M.M ラビっとはーと!
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
7 | 7 | 4 | 84 | 〜1 | 2017/11/28 |
作品ページ | サークルページ |
<→Quantize_さんのストレートな表現に、身も心も絆されてしまいました。至高の雰囲気が幕を開けます。>
この「ラビっとはーと!」という作品は同人サークルである「→Quantize_」で制作されたビジュアルノベルです。→Quantize_さんの作品は過去に「世界で一番悲しい笑顔」という作品をプレイさせて頂きました(レビューはこちらからどうぞ)。不条理をテーマとした作品であり、一切の甘えがないストレートな内容に多くの事を学ばせて頂きました。それと同時に、→Quantize_さんの作品は事前の告知と実際の内容で大きく変わらない点が特徴だと思いました。そういう意味で今回レビューしている「ラビっとはーと!」は、公式HPの雰囲気の通り最後まで楽しく進み終わるのかなと期待しプレイし始めておりました。
この作品の主人公はなんとウサギのぬいぐるみです。その名はラビと言いまして、気が付くととあるおもちゃ屋さんに展示され売られておりました。主人公ですので自分の気持ちがあります、ですが人形ですのでそれを誰かに伝える事が出来ないのです。どんどん手に取られていく他のぬいぐるみ、自分はひょっとしたら可愛くないのかなと不安に思っておりました。そんなある日、おばあちゃんと小さな女の子が来店しました。そしてこの女の子はラビの事をとても気に入り、おばばちゃんに買ってもらいました。この子の名前は成瀬陽葵(なるせひまり)。この日から陽葵とラビとの楽しい日常がスタートするのです。
正直な話、私はこの作品をプレイし始めてたったの5分で泣いてしまいました。しかも涙がジワる様な泣き方ではなく、鼻をすする程みっともなくボロ泣きしてしまいました。この作品は決して悲しい話ではありません。上記のあらすじの通り、ぬいぐるみのラビと女の子の陽葵との楽しい日常を描いております。それでも泣いてしまったのは、きっとその先のシナリオを予測してしまったからだと思うんですね。私も多くのビジュアルノベルを読んできて、この作品がただぬいぐるみと女の子がイチャイチャするだけの作品だとはとても思えませんでした。いつかはぬいぐるみと女の子が離ればなれになってしまう、そんな予感を持ってしまいました。
ですが、それくらいでは流石の私も泣いたりはしません。そんな悲観的な気持ちになるだけで泣いていたら、どんな作品をプレイしても泣いてしまいます。私がみっともなく泣いてしまった理由、それは主人公がぬいぐるみだったからだと思っております。主人公はぬいぐるみですので言葉を話すことが出来ません。表情に出すことも出来ません。それでもちゃんと心を持っており、陽葵の事を本当に大切に思っている事が分かります。それでも、その気持ちを陽葵に伝える事が出来ないのです。将来的に離ればなれになってしまう時が来る、それでも主人公は「離れたくない!」「一緒にいたい!」と自分の気持ちを伝える事が出来ないのです。伝えたいのに伝えられない、この不条理な現実を想像したとき、みっともなく泣いてしまいました。まだ結末がどうなるのか微塵にも分からないのにです。酷い事だと思います。先入観で物語を読むなんて、レビュアー失格だと思います。
それだけこの作品の登場人物は素直な人ばかりなのです。ラビは本当に陽葵の事が大好きで、陽葵もまたラビの事が大好きなのです。おばあちゃんもそんなラビが好きな陽葵の事が大好きなのです。素直で素直で素直な登場人物ばかり、だからこそストレートに彼らの気持ちが胸に届き、同時に愛おしく思ってしまいました。このストレートさ加減もまた→Quantize_さんの特徴です。私のような丸腰で防御力0の様なプレイヤーには本当に突き刺さります。ちょろいですね自分。テキストも基本そうした主人公の心理描写と会話のみで構成されており、場面描写の様子は殆どありません。そうしたテキストもまた、登場人物の素直さを表現しているのかも知れません。出来ることなら結末なんて想像して欲しくありません。目の前のあなたも、ただ素直に彼らの心の動きを受け止めてみて下さい。
