M.M しずくのおと -sound of drop-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 7 - 78 2〜3 2015/3/9
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<ホラーを演出する要素は同人ビジュアルノベルの中でも非常に高レベルだと思いますね>

 この「しずくのおと -sound of drop-」は同人サークルである「あいうえおカンパニー」で制作されたビジュアルノベルです。あいうえおカンパニーさんと初めてお会いしたのはC86で島サークルを回っている時でして、青で全体的に染め上げたパッケージとそれ以上に裏面の血に染まったヒロインの表情が大変印象的だった事を覚えております。ジャンル名も「アクアリウムホラーADV」という事で普通のシナリオではないことは明白ですし、それなりの覚悟を持ってプレイしようと思い今回のレビューに至っております。

 主人公である中延真弓は中学三年生です。都内の都市である満天市に住んでおり、友人である多摩川姫乃と普通の中学生活を送っておりました。満天市の中心には満天イーストビルという複合商業施設が入っております。その中にあるテーマパークである満天水族館。ここが本作の舞台になります。満天水族館にはここ最近色々な噂が飛び交っておりました。水槽の水が赤くなる、人面魚が現れる、おじさんの幽霊が現れる。そんな都市伝説は皮肉にも水族館の来場者を増やす事となり、今日まで営業しております。そんな都市伝説の謎を探るべく2人は満天水族館に潜入する訳ですが、それが彼女たちの運命を分けることになりました。

 上でも書きましたがこの作品のジャンルは「アクアリウムホラーADV」です。残念ながら穏やかなままエンディングを迎える事は出来ません。都市伝説は本当であり、2人は怪奇現象に巻き込まれていきます。正直言ってホラーの演出は中々のものでした。BGMの使い方、効果音のタイミング、グラフィックのリアルさ、どれを取ってもシナリオをよく検討して作りこんでおり、私自身まともに画面を見る事は出来ませんでした。ホラーの怖さって、もうプレイヤーにはどうしようもなく回避できない恐怖を味わう事だと思っております。どんなに抗っても絶対に逃れることは出来ない。そんな人間心理をガッチリとついてくるシナリオは是非読んで頂きたいですね。

 そしてこの作品には選択肢が多数登場します。もっと言えば、選択肢を間違えると簡単にBAD ENDに行ってしまいます。タイトル画面でEDを確認する事が出来るのですが、その段階でBAD ENDが10以上あることが分かっております。それだけ油断ならないという事ですね。加えてBAD ENDはBAD ENDらしく相当救いのない展開が多いです。何しろホラーですからね。五体満足で帰れる保証なんてどこにもありません。是非プレイヤーも唯の傍観者ではなく主人公と一緒に満天水族館を歩いて満天水族館の謎を解明して欲しいですね。

 プレイ時間は私で2時間40分掛かりました。先が気になる展開に一気に最後まで読んでしまいました。勿論すんなりとエンディングにはたどり着けず何回かBAD ENDに行ってしまいましたが、その度にSAVEを行い回り道をしながらも正規のエンディングは全て見ました。この作品、演出も相当です。言ってしまえばよく動くんです。その為クセになる人は結構出ると思います。動きのある演出と上でも書いたBGM等の各種要素のこだわり具合、同人ビジュアルノベルの中でも非常にレベルの高いものとなっておりますので、その辺にも注目してプレイして欲しいですね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<この作品は、中延真弓が自分の気持ちに正直になり後ろ向きだった自分に決別する物語でした。>

 いやいや、本当に怖かったです。何が怖いって、先が読めない展開に常に緊張感を持たなければいけなかったところですね。扉をくぐるたびに変化する状況、豹変する登場人物達、そして赤の描写、まさにホラーそのものという印象でした。

 しかし、そんなホラーですが元をたどれば人間の無念が怨念となり残った事が原因でした。業績が悪化していく中で決断を迫られていた桜木館長、そんな館長に嫌気がさした人物によって最悪の形になってしまいました。水族館を愛していた館長にとって、魚たちが大量に死んでしまった事実はさぞ無念だった事でしょう。その悔しさに我を忘れ、気が付けば周りの魚たちと共に怨霊として赤の満天水族館を作ってしまいました。そしてそんな赤の満天水族館に閉じ込められたのは館長だけではありませんでした。館長を殺した張本人である鷺沼理恵子、そして何も分からないまま死んでしまった中延真里です。彼女らも形は違えど無念を残して死んでました。彼女たちの想いも解消しない限り赤の満天水族館は残り続けたんですね。

 ではどうやって館長たちの無念を晴らすことができたのでしょうか。それはひとえに中延真弓の友人を助けたいという想いの強さでした。タイトルにあるしずくのおと、エンディングでも言っておりましたがこれは中延真弓の心の訴えでした。彼女の心の決断がしずくとなり、その音が彼ら死んでしまったものに届いたのだと思います。中延真弓も始めは赤の満天水族館についていけず後ろ向きな気持ちでした。ですが状況を把握し目指すべき方向が定まった時、彼女は強くなってました。友人を助けたい、妹を救いたい、その決断力は一緒に満天水族館の秘密を解き明かそうとした桜木砂夜の望みも叶える形になりました。始めは甘いを一蹴された真弓の想い、結局はそれが全ての謎を解き明かし解決する為の鍵でありました。

 人間ですので純粋な気持ちだけでは生きていく事は出来ません。時には親しい者同士でもぶつかり合い啀み合うことはあります。それでも最後には仲直りし新しい関係に変化していくものです。中延真弓と多摩川姫乃の関係はまさにその象徴で、本当「雨降って地固まる」でした。やっぱり誤解を解く努力って必要ですね。本音でぶつかり合わないと決して赤の満天水族館からは脱出できなかったと思います。本音を隠して脱出してもそこには歪みが残り、結果幸せにはなれませんでした。この作品は、中延真弓が自分の気持ちに正直になり後ろ向きだった自分に決別する物語だったと思っております。

 まとまらなくなりそうですのでそろそろ締めたいと思います。ホラーの演出は本当に怖く真っ直ぐに画面を見る事すら出来ませんでした。特に人面魚の場面では思わず「うわあ!」って声を出してしまいましたね。ですがそんな場面も乗り越えてたどり着いた先に待っていたのは人間の当たり前の感情でした。善も悪も、全てひっくるめて人間でありそれを受け止める事が大切でした。今後中延真弓と多摩川姫乃はまたお互いぶつかり喧嘩もすると思います。ですが絶交にはならないと思います。本当に失ってはいけないものに気が付けたのですから。彼女たちの末永い幸せを祈ってレビューの終了とさせて頂きます。ありがとうございました。


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