M.M シロナガス島への帰還




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 8 8 86 6〜7 2019/1/6
作品ページ サークルページ



 この「シロナガス島への帰還」は、過去に発売された「シロナガス島への帰還 DEAD END VER.」の内容を包括した完成版となっております。その為、ネタバレ無しのレビューにつきましては下記リンクにある「シロナガス島への帰還 DEAD END VER.」のレビューからご覧ください。

「シロナガス島への帰還 DEAD END VER.」のレビューはこちら

※このレビューにはネタバレしかありません。「シロナガス島への帰還」の完成版をプレイされた方のみサポートしております。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。





















































































<今回のシロナガス島の事件を通して、ホンの少しでもねね子が前向きな気持ちになってくれたら嬉しいです。>

 最後までプレイして、よくもまあこれだけの要素を詰め込んだなと驚いてしまいました。DEAD ENDは所詮ループする仮想世界のホンの一周部分でしかありませんでした。そして、想像以上に多くの人の因縁と想いが交錯し目的のために奮闘する様子に感動しました。限られた生を生きる事、その中でどんなことを成し遂げれば良いのかを真剣に考えさせれるシナリオでした。

 まずはミステリー部分について書こうと思います。嬉しい事に、私はトマスとレイモンド卿を殺した犯人Xであるジゼルを当てる事が出来ました。実際のところ、消去法でした。決め手は本館と客室館を結ぶ橋についてしきりに「水たまりがあるだけ」と言っていた事、そして客室の間取りでした。まずは水たまりについてですが、元々雨ざらしの通路ですので水たまりが出来るのは何も不思議ではありません。それなのに、そんな当たり前の水たまりについてやたらと言及していたのが気になりました。その上でのトマルの焼失と橋の温度が高い、極めつけはスピリタスですからね。この時点で鉄扉の開閉が出来る可能性のある人物に絞りました。続いて客室の間取りですが、これはレイモンド卿の死体が移動している点が鍵になりました。単純な真上ではない、そう考えた時に先の鉄扉の部分を組み合わせて、ジゼルとなりました。素直に嬉しかったですね。ちなみにウィザースの正体については、ワインに注目して始めはジェイコブを選んだんですよね。その後ジェイコブでない事が分かりましたので、消去法でリールと分かりました。こっちはちょっと残念でしたね。

 続いてクリックアクション部分についてです。どの場面もクリックすればする程情報が増えていき、それらをメモって行く過程が楽しかったです。個人的には、後半視点が池田からねね子に代わってからが楽しかったですね。ねね子がビビりながらもロッカーやホルマリン漬けを見ていく様子が微笑ましかったです。そして、あの爆弾処理の時間制限の演出は焦りましたね。ちょっとよそ見していたら一気に赤いバーが減っていくんですもの。温度センサーについては普通に「えっ?えっ?」って言っているうちに終わってました。ですがその後は安定して解く事が出来ました。積分も真面目に計算しましたからね。最後のAuroraを一発でを当てれたのは嬉しかったですね。青のリボン、これがパッと出たのが決め手でした。本当に爆破処理をしている気分になり、純粋に楽しかったです。

 それではここからはシナリオとキャラクターについて書こうと思います。まずは脳スキャンについては普通に驚きました。DEAD ENDを迎えて二週目、ワザと銃で撃たれたりしてBAD ENDを目指したのですが一向に死ぬ気配が無いのです。その段階で薄々仮想世界っぽいなとは思ってましたが、あそこまで本格的だとは思いませんでした。そして、池田が仮想世界に閉じ込められているところを助けるのがねね子というのが嬉しかったですね。頭脳明晰で完全記憶を持っているねね子ですが、それ以外は怖がりで超絶コミュ障の女の子です。そんな彼女がついうっかりエレベータにコマンドを打ち込んでしまってから、本当の戦いが始まりました。シロナガス島の悪魔が潜む地下で、資料を探しセキュリティを突破し、そして池田を救出する、大金星でした。どうすれば池田に今いる世界が仮想世界なのかを気付かせるだろう、そう考えた時に思いついたペンギンは見事でした。

 この作品は様々な人物の想いが交錯しております。ある人は復讐、ある人は過去との決別、ある人は真実の探求です。そういう意味で、ねね子だけはそんな因縁とは関係ありませんでした。たまたま池田の助手として付いて行ったら巻き込まれただけです。生き残れればそれでいい、もしねね子がそんな事を言ったとしても誰もねね子を非難する事は出来ませんし当然の気持ちだと思います。ですが、ねね子はそうは言いませんでした。いや実際は口に出していたかも知れませんが、心の底では皆で生き残る方法を真剣に考えていました。そしてその想いはジゼルの仮想世界にダイブする事で完全に自覚する事になるのです。

 私は歓喜しました。あの臆病で口うるさくてマスコットみたいなねね子が、自分の意志で死ぬかもしれない状況に飛び出したのです。そして、ジゼルの経験を追体験する事でもっと自信が持てるようになりたいと思うようになったのです。この作品は、私にとってはねね子の成長物語なのかなと思っております。完全記憶を持っているが故に忘れたくても忘れられない苦い記憶を積み重ね、超絶コミュ障になってしまったねね子です。今回のシロナガス島の経験でそれが更に積み重なりました。それでも、最後日本に帰るねね子の表情はとても良い顔つきになっていたと思います。自分のような境遇の人は誰もいない、自分は可哀そう、実はそうではない事を今回学んだのかなと思っております。シロナガス島からの帰還、それは過去の自分から一歩前に進む事を意味していたのかも知れません。

 最後に、この作品のメインテーマである死生観について触れようと思います。完全な不死、きっと誰もが夢見る事だと思います。肉体が朽ちる事無く精神も崩壊する事もない、夢のようですね。ですが、それを実現する為に沢山の人を犠牲にしてきました。沢山の人を犠牲にする、それはその人とそれに関わった数多くの人の想いも犠牲にするという事です。そんな犠牲の上に成り立つ完全な不死に、何の意味があるでしょうか。作中でもジゼルは「人は、その死までに何をやり遂げたかで一生の価値が決まる」と言っておりました。人間は一人では生きてはいけません。だからこそ、周りの人に誇れない事はしてはいけないんですね。それを忘れて完全な不死の魅力に取りつかれた多くの人達、最終的にそんなものは無くなってしまいましたね。それで良かったのだと思います。沢山の人の犠牲の上の結論、それが「完全な不死など必要ない」だとしたら、やっと彼女らは報われるのかも知れません。

 本当は各キャラクターについて掘り下げられます。アウロラとかジゼルの過去とか、ジゼルとアキラの主従関係とか、池田とリールの友情とか、池田とねね子のビジネスライクな関係とか、アキラとねね子の蛇とお風呂とか、そのどれもが泣きそうになる位に尊い関係ですからね!それらについては、プレイされた方々と話す事にします。私は、このシロナガス島の事件を通してねね子が少しでも前向きな気持ちになってくれただけで十分です。彼女はとても優秀ですので、きっとこれからも池田と組んで色々な事件を解決するのかも知れません。もしそんな機会があったら、より頼もしい助手の姿を見せてくれることと信じております。最後まで飽きる事無く楽しませて頂きました。ゲーム性もありミステリー性も抜群でキャラクターも魅力的、冒頭でも書きましたがよくもまあこれだけの要素を詰め込んだなと驚いております。また同じ様な壮大なミステリーを読んでみたいと思いました。ありがとうございました。


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