M.M 親愛なる孤独と苦悩へ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
10 8 9 93 15〜17 2017/5/13
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<あなたもこの作品の中から、是非「人生」というものを見つめてみては如何でしょうか。>

 この「親愛なる孤独と苦悩へ」という作品は同人サークルである「楽想目」で制作されたビジュアルノベルです。私にとって楽想目さんとの出会いは劇的でした。2015年3月27日、私の元に1通のメールが届きました。それは楽想目の代表であるものらす氏からのメールでして、内容は「REVIVAL RESETというノベルゲーム(全年齢向け)をレビューしていただけないか」というものでした。当時はこのレビューサイトを立ち上げて9年目でして、同人ビジュアルノベルの本数もある程度増えてきた時期でした。ですが実はそれまで「レビューを書いて欲しい」というお願いをフォーマルな形で受けたことが無く、ものらす氏から依頼が人生初でした。非常に感激し早速「REVIVAL RESET」の方をプレイさせて頂きました。

 「REVIVAL RESET」についてはこちらのレビューをご覧頂きたいのですが、同人ビジュアルノベルとしては比較的長いボリュームでありながら最後まで見せ場を用意した「ドラマティックな場面転換」が印象的な作品でした。また単純な選択肢を選ぶだけではないギミックも用意されており、ノベルゲームとしての面白さもありました。その後ものらす氏とはコミケやノベルゲーム部などで何度もお会いした事があり、お酒を交わしながら雑談したこともありました。その中で「REVIVAL RESET」の感想を良いも悪いも全部お話させて頂いたのですが、その時に「絶対に世の中を震撼させる作品を作ってやるんだ!」と意気込んていた様子が印象的でした。そんなものらす氏がシナリオを手がけた新作が今回レビューしている「親愛なる孤独と苦悩へ」であり、まさしくものらす氏宣言通りの魂が込められた作品となっておりました。

 この作品の主人公は3人の大学生です。内田姫紗希、那古龍輔、都宮海の3人であり、それぞれ場所も学年も趣味も違います。3人はそれぞれ悩みを抱えておりました。それは将来に対する不安だったり、自分自身のやりたい事だったり、人間関係だったりと様々でした。大学生というモラトリアム最後の時間を過ごしている彼ら、その焦りからウェブ上でカウンセラーについて検索を行いました。その39ページ目、非常に簡素なデザインのHPを発見するのです。そのHPの運営者の名前は「橘真琴」。通称まこちゃん。彼女との対話とカウンセリングが、彼らの人生と運命を動かしていきます。さあ、カウンセリングを通して彼らの人生を見つめましょう。そして同時にあなたの人生をも見つめ直していきましょう。

 この作品では心理学というものを扱っております。私自身、人間の心というものを一概にこうだと決める事はナンセンスだと思っております。それでも社会という人と人との繋がりの中で生きている以上、円滑にそして効率的に生活する為に不安要素は解消していきたいものです。そうした他人の意識・視線・常識といったものを自分の中でどう消化するか、これは人生の中での永遠の課題だと思っております。時にはそれに過剰に悩みでしまい、精神的にまいってしまう時もあると思います。そんな時に心理学は有効であり、それを効率的に他者に教えてくれるのがカウンセラーです。カウンセリングを受けるのは、何も躁うつ病を患っている人だけではないという事です。

 この作品の最大の魅力は、登場人物一人一人の心理描写を丁寧に表現したテキストと表情です。上記の通り、カウンセリングとはカウンセラーと相談者との対話の繰り返しです。そしてカウンセリングは文字や音声だけで行うものではなく、お互いの表情・声・仕草を総合的に見て行います。単純に言葉で発したことが全てその人の本心ではないという事です。まだ自分が気づいていない心の深層、それが視線の動きや会話の間、汗や表情に現れるのです。この作品ではそうした人間の人間らしい動きや行動を丁寧に表現しており、プレイヤーもまたその場に第三者として立ち会っているかのような錯覚に陥ります。特に表情差分の多さとテキストでの三点リーダーの使い方が見事ですね。これでもかと言わんばかりに間を研究しております。そうした性質上シナリオの劇的な展開はなくゆったりと時間が経過していきます。物語の結末や事象を追いかける作品ではないという事です。是非一人一人が抱えている悩みを一緒になって考えて欲しいですね。