プレイ時間は私で35分程度でした。1時間未満ですのであっという間に終わってしまいます。選択肢もありません。ただ自分のテンポでテキストを読み進めればいいのです。一応の注意点ですが、この作品はぬいぐるみのラビと女の子の陽葵を中心としたほのぼのとした内容であり内装もそのようにレイアウトされております。それが逆にテキストを見づらくしており、やや文字が読み難いかも知れません。フォントも女の子に合わせて丸文字の可愛いものを採用しておりますが、線は細いですのでその良さを活かしきれていない気がしました。まあ、些細な事です。読み難ければゆっくり読めばいいだけです。それだけ心にじんわりと染みこませて欲しいシナリオですし、短いですからね。私が1時間未満のプレイ時間の作品に84点をつけるのは非常に珍しいです(というよりも、調べてみたらありませんでした)。是非その理由を確かめてみて下さい。そして私と同様に泣いてください。超オススメです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<ラビはこれからも、沢山の人達の心の支えとなって生き続けるのだと思います。>
ひまり「らびちゃん!」
ひまり「きょうはらびちゃんにぷれぜんとがあるんだ!」
僕にプレゼント?いったい何だろう……。
ひまり「えっとね……」
ひまり「あった!」
ひまりちゃんは幼稚園カバンの中から1枚の紙を取り出した。
ひまり「じゃーん! らびちゃんのにがおえだよ!」
自分がボロ泣きしてしまった場面です。ひまりちゃんがラビの似顔絵を見せてくれた場面です。もうね、こんな素直で素直なひまりちゃんの姿を見せつけて、ホントどうしてくれるんですかねぇ……って思いましたよ。こんな素敵な似顔絵を書いてくれて、しかもひまりちゃんの「いちばんだいじなもの」ですよ!これで、ラビとひまりが離ればなれにしたら……もうすぐにでもアンインストールしてやるわ!!って思いましたもの。不思議なことにそれだけ感情移入していたんですね。それだけラビとひまりの素直な気持ちが染み渡ってきました。まさに自分がビジュアルノベルに求めているものがここにはありました。
この作品が言いたい事は「物を大切にしましょう」という事でしょうか?それとも「自分の気持ちに嘘を付かないようにしましょう」という事でしょうか?勿論そういった部分も含まれていると思いますし、象徴的なエピソードもありました。ですが、私が思うにこの作品で一番言いたかった事は、ラビの「ただ黙って僕の話を聞いてくれる人がいる……それだけでよかったんだ」というセリフに込められている気がします。人形は言葉を話す事が出来ません、表情に出す事も出来ません、つまり相手にとって自分の言葉を聞いているかどうかの判断が付かないのです。壁に話しているのと同じ。それは、果たして意味のない事なのでしょうか?
かつてラビが人間であった頃、ラビは自分が胸の内に抱えていたものを吐き出す事が出来ませんでした。そしてそれは積もりに積もって自分の身を傷つけ、最後は命を落としてしまう事になりました。人間生きているとどうしても辛く苦しい場面に出会ってしまいます。そしてそうした理不尽は放っておいても中々離れてくれないんですね。それでも、友達に愚痴る、何か別の趣味で発散する、といった回避方法を持っていれば割と長続きします。そうやって困難を凌いでいく中で、経験として自分の中で積まれていくのです。ですが、そんな回避方法を持っていなければもう身を削るしかありません。やがて病気になり無気力になり、比喩でもなんでもなく命を落としてしまいます。回避方法は何でもいいと思うんです。みっともなくても恥ずかしくても構わないと思うんです。とにかく死なない事、自分を殺さない事が一番大切なのですから。
だからこそ、人形に話しかけるという行為が幼稚に見えても、それは本人にとって十分に大切な行為なのです。もしもラビが人間だった時に当時の悩みを何かに吐き出す事が出来れば、今ごろまだ人間として生きていたのかも知れません。ですがそれが出来ませんでした。そうであるからこそ、逆に吐き出される側となり自分は逆に吐き出せない存在=ぬいぐるみになったのかも知れません。そしてそんな人間の辛い部分を知っていたからこそ、ラビは寂しくても陽葵の事を見守る事が出来たのかも知れません。その気持ちを失わなかったこと、それが小さな奇跡を生んだのだと思っております。
物語最後、陽葵はお母さんになり娘のしいなに自分の大切なぬいぐるみを手渡しました。大人になり娘を持つほどの時を経てもなお大切に扱われたラビ、陽葵がどれだけラビに助けられたのかが伝わりますね。そしてその想いは親から子へと伝わりました。ひまりちゃんが手に取り、それがしいなに伝わるまで長い年月が経っていたろうと思います。それでもラビは「これからもよろしくね!」と元気に挨拶しました。実際に、ぬいぐるみに魂が宿っているかなんて分かりません。何故なら確かめようがないからです。大切なのはぬいぐるみを大切にしましょうという事ではありません。例えぬいぐるみでも、自分の気持ちを吐き出せる存在があれば人は生きていけるという事だと思います。ラビはこれからも、沢山の人達の心の支えとなって生き続けるのだと思いますね。ありがとうございました。