M.M 乙女理論とその周辺 -Ecole de Paris-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 8 87 20〜22 2013/8/22
作品ページ(R-18注意) ブランドページ



 この「乙女理論とその周辺 -Ecole de Paris-」は前作である「月に寄りそう乙女の作法」の続編となっております。その為この「乙女理論とその周辺 -Ecole de Paris-」のネタバレ有り・ネタバレ無し双方のレビューに「月に寄りそう乙女の作法」のネタバレが含まれていますので、「月に寄りそう乙女の作法」のネタバレを避けたい方は避難して下さい。

「月に寄りそう乙女の作法」のレビューはこちら

※「乙女理論とその周辺 -Ecole de Paris-」を未プレイでもネタバレ無しのレビューはご覧になれます。


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<花の都パリを舞台により魅力の増した登場人物たちと共に夢を追いかける物語>

 この「乙女理論とその周辺 -Ecole de Paris-(以下乙女理論)」という作品は「SHUFFLE!」や「俺たちに翼は無い」などの有名作を世に送り出している「Navel」の作品です。Navelと言えば西又葵と鈴平ひろの2人の有名な原画が担当した事でも話題になり、その軽快なコミカル調の雰囲気が特徴ですが作品に明確なテーマ性を持たせているシナリオにも定評があります。今回プレイした乙女理論は前作である「月に寄りそう乙女の作法(以下乙女作法)」の続編であり、服飾の世界への夢を持った主人公である大蔵遊星が女装して桜屋敷のメイドとしてフィリア女学院に通う設定に心を掴まれました。女装ものでありながら主人公を始めとした登場人物の設定は徹底しており、最終的に服飾で人生を切り開こうとする登場人物たちの心意気に感動したことはよく覚えておりました。

 OHPを見れば分かりますがこの乙女理論は乙女作法におけるバッドエンドの続編となっております。桜屋敷で大蔵遊星が男性である事がばれ志半ばで服飾の道を閉ざされ再び兄である大蔵衣遠の元での生活に戻りますが、同じく外の世界へ出る事を拒絶している妹の大蔵りそなと2人で再び外の世界へ出ようと決意し、日本から離れて花の都であるパリでの生活を決意します。正直に言いまして既にこの段階で私の心は躍っておりました。何故なら、あれだけ世間から隔離された主人公と妹が再び希望を持って外の世界へ旅立てたからです。乙女作法での主人公の輝きは非常に洗練されてました。それは同じく桜屋敷にいたお姫さま方をも上回る輝きでした。その輝きが再び蘇るのです。それも服飾の世界では誰もが憧れる花の都パリでです。今度はどのような出会いがあるのか、そして遊星とりそなは今度こそ本当の意味で自由に外を飛び回れるのか、その点が楽しみで文章を読み続けていきました。

 という訳で基本的なスタンスは乙女作法と同じなのですが、やはり続編という事で幾つかの点で乙女作法よりも上回っていると思えました。その中でも特筆するべきはやはり原画である西又葵の描く新キャラの女の子の表情が純粋に可愛いという事です。ヒロインの1人であるメリルは純粋培養の善人、同じくヒロインであるブリュエットは快活なお嬢様という設定があります。そんなヒロインの性格や雰囲気を加味してのでしょう、よく判子絵と揶揄される西又葵の印象とは程遠い豊かな表情の人物です。立ち絵ではそこまで感じないかも知れませんが、後半で登場するCGの何枚かではハッとするような可愛さを醸し出しております。

 後は乙女作法でも魅力であった登場人物の独特の性格が今作である乙女理論でも受け継がれているという事ですね。乙女作法の登場人物はヒロインのみならず他の登場人物1人1人にも圧倒的な個性があり、どのキャラクターが欠けても乙女作法として成り立たない程の存在感がありました。そんな存在感のあるキャラクターは今作も健在であり、加えて舞台が花の都パリという事で様々な国の人物がいてより楽しい雰囲気を作り出しております。少なくとも乙女作法の雰囲気を気に入った方であれば何の問題もなく乙女理論の雰囲気にのめり込めると思いますね。これは間違いなくNavelのスタッフであるからこそ作り出せる雰囲気であると思っております。

 という訳で乙女作法をプレイした方であれば是非手に取って欲しい作品です。何よりも絵でもパーソナリティでも魅力を増した登場人物たちに出会えるだけでこの作品をプレイする十分な価値があると思います。そして舞台は花の都パリであり、必ずや夢を追い続ける人達を支えてくれる自信を感じます。そんな乙女にとって魅力十分の舞台で夢を追いかける登場人物たちの生き方を堪能して欲しいですね。そんな作品です。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<全ての試練は自分の殻を破り輝く世界へたどり着くための布石だったのですね>