 そしてこの作品では実際に相談者に対してカウンセリングを行うのですが、それはゲームの中だけではなく私たちプレイヤーも実践するべきものとなっております。その一部は公式HPでもサンプルとして紹介しておりますので是非参照して欲しいです。ここでも一例をあげてみます。新入社員として会社に入社したあなたは上司に認められたいと思っております。ですが、経験が浅く些細な事でミスをしてしまいます。上司に怒られたあなたは「自分は上手く仕事が出来ない」と悩んでしまいます。周りの人は「上手く仕事が出来なくてもしょうがないよ」と励ましてくれますが、どうしても心のつっかえが無くなってくれません。あなたが本当に悩んでいるのは「仕事が上手く出来なかった事」でしょうか?それとも「上司に怒られた事」でしょうか?もしくは「昔から父親に怒られた事がトラウマになっている」のでしょうか?とまあそのように悩んでいる事について深く深く自分を見つめていき、本当に悩んでいる事を見つけ出すのです。そしてその事が実は些細だったりすると、表向きの悩みは意外と大した事なかったりするのです。これが心理学の力であり、カウンセリングの効果です。そんな体験も味わう事が出来ると思います。

 その他注目するべき点としましては演出が挙げられます。「REVIVAL RESET」でも思いましたが、楽想目さんの作品は本当に盛り上がり盛り下がるポイントを演出するセンスが良いです。通常は人と人との対話を淡々と丁寧に描いているだけですが、いざ物語の佳境に入った時にそれまでなりを潜めていたBGMが躍動し出し、カットインなどの動的な演出が入ってくるのです。これには誰もがテンション上がりますね。丁寧に心理描写を読み解くテキストに物語の山谷の落差の演出、そのどちらも絶妙に仕上がっておりました。楽想目さんはいったいどれだけの考察とトライアンドエラーを繰り返したのだろう、その苦労が伺えました。

 プレイ時間は私で15時間10分でした。一般的な同人ビジュアルノベルと比較してかなりボリュームがあります。それでも、私自身ドップリとのめり込んでしまい。特に後半は7時間程度食事を取るのも忘れて没頭してました。早く続きが読みたい。彼らの決断を見届けたい。どのようなエンディングになるのか見たい。そうしたワクワクと不安が入り乱れ、途中何度も胸を締め付けられ何度も涙を流しながらプレイさせて頂きました。ものらす氏が今作に対して非常に気合を入れて作られている事は知っておりましたし「REVIVAL RESET」の前例がありますので相当なものを仕上げてくるという予感はしておりましたが、まさかここまでのものになるとは思っても見ませんでした。感動という一言ではとても表現できない、楽想目さんらしい魅力が詰まっております。是非あなたもこの作品の中から、自分の人生というものを見つめてみては如何でしょうか。非常にオススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<酷い人生、そんな人生もいいんじゃない。>

 ……プレイし終わって、ここまで余韻が美しい作品があったでしょうかと思いました。それだけ言葉に出来ない魅力が詰まっており、私自身彼らの生き方に何度も胸を締め付けられそして泣いてしまいました。人って、どうしてこんなにも不器用でひねくれているのでしょうかね。そして、それなのにどうしてお互いを愛さずにはいられないのでしょうね。本当、人間って面倒くさくて人生って不思議だと思いました。

 レビューの本筋から逸れますが、私はビジュアルノベルをプレイしている時は必ずメモ帳を開いてメモを取るようにしております。それは登場人物のセリフを記録したり伏線を忘れないようにしたり、印象的な言葉やその時々の私の心情を書いたりとザックバランなものです。改めて振り返ると「なんでこれメモったんだっけ?」みたいなものもあり、メモの全てをレビューに活かしているかといったら正直微妙です。それでもこのメモにはプレイ中に思った生の気持ちがドロリと書かれているものであり、書いているその瞬間の気持ちは本物なのは間違いありません。

