M.M ねのかみ 京の都とふたりの姫騎士 後編


 この「ねのかみ 京の都とふたりの姫騎士 後編」は前作である「ねのかみ 京の都とふたりの姫騎士 前編」の続編となっております。その為レビューには「ねのかみ 京の都とふたりの姫騎士 前編」を含めたネタバレが含まれていますので、ネタバレを避けたい方は避難して下さい。

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※このレビューにはネタバレしかありません。前作と本作の両方をプレイした方のみサポートしております。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。























































































シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 9 8 85 4〜5 2017/1/2
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<どんなに理不尽な状況でも自分にとって大切な物を見失わない事の大切さを、最高の演出・BGM・挿入歌を持って教えて頂きました。>

 ……まさかここまで壮大なプロットと複雑な因縁が絡み合っているとは思っても見ませんでした。自分たちが敵と思い込んでいた邪神の正体がまさかこの星を支えていた世界樹ユグドラシルだったなんて夢にも思いませんよね。重瀬漣も「何のために戦ってきたんだよ!」と言ってましたが本当その通りだと思います。誰が正しくて誰が間違っていたのか?誰が味方で誰が敵なのか?全ての基準が分からなくなりました。ですがこの作品の中でそんな事は実はどうでも良かったのです。自分の中の大切な人やすぐ側にいる人、それこそがかけがえのない存在ではない絶対に失ってはいけない存在であるという事に気づく事がこの作品のテーマだったのではないかと思っております。

 振り返れば可愛くて素直な少女たちを随分とまあ翻弄してくれたものです。漣は自分の中で一番大切な存在である受賣命を守るために決死の思いで伊那瑠に戦いを挑みました。それは受賣命がもう死を覚悟してその純粋な想いに心打たれ、彼女を騙すことなく自分の力で守ろうという意思の表れでした。ですが結果として受賣命の存在価値は宮内機関にとっては何も重要ではなく、むしろ漣の因果の先を見る力を引き出す為の作戦でした。宮内機関は漣のホムンクルスとしての真実を隠し、その力が覚醒するのであれば本人もその周りの人の気持ちも何でも利用する非人道的な存在でした。では漣は何のために命を掛けたのでしょうね。勿論受賣命の為ですが、その行動が全く無意味だったらこれほど報われないことはありません。

 受賣命もまた自分自身の立場と歴代のうずめの役割と運命を受け入れることに必死でした。誰だって死にたいはずがありません。それが例え運命で決まっていたとしても、抗いたいと思うのが人間です。それは受賣命が漣に残した手紙の中に痛いほど込められておりました。離れたくない、死にたくない、もっと一緒にいたい、でも死にます。こんなセリフ、若い少女が言っていいものではありませんね。ですがそんな受賣命の決意もまた宮内機関にとっては全く興味のないものでした。うずめの力など、宮内機関の科学力の前では無意味同然。受賣命のみならず歴代のうずめですら唯の目くらましにしか思ってなかったのです。彼女たちの決意は何のためだったのでしょう。こんな理不尽な事はありません。

 東雲も一番大切な存在であるルカを始め目の前にいる人を助けるために慣れない神剣を使い命懸けで戦ってきました。その中で都部の大切な人たちを何人も失い、それでもせめてルカだけは守ろうと彼女のもとに単身駆けつけました。ですがそんなルカですら実は宮内機関から操られた存在であり、今まで自分達の的だと思っていた土蜘蛛の一族そのものでした。その事実に愕然とし一度は膝をついた東雲ですが、その後ルカと再会し再び宮内機関の策略を阻止しようと立ち上がりました。そんな直後にあのユグドラシルですからね。どれだけ自分の気持ちは掻き回されるのでしょうか。しかもそんな東雲を土御門は何も感慨もなく無用になったから殺すよう指示したのです。自分の存在価値が失われても仕方がありませんね。

 そして最後にルカですが最も辛い半生を歩んでおりました。元々土蜘蛛の一族として生まれたルカは幼少から過酷な生活を送っており、自分の力で一族のみんなが幸せになれるのなら喜んでその力を差し出しました。たとえ人を殺すことになっても理不尽な要求を突きつけられても、一族のためと心を殺して生き続けました。そんな中唯一ルカの心を癒してくれた存在が東雲です。純粋な人間ではない土蜘蛛としての立場、そして東雲を始め都部の村の皆を裏切っているという気持ち、その重圧があっても尚東雲と一緒にいたいと願っておりました。そんなルカに対して「東雲を殺せ、さもなくば一族の未来はない」などと言われれば、もうそんな事を言う人を殺すしかありませんね。それでもそんな自分の気持ちなど無関係に運命は動いていきました。

 上で書いた4人だけではありません。本当数多くの人やあやかしが宮内機関の策略に振り回され、そしてこの星の歴史の流れに翻弄されました。誰として真実を教えてもらえず、誰として自分の信念や正義を認めてもらえることはありませんでした。では、この作品に登場する彼らに全く存在価値はなかったのでしょうか?答えは違いました。そもその存在価値を周りに求める事が間違いでした。冒頭書きましたが、この作品のテーマは自分にとって本当にかけがえのない大切なものに気づく事です。あくまで自分にとってなのです。作中で受賣命が「自分の気持ちは押し付けてこそ伝わるもの!」と言ってました。一見我儘な言葉に見えますが、世の中の物事ってきっと全てが誰かの気持ちの押し付けから始まっているんだと思います。信じれるのは自分だけ、いやそもそも他人は信じてくれないのが当たり前なのです。最後ユグドラシルが解放され世界経済が破綻しました。それでも彼女たち4人は生きています。それでよかったんですね。彼女たちは自分にとって一番大切なものを見つけ、その人と一緒にいる事が出来たのですから。

 そしてそんな揺れ動く彼女たちの心の動きを演出・BGM・挿入歌で大変盛り立てて表現してくれました。特にBGMと挿入歌の力は大変大きなものであり、第六章二節でのあやかしとの総力戦で流れる主題歌のハードコアアレンジである「激震の京洛」はスピード感がありテンションが上がりました。またここぞという場面で流れた挿入歌「月華絢爛」の破壊力もとても大きく、豪華な演出だと思いました。かと思えば受賣命が遺書を書いているシーンで流れる挿入歌「誰彼想歌」は180°違う方向で破壊力が大きく、ストレートで分かりやすい演出の分余計に涙を誘ってくれました。そしてそんなBGMや挿入歌と合わせて演出の大切さも十二分に感じる事が出来ました。プールで遊ぶコミカルな演出、Hシーンに代表されるお互いの気持ちを交互に掛け合う演出、戦闘で必殺を放つ動きの演出、そして手紙の演出はそれだけで気持ちが揺さぶられました。これこそがまさにビジュアルノベルらしさであり、作品の良さを引き立てるものだったと思っております。

 壮大なプロットとその中で翻弄される姿が印象的な「ねのかみ 京の都とふたりの姫騎士」でしたが、ここまで演出してもどうやらまだシナリオは終わらないみたいですね。結局のところ世界はどうなったのか、ユグドラシルとは何者なのか、今後彼女たちはどうなるのか、あやかしや人間はどうなったのか、ルカを始め土蜘蛛たちの活動は終わっていないのか、様々な謎が残っております。物語としては完結しておりますがまだまだ分からない事があります。私が唯一つ願うのは、もう彼女たちを離れ離れにしないで欲しいという事です。宮内機関でもユグドラシルでも彼女たちの絆だけは壊すことは出来ないはずです。もう二度と彼女たちの理不尽に苦しむ姿は見たくありません。そんな事を願いつつ、続編を楽しみにしております。


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