 振り返ってみれば随分とスケールの大きな作品だった気がします。パリでの服飾の勉強生活もそうですがその裏側で繰り広げられる大蔵家の次代頭首への争い、何よりも大蔵遊星は一度男性である事を暴かれた身でありますので和やかな雰囲気とは裏腹に一歩間違えれば奈落の底へと落ちる生活であります。そんな中で大蔵遊星と大蔵りそなは見事自分の力で閉じこもっていた殻を破り、本当の意味で自由の身になれたのではないかと思いますね。

 本当にどこまでも大蔵遊星は小倉朝日として純粋でした。誰も疑わず誰のせいにもせず、常に周りの人を愛し大切にする存在でした。そんな存在だからなのでしょうね、最終的に大蔵家の骨肉の争いに終止符を打ち和解への道を開けたのは間違いなく大蔵遊星の人となりがあったからです。初めは頑なな態度であった大蔵衣遠も遊星とりそなの懸命の懇願と誠意でギリギリまで衣遠の心を繋ぎとめました。そしてそれが結果として三兄弟協力して大蔵家を自分の物とするところまで心を持っていく事が出来ました。さらに最終的には純粋に現在の遊星とりそなの姿を見せる事で、大蔵家全員の気持ちを固める事が出来ました。ご都合主義と言えばそれまでかも知れませんが、全てが大蔵遊星の純粋な想いがあったからこそ達成できたEDだと思います。

 そしてそんな大蔵遊星に負けず劣らずの信念を持った登場人物ばかりでした。どの人物も自分の気持ちに正直でありそれが故に真っ直ぐでありました。時にはその真っ直ぐさがぶつかり二度と修復できない傷になりそうな場面もありましたが、心の底にある譲れない服飾への真っ直ぐな想いが最後の最後まで決別するようなEDを許しませんでした。まさに花の都パリに相応しい一流で優雅な登場人物に彩られた物語だと思いました。個人的に一番感動したところは全てを諦めかけた場面で登場した桜小路ルナのシーンですね。かつてのご主人様であり大蔵遊星の憧れの存在であったルナ様が目の前に登場したのです。この時ほど登場人物たちの真っ直ぐな想いが報われた瞬間は無いと思いましたね。

 というよりもこの乙女作法と乙女理論の登場人物たちがコラボレーションするのは乙女作法をプレイした誰もが夢見たシチュエーションだったのではないでしょうか。あれだけアクの強いキャラクターでありながら誰もが服飾への想いを持ち合わせているという事で出会えば絶対に良い化学反応を起こすに違いありません。そんな希望をサラッと現実のものにしてくれたNavelには感謝ですね。コラボレーションの時間は僅かでしたが、乙女作法のヒロインも乙女理論のヒロインに負けず劣らずの真っ直ぐな信念を持ったキャラクターばかりである事を再認識できました。嬉しい誤算でした。

 この作品のテーマは恐らく「自分の殻を破ればそこには輝かしい世界が広がっている」という事なのだろうと思いました。パリへ留学した事で殻を破ったつもりの遊星とりそなでしたが、その実はまだ自分のやりたい事がハッキリ定まっておらず本当の意味でパリの街は輝いて見えていませんでした。ですが切磋琢磨するクラスメイトや大蔵家からの圧力の中で少しずつ自分の本心へと近づいていき、かなり遠回りしましたがようやく自分が目指したい道を見つける事が出来ました。道が見つかればあとは突き進むだけですからね。その真っ直ぐな力は人の心を動かし、最終的に凱旋門で何万人もの人の歓声を浴びる結果を生みました。この時ようやく輝かしい世界にたどり着けたのだと思います。花の都パリの魅力を遊星とりそなが味わうのはここからが本番なのかも知れません。

 服飾の道は表現の世界ですので必ず壁に当たる事になります。時にはこれまで以上の試練に出会いかつてない苦労を味わうかも知れません。それでも自分の殻の破り方を知った2人ならどこまでも突き進めるはずです。そんな輝かしい世界へを踏み出す2人が大変羨ましく、そして祝福したい気持ちになる事が出来ました。Navelが送り出したこの一連のシリーズがこれで幕を下ろすかは分かりませんが、女装ものという奇をてらったような設定でありながらテーマを一貫して表現しようとする雰囲気は見事でした。ありがとうございました。


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