M.M 亡国のクルティザンヌ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 9 - 88 3〜4 2016/2/4
作品ページ(R-18注意) サークルページ

体験版
エロゲと饗



<2人のヒロインからの真っ直ぐな求愛に身も心も委ねてみて下さい。そして2人に全てを奪われてください。>

 この「亡国のクルティザンヌ」は同人サークルである「Cosmillica」で制作されたビジュアルノベルです。Cosmillicaさんと初めて出会ったのはC89で同人ゲームサークルを回っている時でして、2人の女性が絡み合うパッケージから何とも言えない背徳な雰囲気を感じておりました。その後行われた同人ゲームを見せ合う会の中でもこの作品を取り上げていた方もおり、背徳な雰囲気に魅せられたのはどうやら私だけではなかったようでう。背徳の正体はただ2人の女性が絡み合っているからだけでしょうか。百合の雰囲気以上にひかれる何かを感じていたのですが果たしてそれは何なのでしょうか。その答えを探しに物語を読み進めていったのですが、気づかないうちに私も絡め取られるように2人の魅力から抜けだせなくなっておりました。

 時は19世紀のフランス。1789年のフランス革命を端に生じた混乱の中で軍事独立政権を樹立したナポレオン1世。その帝政は世代を受け継いで引き継がれ、1852年にナポレオン1世の孫にあたるルイ=ナポレオンがフランス第二帝政の皇帝となりフランスを治めておりました。そんなフランスは政治の面だけではなく文化的な面においても激動の変化に晒されており、パリ万国博覧会に象徴されるように様々な技術と文化が押し寄せておりました。そんなフランスの首都である花の都パリ、そこの裏社会ではクルティザンヌと呼ばれる高級娼婦が政治や経済で強い影響力をもたらしており、要人の愛人として取り入っておりました。物語はそんな経済界で名の知れたラロンド公が道端で倒れていたとある美女に出会ったところから始まります。1人のクルティザンヌと後に出会うみなし子による、背徳と純愛の物語が幕を開けるのです。

 この作品の最大の特徴はなんと言っても19世紀の激動のフランスを表現した雰囲気作りです。メインになる2人の女性は勿論フィクションですが、歴史の流れは全て史実でありルイ=ナポレオンを始め実在した人物も何人も登場します。政界の混乱や様々な画策など史実を元に作りこんでおり、本当に当時のフランスにタイムスリップしたかのようです。史実に忠実なのは政治だけではなく文化的な部分もでした。華やかさとは裏腹に孤児となりその日の食事にすらありつけないみなし子が何人もいたという事実や、新聞など当時のマスメディアを中心とした大衆的文化も描かれておりました。そしてそんな19世紀のリアルなフランスの裏で、ショパンのピアノがずっと奏でられているのです。この作品のBGMは全てクラシックです。それもピアノを中心としており、それがさながらバーで生演奏をしているピアニストの演奏のように徹底的にBGMとして立ち回っておりながら無視できない存在感を放っております。物語の展開の荒々しさとは裏腹にただ単調に奏でられるピアノ、まるで彼らが生きたフランスという時代を見守っているかのようです。そんな世界設定・BGMが作り出す雰囲気はこれまでお目にかかった事のないものであり、これがこの作品に引き込まれた1つ目の理由になったのだろうと思っております。

 そしてこの作品に引き込まれた2つ目の理由は、やはりメインヒロインである2人の女性の存在です。1人は裏の世界で絶大な力を持っているクルティザンヌであり、その魔性は全ての男どころかその妻や子供をも魅了し内から外から壊していきます。名前はニナ・フォートリエ。ですがその正体は実は男であり、天性の美貌は性差を超えて誰もが抗えないものでした。一方もう1人のヒロインは純粋無垢なみなし子であり、とある切っ掛けでニナと出会う事になります。名前はコレット・ルクレール。献身的にニナに奉仕する姿は素直そのものであり、その真っ直ぐすぎる想いに次第にニナも惹かれていきます。裏社会で絶対的な力を持っていながら心をすり減らしているニナ、そして力がなくても真っ直ぐな心を持ったコレット。この二背反律の様な2人の心の通わせがこの作品の全てであり、彼女達の純愛を描くために用意された舞台がこの19世紀のフランスです。2人の純愛がどのような結末を迎えるのか。帝国をも焼き尽くすと書かれている想いの正体は何なのか。是非心を空っぽにして2人からの求愛を受けて欲しいですね。

