M.M 月に寄りそう乙女の作法




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 7 7 88 20〜25 2012/11/8
作品ページ(R-18注意) ブランドページ



<人物描写を丁寧に描きながらもコミカルさを忘れない傑作>

 この「月に寄りそう乙女の作法」は今や多くの人が知っているブランドである「Navel」の新作です。Navelは処女作である「SHUFFLE!」からその完成度で注目されており、西又葵と鈴平ひろの2人の有名な原画が担当した事でも話題になりました。その後数々の作品を発表し、中でも「俺たちに翼は無い」はベストヒットとなりNavelの人気を決定付けたものになったと思います。今回プレイした「月に寄りそう乙女の作法」のそんなNavelの流れを汲んだ作品であり、何気に西又葵と鈴平ひろの2人が原画を担当したのは「SHUFFLE!」以来かもしれません。そんな期待の作品という事でプレイしましたが、人物描写の丁寧さがなるほど流石はNavelだと思わせました。

 OHPにも書いてありますが、この作品の最大の特徴は主人公だと思います。主人公はいわゆる「男の娘」と呼ばれる設定であり、女装した主人公がお嬢様だらけの屋敷にメイドとして入り込み服飾の勉強をするといった内容です。初めこの設定を見た時私は正直過度な期待はしてませんでした。最近流行の設定を取り込んでインパクトを持たせたキャラゲー程度に考えていました。ですが実際プレイしてみたらそうでは無かったですね。女装の設定やお嬢様だらけの屋敷に入り込む設定は現実にはまずありえない訳ですしそこはゲームらしい強引な流れでしたが、そんな事以上に人物描写が丁寧でしたのでそんな設定の奇抜さが気にならない位のシナリオゲーでした。

 Navelの作品の特徴としてそのナチュラルなコミカルさが挙げられると思います。これはシナリオライターの趣向にもよるのかも知れませんが、当たり前の日常会話での言葉遊びのレベルが結構高いんです。それでいてコミカルを組み込んできますので直接的ではなくジワジワと湧いてくるような面白さがあります。今回の女装設定やお嬢様だらけの屋敷に入り込む設定もそんなNavelの得意分野が存分に生かされた形になっており、非日常である設定が日常になってしまう魔法がありました。

 また人物描写についてですが、主人公を始めヒロインやサブキャラクターのどの人物も決して陰に隠れるという事はありませんでしたね。もちろん主人公とヒロインに注目が集まるのは当然ですが、サブキャラクターも目立っており人物としての設定も確立していましたので普通に1人のキャラクターとして認知していました。そしてそれら全てのキャラクターの会話の掛け合いが絶妙だからこそこのゲーム全体に広がるコミカルさが冴えたんだと思います。言葉遊びのレベルを高くすることで陳腐で直接的な笑いを避け、人物描写の丁寧さとコミカルさの両立が出来たのではないかと個人的に思っております。

 後はこの作品の設定として「服飾」というものがあります。主人公を始めヒロインたちはデザイナー学校に通っているという事でそれらの専門的な内容になっております。私はあいにくこういった分野には疎いですのでなかなか理解するのに時間がかかりましたが、そこは登場人物たちの会話の掛け合いなどで雰囲気が伝わり成すので問題ありません。実際にデザイナー学校というものはこういうところなんだろうなと思わせるには十分な設定でした。後はこのゲームは5分程度でシーンを区切っており分かり易くNavel得意のシャッターが下りる演出になっております。これが話の区切りを明確に示しており休憩のタイミングを間違える事無く進める事が出来ます。この辺りのシステム周りはNavelらしい形で完成されつつありますね。

 という訳で全体として非常に良かった作品でした。昨今のサウンドノベルの王道的な流れを汲んでおり、それでいてNavelらしさを全面に出した内容でした。いわゆる大作という内容ではありませんでしたがプレイ時間20時間程度で長さ的にも平均的ですし、多くの方に公表を得る事が出来ると思います。最近一般的なサウンドノベルをプレイしていない方にはもちろん、元からのNavelファンの方にも満足して頂ける内容だと思います。楽しかったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<やはり全ては主人公の魅力が成せる技なのでしょうね>

 全シナリオをプレイし終わって非常に爽やかな気分になる事が出来る作品でした。どのキャラクターも性格は別々ですけど非常に素直であり、あとくされのないハッピーエンドはプレイして良かったと素直に思えました。それでいて服飾という厳しい世界の雰囲気や主人公と兄との確執についても決して妥協しておらず、シナリオの進行にも緩急がありましたので全体として結構読みごたえがあったのではないかと思います。

 どう考えてもこの作品の最大の魅力は主人公のチートっぷりでしたね。過去に厳しい生い立ちがありましたがその設定が如実に表れたのは後半の兄との確執の部分だけでしたし、基本的にはヒロインたちよりも可愛い外見と圧倒的な家事スキルで全てのキャラクターの中でも一番魅力的だったと思います。それでいて品行方正でメイドとしての立場を忘れない言動はなおの事登場人物たちの心を惹きつけ、これ程までにサウンドノベルの主人公として相応しい設定はなかなかなかったのではいかと思います。

 ですが本当の意味で主人公とヒロインの心が通じ合うには主人公が男性であることを告白する必要がありました。そして湊は違いましたがシナリオの流れもこの告白の部分の流れをどのようにするかに焦点を当てており、盛り上がりの頂点になっていたと思います。それまで作ってきた信頼関係をある意味で裏切るのは当然であり、それでもヒロインたちと過ごしてきた時間の思い出は捨てる事が出来ず心の底から信頼し合って12月の発表会に向かっていく流れは目を離すことは出来ませんでした。その時には兄との確執も表面化しており、このドロドロの状況をどのように一発逆転するかに非常に期待していました。

 そしてその一発逆転の方法はやはり服飾なんですね。結局は登場人物の誰もが自分の行動に正直であり本気でしたので、自分の夢である服飾でしたそういった現状を打開できなかった訳です。だからこそ主人公もヒロインも誠心誠意本気になって取り組み、その結果として兄に認められハッピーエンドという気持ちの良い流れになった訳です。テーマ性を見失わず緩急もあり誰もが納得できるハッピーエンドへ持っていくシナリオの流れは見事だと思いました。

 そしてそんな見事なシナリオの流れにできたのも間違いなく主人公の力によるところが大きいのでしょうね。主人公自身も過去の生い立ちと兄との確執、何よりも自分が女装をしている後ろめたさに苛まれておりそれだけでも人物として魅力的でした。その中で自分の夢を追いかける為に奮闘する姿は誰の心にも響くものであり、どのヒロインが惚れるもの納得できるものでした。これは主人公のチート設定に甘える事無くしっかりとシナリオを作ってきたスタッフの努力によるものだと思っております。

 何れにしても全体として良くまとまった作品だと思いました。主人公を始め魅力的なキャラクターばかりでしたし、それらのキャラクターが妥協することなくハッピーエンドへ向けて駆け抜けていったシナリオは爽やかでした。題材としてはもしかしたらどこかで見た事があるという人もいたかも知れませんが、作品全体はNavelらしくコミカルさを全面に出しながらよくまとまっていたと思います。夢を持ちそれを諦めない事の大切さや楽しさを感じる事が出来る作品でした。ありがとうございました。


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