は設定だけではなくキャラクターも非常に個性的です。素直で本能のままに動き回るのあ、クールでお姉さんキャラのアリサ、自分の気持ちに素直になれないながらも優しさを持つあやめ、そして内なる心を持ちながらもそれをどう表現すれば分からないなぎさです。これで平穏な日常が続くはずがありませんね。属性も巨乳、貧乳、年下、年上と様々であり、全年齢対象でありながらキャラクターゲームの側面としても楽しめます。また隣人であるイザベルなどのサブキャラクターも皆個性的であり、退屈することは決してありませんね。

 プレイ時間は私で約3時間50分程度掛かりました。この作品は選択肢があり、その結果で幾つかのエンディングに分岐します。分岐そのものは決して多くはなく、また選択肢の中身も簡単ですので全エンディングを見るのは容易だと思います。共通ルートがやや長い印象です。私は共通ルートで約2時間かかり、その後の分岐で約2時間でした。既読スキップを使わないと8時間は覚悟した方が良いかも知れません。場面転換は意外と速いですので休憩のし所は沢山あります。是非自分のプレイスタイルで読み進めて頂ければと思います。楽しさあり、笑いあり、涙あり、そして恋と幸せありの作品です。忙しない現代社会に生きる皆さんにとって、是非花束として届く作品であることを祈っております。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<「おかえり」と言って貰える事、そんなささやかな事こそが幸せである証でした。。>


「ーーーーおかえりなさい!」


 この言葉にたどり着くまでとても多くの時間が掛かりました。おかえりなさいって、意外と現代の人たちって言ってもらえる機会が少ないのかも知れませんね。おかえりなさいって言ってもらえるという事は、あなたを慕っている人がいるという事、そしてあなたが帰って心を落ち着ける場所があるという事です。そんなささやかな事がどれだけ幸せな事かを、十二分に噛み締める事が出来ました。

 社会人になり自分の責任で世の中を生きている皆さんであれば誰もが思う事だと思いますが、周囲の人間と軋轢を生じない事は生きる上で最も大切なスキルだと思います。人は一人では生きてはいけませんので、どうしても他人との関わりと円滑にする事は避けられません。ですが、SNSが発達し他人の言葉や行動が見えやすくなっている現代、あなたはどこまで自分と他人の距離を区別しているでしょうか。余りにも他人が見えすぎてしまい、「こうしなければ」「ああしなければ」という焦りが増えてはいませんでしょうか。他人に合わせていればとりあえず安心、例えそれが自分の意に反する物だとしても、果たして本当でしょうか。この心の楔を取り除くことはとても難しいものであり、これこそが主人公なぎさが同棲する彼女たちやイザベルと関わっていく中取り組んだ事柄でした。

 かつて自分の行動で母親を亡くしてしまい、愛する人の手が離れる事を何よりも恐れるようになってしまったなぎさ。それは彼女が自分らしく生きる事を妨げるものであり、自分の意志よりも他人の気持ちを優先する一番の理由となりました。他人に嫌われたくなく、だから自分のエゴを押し付けるなんて絶対にできない、ましてや、あなたの事が好きですなんて死んでも口にできない。それがジレンマとなり彼女の行動を制限しておりました。ですがそれでも抑えられないのが恋心でした。イザベルに背中を押してもらい、同じ家に住む彼女たちにサポートしてもらいながらなぎさは自分の気持ちに素直になって愛する人との幸せを捕まえに行きました。

 犬を助けるために嵐の中海に飛び込む、普通であれば考えられませんね。下手したら「あいつは変な奴だ」と指を指されるかも知れませんね。面識のない有名デザイナーを励ますためにアポ無しで単身家に押しかける、普通であれば考えられませんね。下手したら「あいつは変な奴だ」と指を指されるかも知れませんね。自分は血の繋がりがないのに「彼女は私の家族です」と血の繋がった父親に言いに行く、普通であれば考えられませんね。下手したら「あいつは変な奴だ」と指を指されるかも知れませんね。……この「普通」という言葉と「あいつは変な奴だ」という他人からのレッテルの何と罪深い事か!こんな根拠のない言葉でどれだけの人が苦しんでいるのでしょうね。だからこそ、この殻を破った瞬間からもうなぎさは幸せを掴んでいるのだと思います。最近読んだ本の一節に「幸せとは、自分がやりたい事を今この瞬間から始められる事」と書いておりました。非常に共感し大切にしている言葉です。まさになぎさの行動そのものであり、幸せのカタチだと思いました。

 そしてそんななぎさの本気の気持ちは確かに相手に伝わりました。というよりも、これだけの行動をなぎさが起こして響かない人なんて、いません。のあ・アリサ・あやめの3人でなくても、なぎさの実直で素直な行動には誰もが素直になるしかありませんでした。食堂の女将さんも、商店のおばあちゃんも、そして父親も皆彼女の事を認めており「幸せ」だと言っておりました。傍から見たら犬と2人きりで住んでいる年頃の女の子です。しかも犬と会話してるみたいに振舞ってます。変人だという人が出て不思議ではありません。でも、そんな事は関係ないんですね。他人の目なんて関係ない、自分の幸せは自分が決める、そんな人生で大切な事を教えてもらいました。

 そしてなぎさにはそんな自分が大切だと思っている人が待っている家があります。帰ればおかえりと言ってくれる人がいます。これ以上の幸せがどこにあるでしょうか!自分だけの幸せを見つける、大切な人を見つける、自分の帰るべき家がある、これこそが幸せの条件なのかも知れません。ネタバレなしで書きました「友達がたくさんいる、結婚している、お金持ちである、健康である、趣味が楽しい」このどれもが実は幸せの必要条件ではありませんでした。お金なんて無くてもいいのです。結婚してなくてもいいのです。ただ大切な人がいて帰る家がある、おかえりと言ってもらえる、それが幸せのカタチでした。余りにもささやかです。そのささやかな事の何と尊いことか!そんなCosmillicaさんが提案する幸せのカタチをしっかりと受け止めさせて頂きました。私も自分の幸せというものを探さなければいけませんね。いや、もう見つけてるかも知れませんね。それもこれも、他人に決めてもらうものでもないですからね!ありがとうございました。


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