 そして今回「親愛なる孤独と苦悩へ」のレビューを書くに辺りメモを見返していたのですが、一番多く書かれていた言葉は「寂しい」という言葉でした。寂しい、決してポジティブな場面で使う言葉ではありませんね。「寂」という漢字は「家の中で人声が細く小さくなったさま」から成り立っております。周りに人がいなくて心細い。心が満たされなくて怖い。何となく活力が沸かない。様々な場面で使う言葉であり、一概にここという場面で使う言葉ではないのかも知れません。ただ全ての使い方に共通するのは「漠然とした不安」だと思っております。そして、どの登場人物もこの寂しいという気持ちを味わい、そこから自分の未来を切り開いていきました。

 内田姫紗希は優秀な姉と常に比較され、両親からの愛情を貰っていないという寂しさを抱えておりました。ですがその姉もまた両親からの過度な期待に参っており、その気持ちを妹にぶつけてしまいました。愛情を貰っても苦しい、愛情が無くても苦しい、そのような育て方をした両親を憎んでおり、その反発心から教育を志してきました。ですがそれは素直に両親と会話が出来ない寂しさの裏返しでした。本当、自分でも気付かなかった理由でした。失敗してはいけない、上手く振舞わなければいけない、ちゃんとした道に進まなければいけない、確かにそれらは全て父親の厳しい教育によるものです。それらの原因を解除していく中で、やっと両親に甘えられない寂しさに気づけました。そしてそれは両親も同じでした。姉が家出し、その行き場のない気持ちを妹にぶつけてしまった後悔を抱えておりました。本当に不器用な家族。ですがそれにようやく気付けましたので、これから少しずつ寂しさを解消しながら生活していけると思います。

 那古龍輔はもっと単純でした。格ゲーばかりで生産的な未来のビジョンが持てないという悩みは傍から見て非常に贅沢なものです。何しろゲームと人生を天秤に掛けているのですから。もちろんそうした思考そのものが偏見の塊であり意味のない言葉である事は明白です。それでも作中龍輔が「現実的じゃない」と言っていた通り、普通は選択しない道でした。では何が引っかかっていたのか、それはたった一人の妹の存在でした。龍輔はただ妹に兄らしく出来ない事が寂しかったんですね。妹が喜ぶ顔が見れればそれで良かったんです。そして同時に自分の発言や行動が妹の人生にも影響を与えてしまったのではないかと不安に思ってました。実際、才能なんて本当に1%も満たないひと握りの人間しか持っていないと思います。それでも妹にカッコ悪い姿を見せられない龍輔は才能という言葉を使い続けました。それが小説という未来を潰してしまったのではないか?そんな自責の念に苛まれてました。だからこそ、最後のバトルで奇跡の逆転を果たした龍輔は格好良かったですね。十分兄らしい姿を魅せられたと思っております。

 都宮海と朽木尋の関係は、まさに人間の最も不器用な部分を表現したものだったと思っております。お互い絵を描く事が好きなのは共通でした。ですが絵は芸術ですのでどうしても上手い下手という部分が出てしまいます。そしてそれは自分の絵が好きという気持ちを少しずつ侵食し、次第に上手い下手でした価値観を見いだせなくしておりました。好きなのに一緒に描けない、これ程寂しい事はありませんね。ですがそれはお互いがお互いの未来を思っている証拠でもありました。絵で成功する為には自分はいらないんだと身を引いた朽木尋。その寂しさはあの準入選した時の涙で十分でした。逆に都宮海は朽木尋が何に悩んでいるのか分からずに苦労しておりました。始めから2人の本音はすれ違っていたんですね。最後本音をぶつけ合い、それぞれが絵に対して思っている事を理解する事が出来ました。賞なんか関係ない、大切なのは自分の為に描いてくれる事。それに気づいたとき、問題は解決しておりました。これだけ相手思いの2人ですので、これからも楽しく絵を書き続ける事が出来ると思います。

 さて、それでは最後に橘真琴です。3人のケースが終わりインターミッションを挟んでからいよいよ最後のケースとなりました。橘真琴については本作でも全体の半分の時間を割いており、正直私が解説するまでもなく皆さんの心の中に何かしらの想いがあると思っております。学校ではイジメを受け家庭ではネグレクトを受け続けた真琴の心は確実に磨り減っていき、次第に普通の人が普通に出来る事が出来なくなっていきました。それでもそんな不調にみんな気づかず、最後には自分の人生に絶望して命を絶ってしまいました。この一連の描写が本当に辛かったです。自分も経験があるので分かるんですけど、いじめられっ子ってじぶんがいじめられているって事を必死に隠そうとするんですね。これは理屈ではないんです。いじめられているって事が周りにしれたらもう終わりなんです。そんな必死な姿が辛くて寂しくて、真琴が泣くたびに自分も泣いてました。

