M.M しずくのおと -fall into poison-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 7 81 5〜6 2016/2/14
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<dropで隠された真実が明らかになったとき真弓はどのような決断を下すのか。是非その結末を見届けて欲しいですね。>

 この「しずくのおと -fall into poison-(以下poison)」は同人サークルである「あいうえおカンパニー」で制作されたビジュアルノベルです。あいうえおカンパニーさんの作品では前作である「しずくのおと -sound of drop-(以下drop)」や「PROGRESS」をプレイさせて頂き、とにかくヌルヌル動く演出と細かなキャラクター描写がとても印象に残っておりました。今回レビューしている「poison」は前作「drop」のリメイク版であり、シナリオの大幅追加、映像・画像・音源を一新したHD版です。まさに「しずくのおと 完全版」と呼べるものになっております。ここではpoisonで新たに追加になった要素についてのみ筆を取らせて頂き、それ以外の部分については以下のdropのレビューを参照頂ければと思います。

「しずくのおと -sound of drop-」のレビューはこちら

 しずくのおとのジャンルは「ミステリ・ホラー」となっております。その凄みはdropの時から体感させられており、要所要所で思わず「うわっ!」とビックリしながら進めておりました。そして理不尽な展開ながらも物語の真実につながるキーワードが散りばめられており、それぞれの意味を考察しながら真実にたどり着くミステリー要素も十分でした。そんなホラー要素溢れるdropの画質が高くなり、さらに一部のCGを差し替えたという事で恐怖も倍増しましたね。poisonをプレイしていてdropの時と同じ展開でありながらCGだけ指し替わっていて、一度通った道だからこそ油断していて無警戒のまま新CGを見て驚かされました。dropをプレイされた方でも是非やり直して頂き満天水族館の恐怖を再確認して欲しいですね。

 そして音楽面でも大幅な追加がなされております。最大の特徴はボーカル曲の追加ですね。あいうえおカンパニーさんお得意の高画質・ヌルヌル動く映像によるOPムービーは吸い込まれる魅力があり、これからプレイヤーも一緒に満天水族館に足を踏み入れるんだという事を実感させられます。BGMも新曲が沢山あり、dropで15曲に対しpoisonは21曲と大幅に増えております。しかも要のポイントで流れるBGMが追加されているという事で緊張感が増しており、単純に曲数が追加になっただけではない魅力があります。他にも効果音がとてもクリアになっておりました。水族館という事で水の滴る場面や水の上を歩く場面、扉を開閉する場面ばあるのですがその時その時の音が嫌にリアルでそれだけで恐怖感が増します。視覚だけでなく聴覚も巻き込んで恐怖感を煽っており、満天水族館の魅力を引き立てております。

 そして最大の特徴は追加シナリオの多さですね。しずくのおとは沢山のBAD ENDがある事も特徴であり、dropでは3つのTRUE ENDに対して19個のBAD ENDが用意されておりました。ですがpoisonでは4つのTRUE ENDに対して27個ものBAD ENDが用意されておりこれだけでも大幅に加筆された事が分かります。しかも新規に追加されたTRUE ENDはそれだけでdropのメインシナリオ並のボリュームがあり、dropで語られなかった真実とpoisonの意味を見せてくれます。これを見ずして満天水族館から脱出する事は出来ませんね。dropで隠された真実が明らかになったとき真弓はどのような決断を下すのか。是非その結末を見届けて欲しいですね。

 プレイ時間は私で5時間35分程度掛かりました。drop部分をやり直したのが2時間15分程度で、残りの3時間20分は全てpoisonの追加部分をプレイする為に費やした時間です。実はこのpoisonの追加シナリオですが、思いのほか分岐するのが困難です。私もpoisonの分岐部分にたどり着くまで1時間30分くらいずっとセーブ&ロードを繰り返しておりました。一度分岐してしまえば後は殆ど迷うことはないのですが、そこにたどり着くまでちょっと大変かも知れません。簡単にメモを下に残しましたので参考にして頂ければと思います。

poison新規シナリオ分岐メモ(最低限の要点のみ)