 プレイ時間は私で約3時間30分程度掛かりました。同人ビジュアルノベルとしては一般的な長さですが、実際のところその長さを感じるまもなく気がついたらプレイ終了しておりました。あまりにも一貫している雰囲気と2人の純愛に、時間の経過を忘れてしまいました。それだけこの作品が作り出す雰囲気は唯一無二の至高なものであり、この雰囲気だけでお腹いっぱいになれます。またこの作品にはボイスがあるのですが、とりわけ2人のヒロインの声はキャラクターと合っており日常の会話ですら魅了されます。ボイスを飛ばしたらもしかしたら30分は短くなっていたかも知れません。それ程までに聞き惚れたいボイスであり、尚の事2人の魅力を上げてくれます。純愛が好きな方、純愛というものの本当の意味を知りたい方には是非オススメです。至高の雰囲気を感じて欲しいですね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<おめでとうニコラ。おめでとうコレット。あなた達の純愛は、無事成就されたのですよ。>

 ……果たして2人は幸せだったのでしょうか?幼い時に両親が殺され、その復讐の為にその生涯を捧げたニコラ。そしてそんなニコラの心の支えになったコレットもまた、復讐の為にその生涯を捧げる事になりました。全てを成し遂げ幸せそうな表情で石畳に横たわるコレットの表情から、私たちはただ彼女の気持ちを想像する事しか出来ないんですね。せめて、死後の世界で2人慎ましくも幸せに寄り添いながら過ごしてくれればと願うばかりです。

 正直彼女たちの前にほとんど言葉は不要に感じます。激動のフランスの中で翻弄された2人のクルティザンヌ。その目的は帝国への復讐ただそれのみでした。そしてその復讐の原動力になったのは愛する人への想い。余りにもまっすぐなその愛は肉体関係を超えて何者も止めることが出来ないものでした。始めから外野が彼女たちの心を掴むことなど、出来るはずが無かったんですね。世の中の常識も他人からの視線も全く関係ない。瞳に映るのはただ愛する人の表情のみ。それさえ守れるのであれば国一つ滅びる事なんてどうでもいいことでした。これを純愛と言わずになんと言えばいいのでしょう!数々の男女と体の関係を持っても決して消えることのない処女性、まさにクルティザンヌの名前に相応しいと思いました。

 そんな2人だからこそ、世の中の男女は魅了されたのでしょうね。扇情的な体と官能的な言葉で骨抜きにするテクニックだけが彼女達の魅力ではありませんでした。その本質は追いかけても追いかけても決して掴む事の出来ない心。そしてその心を掴もうとしてもその前に果ててしまう圧倒的な魔性。気高い処女性こそが彼女達の魅力。他人になんて決して心を許さず孤高の存在で有り続けたからこそ、全ての男女は魅了されたのですね。ルイ=ナポレオンこの2人の存在に触れてしまったその瞬間から、もうフランスの終焉は約束されていたのかも知れません。無限のHPを持つ存在にどれだけ斬りかかっても決して殺す事は出来ません。この2人に取り入るという事はそういう事だったのです。

 だから私は彼女たちの人生観については一切口出ししません。口出ししようものなら、それこそ彼女たちに私が殺されてしまいます。お互いがお互いを向いた純愛。たとえミス・ハワードから植えつけられた復讐心から始まったものだったとしても、その純愛は本物でした。でなければ、全てを終えたコレットが殺されたときにあんなに満足気な表情をするはずがありません。コレットにとって、帝国の血を受け継いだ自分が死ぬことすら喜びだったのです。これで全ての復讐が終了しました。今頃天国か地獄か分かりませんが、2人仲良くコレットの作ったオムレツを食べる慎ましやかな幸せが包んでいることと思います。おめでとうニコラ。おめでとうコレット。あなた達の純愛は、無事成就されたのですよ。

 ニコラとコレットの亡骸は恐らく現代のフランスには無いでしょう。絶対的な魅力を持ちながらも誰にも心を許さなかった2人を葬る人がいたとは思えません。逆にルイ=ナポレオンとその愛人であるミス・ハワードの存在は死後寄り添いながら永遠に残ることになりました。この対比もまた印象的でしたね。ルイ=ナポレオンもまた、始めからコレットの事を見てはおりませんでした。コレットにハワードの面影を重ねて頂けなのです。彼が没落してなお愛していたのはミス・ハワードその人。ここにもまた美しい純愛が存在しました。愛の為に生き愛の為に死んだ3人のクルティザンヌの物語。私なんかが覚えていなくても永遠に続いていくのだと思います。他人の手の届かない、お互いだけが存在すればいい遥か彼方の世界で。ありがとうございました。


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