 ですが、寂しい思いをしていたのは真琴だけではありませんでした。兄もまた自分の不用意な発言と煮え切らない態度が原因で真琴を殺してしまったと悔やんでおりました。10年たっても妹の死を乗り越える事ができず、仏壇に土下座する姿は痛いほど突き刺さりました。NPO法人マイゴールの市郷もまた、自分のキャリアカウンセラーとしての未熟さを悔やんでおりました。この作品は、こうしたサブキャラクターの1人1人にもスポットを当ててしっかりと掘り下げているのが丁寧だと思います。ちゃんとそれぞれの視点で事実関係を表現し、同じ場面でも見方が変わるだけでこんなにも違って見えるんだという事を教えてくれました。真琴の死によって確実に変化した彼らの日常。ですがそれは10年の時を越えて都宮海の来訪によっていよいよ解決する事になるのです。

 エンディング直前、真琴がこの世から居なくなると聞きつけで全国から彼女への相談者か駆けつけました。真琴の行動がこれだけの人間の心を救い動かしたのです。引き籠もりになり自殺した当時の彼女からは考えられない光景ですね。私がこの作品の中で一番印象的な言葉は「酷い人生、そんな人生もいいんじゃない。」です。真琴の人生は確かに酷い人生です。余りにも寂しい。余りにも報われません。だからこそ、人と触れ合いたい、人と話したいと願った真琴の願いはカウンセラーとしての第二の人生へと繋がりました。別に、真琴にとってカウンセラーになる事は真の願いではありませんでした。真琴の願いはもっとシンプルなもの、ただ人と話したいだけでした。そしてどうせ話をするなら、自分を救ってくれたカウンセラーの真似をしてみたい、そんな平凡な理由だったのです。ですが、そんな彼女の何気ない活動でこれだけの人が集まってくれました。誰もか彼女に救われたのです。酷い人生でも、最後まで酷いわけじゃない。振り返ってみて、こんな人生でも良かった。そう思えたらそれが一番の幸せなのかなと思っております。

 エンディングで流れるボーカル曲「人は相も変わらず」の歌詞には、そうした人間の不器用さ・寂しさ・そして優しさが歌われておりました。他人の事なんて完全に理解することは出来ない、それでもお互いを愛するために不器用に接していく。そしてその繰り返しが未来へと続いていくという意味が込められております。内田姫紗希、那古龍輔、都宮海、そして橘真琴はそうした苦しんでいる人間の姿のほんのひと握りです。というよりもこの世界に苦しんでいない人間なんて、いません。時には辛く寂しいと思う事もあると思います。それでも人を愛する事を忘れずに、自分の人生を進んでいってほしい。この作品にはそんなものらす氏の願いが込められているように思えてなりません。

 まとまらなくなってきましたのでそろそろ締めようと思います。非常に丁寧なテキストと細かい表情差分と演出で表現した人物像はプレイヤーに非常によく届くものであり、プレイヤーもまたその場に居合わせているような臨場感を感じました。そして3人のケースが終わり橘真琴の真実に迫るまでの流れはドラマティックであり、まるで「REVIVAL RESET」を彷彿とさせるような場面転換で非常に興奮しました。そして最後に明かされる橘真琴の真実は誰の胸にも響き締め付けるものでした。余りにも寂しすぎて、比喩でもなんでもなく何度も泣いてしまいました。それでも人と接したいという思いが多くの人に伝染し、最後あのホールでの舞台を作り上げた展開は感動という一言では表現出来ないものでした。真琴はずっと泣いておりました。兄も泣いておりました。他の人も泣いておりました。私も泣きました。それでもその涙の意味は確実に変わっており、最後の涙は決して寂しいものではありませんでした。心理学とカウンセリングを通して自分の心の中を探る今回の作品、改めて自分の人生について振り返ってみる切っ掛けになりました。このような作品をプレイさせて頂き、本当にありがとうございました。


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