私はしずくのおとの魅力はBAD ENDも含めてだと思っております。理不尽に怖い目にあい理不尽に死んでしまうのは実にホラーらしく、多すぎるBAD ENDはその象徴だと思っております。私のプレイ時間は全てのTRUE END及びBAD ENDにたどり着くまでの時間です。一つ一つの選択肢を考え、正しかったのか間違っていたのか感じながらプレイして頂けれだ楽しくなると思います。是非満天水族館の魅力を堪能し、満天水族館に恐怖してそれでも先へ進んでみてください。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<大切なのは自分の選択に覚悟を持ち、毒を飲み込んでそれを受け止めろという事だと思いました。>

 最後までプレイして何ともまあ侘しい気持ちになりました。満天水族館の悲劇を生み出したのは他ならぬ人間のエゴを前面に出した事が理由でした。そして死後もなお自分の気持ちに囚われ、何人もの尊い犠牲を出してきました。私はこの作品で言っているpoisonとは人間のエゴの事であり、まさにfall into poisonの副題に相応しい人間心理であったと思っております。

 dropでは純粋な被害者だったと思った桜木伊砂雄、ですが実態は何ともまあ自分本位な人物でした。水族館を学術研究の場と捉え生物の多様性を模索する思想は立派に思えました。ですが全ての研究にはお金が必要であり、その為に鷺沼理恵子が打ち出した施策は必要なものでした。両者とも満天水族館の事を考えての行動であり満天水族館が無くなる事など望んではおりませんでした。何故あそこまで頑なになる必要があったのか。そこまで自分の気持ちが大切だったのか。思うに既にこの時点で桜木伊砂雄も鷺沼理恵子も満天水族館の毒に侵されていたのかも知れません。fall into poisonしていたのは、2人の心だったのです。

 そしてそんな満天水族館の最大の被害者となってしまった中延真里。彼女もまた寂しさ故に毒を持ってしまいました。dropでのTRUE ENDの様な綺麗なものだけが全てではない。人間どんなに努力してもどうしても変われないものがあるという事をpoisonで教えてくれたのだと思います。それでも真里は純粋でした。純粋であるが故にそんな自分が指向性を持ち人間として死ぬ事を避けるために、最後敢えて概念として消える事を選択しました。最後の最後、真里の存在のない世界で真弓は友達3人楽しくお喋りしながら過ごす日常を送ってました。そんな真弓の目に止まった一輪の青いバラ。あれは真里が残したpoisonの残滓の表れでした。最後それを見届けて少し真里の事を思い出して再び歩み始めた真弓。真里はどうしてもお姉ちゃんと一緒にいたかったんですね。そしてそれでも優しい彼女ですので迷惑をかけれないから、あんなバラ1本だけの姿でしか訴えなかったんですね。

 ですが本当の意味で真里を惑わせたのは他ならぬ真弓でした。最後の選択肢、そこで真弓が真里に思わせぶりに期待を持たせるような事を言うから、最後の最後まで真里は悩んでしまいました。あの選択肢は実に考えさせられました。真里はもう真弓と一緒にいることは出来ない。唯一それが出来るとしたら真弓も死ぬという事だけ。ですがどちらの選択肢を選んでも真弓に奇跡は起こせず仲良しの姫乃・砂夜と一緒に眠り続けるEDでした。結局のところ真弓と真里は一緒に入れない運命でした。それでも青いバラという形で自分の存在を見て貰えればそれで十分?でもそれは永遠にそれ以上近づけない事の象徴、ならばきっぱりと諦めてお互い居なかったものとして認識した方がいい?私は真里にとって青いバラEDの方が遥かにBAD ENDだと思いました。そしてそれはきっと真実であり、TRUE ENDなんだと思います。TRUE ENDはあくまでTRUEであってGOODではないんですよね。最後のTRUE ENDこそ究極のBAD ENDであり究極のTRUE ENDだと思いました。

 誰が悪いとか誰が良いというのは本人が判断するのではなくその後時が経った未来の人が判断するのだと思っております。この作品に無数に用意されたTRUE ENDとBAD END。途中まではその名の通りプレイヤーも納得できるものだと思いますが、最後の最後「-fall into poison-」ENDを見た時振り返って皆さんどう思ったでしょうか。こんな報われない結末が待っているなら始めから知らなければ良かったとも思いませんか?何も知らないまま死んでしまう無数のBAD ENDの方がまだマシに見えてきませんか?それでも「-fall into poison-」を最後のTRUE ENDにしたのはこの事実を受け止めろという事。大切なのは自分の選択に覚悟を持ち、毒を飲み込んでそれを受け止めろという事だと思いました。ありがとうございました。


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