M.M ねのかみ 京の都とふたりの姫騎士 前編




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 6 80 4〜5 2015/9/5
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)


体験版
フリーゲーム夢現



<動きのある演出に見蕩れながら、ぜひ主人公達の心情を想像して読んで欲しいですね>

 この「ねのかみ 京の都とふたりの姫騎士 前編」は同人サークルである「黒彩黄泉路」で制作されたビジュアルノベルです。「黒彩黄泉路」さんの作品は過去に「続・日本神話−ねのかみ−」や「サクラメントの十二宮 乱れる仔ひつじと手懐く狼」をプレイした事があり、神聖な百合の空間を堪能する事が出来ました。加えて日本神話や占星術といったロマン溢れる題材も取り扱っており、その事がより百合の空間を高貴なものにしているのだと思っております。今回プレイした「ねのかみ 京の都とふたりの姫騎士 前編」は「続・日本神話−ねのかみ−シリーズ」の最新作でして、過去作以上にこだわりのある演出と細かな美術にワクワクしながらプレイしておりました。

 古来から神々が戦いを繰り広げ、現在もその争いが燻り続けている現代の日本。ですがそれは裏の話であり、表の日常で生活している人々には無縁の話でした。主人公である重瀬漣(えせれん)もそんな表の日常で生活する普通の高校生でして、同じく主人公の猿女東雲(さるめしののめ)との久しぶりの再会を楽しみにしておりました。ですがその再会で重瀬漣は猿女東雲からとんでもない事を言われます。「レン、あなたには今日……この街を捨てて、死んで貰うから。」今まで表の世界で生きてきた重瀬漣が目の当たりにする裏の世界の真実。そして自身が持つ能力とそれに課せられる宿命。自分は果たしでどのように生きればいいのかを散々悩むことになります。

 この作品の魅力は何と言っても百合にあります。タイトルに「ふたりの姫騎士」とあります通り、主人公が猿女東雲と重瀬漣というダブル主人公である事が特徴です。そして主人公が2人ということで、ヒロインも媛御子ルカ(ひめみしるか)と猿女受賣命(さるめうずめ)のダブルヒロインです。主要人物が全員女の子という事でヒロインという呼称が正しいのかは難しいですが、姫騎士のタイトルの通り剣を持ち戦う2人とその2人を慕い心の限り尽くす2人という構図は間違いなく主人公とヒロインですね。様々な見所のある本作ですが、まずは主人公とヒロインがイチャイチャするシーンを堪能して欲しいですね。水のようでありながら塗りの濃い人物描写はまるで一枚の絵画のよう。唯の肉欲にまみれたシーンではなく心の繋がりを感じることが出来ると思います。

 そして上でも少し書きましたが、この作品は主人公をはじめとした人間達とそれに相対する邪教やあやかしとの戦いが物語を動かしていきます。それは非常に圧倒的な力の大きさであり、一人一人の気持ちや尊厳などでは抗いようのないものです。今まで争いらしい争いのない世界で生活してきた重瀬漣、それでも剣を持ちあやかし達と戦っていくのですがその心は未だに悩み続けております。本当に邪教やあやかしは敵なのか?自分はどうして剣を持っているのだろうか?一番大切な物は何なのか?しかし世界は重瀬漣にじっくりと考える時間なんて与えてくれません。気持ちの整理もつかないまま状況に翻弄されてしまいます。それでも自分の居場所を見つけようとする重瀬漣。そんな気持ちの揺れ動きに着目していただき、自分ならどう行動するか考えてみては如何でしょうか。

 他には動きのある演出が特徴ですね。この作品はバトルシーンが多数登場するのですが、途中ムービーのような臨場感のある演出があり思わず「おお…」と唸ってしまいました。躍動感のある動きこそバトルシーン、そう思わせてくれました。そしてHシーンも非常に拘っております。これは別売りであるアペンドディスクを加えることで見ることが出来るのですが、セリフがいわゆるウィンドウモードではなく漫画の吹き出しのように表示されるのです。もう本当に会話しているかのような演出に、欲望というよりも愛しさの方が上がってしまいました。そしてそれぞれの登場人物でセリフの色を変えており、どちらの心情なのか一目で分かります。この演出は前作である「サクラメントの十二宮 乱れる仔ひつじと手懐く狼」と共通ですね。百合はお互いの心の交わりを丁寧に表現すること、その事を十二分に感じました。

 プレイ時間は私で4時間15分程度掛かりました。この作品は選択肢なしの一本道ですので、特に分岐など考えずに自分のペースで読み進める事が出来ます。そして途中章立てしてあり各章1時間程度で終わりますので、途中休憩を挟みながら読みすすめて頂ければ良いと思います。そしてこの作品はまだ前編です。読み進める度に加速していく展開と登場人物達の心、その調度転換点で終わってしまいます。にくいですよね。こんなの、後編プレイしない訳にはいかないじゃないですか!果たして彼女たちの決断の先に何が待っているのか。自分の信念を貫く事ができるのか。そもそも自分の信念は本当に正しいのか。様々な事を妄想しながら後編を待とうと思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<世界の流れに翻弄されながらも絶対に失ってはいけないものを見つける。これが彼女たちに課せられた一番の試練。>

 ああ…いったいどうしてこんな展開になってしまったんでしょうかね。どうしてレンとしのが戦わなければいけないんでしょうかね。どこからその歯車が狂いだしたのでしょうかね。理由なんてきっとないんですね。ネタバレ無しでも書きましたけど、これはもうどうしようもない運命の流れ。強大な力の前に約束された結果なんだなと思っております。

 現実の人生の中でも「本音と建前」という事は当たり前に存在しております。みんな一人の人間ですのでその数だけ考えもあります。ですがそんな自分の考えばかりを押し出していては軋轢が生まれ組織は破綻します。だからこそ多少自分の考えと違っていても周りに合わせ、不要な争いを避けているのです。そしてそれが分かっているからこそ「本音」をバカ正直に言わず「建前」で上手くかわすんですね。一見間違いに見えても実は正しい事もあります。ですがいくらそれを相手に説明しても伝わない時があったら、もう戦うか誤魔化すしかありませんね。果たして土御門が誤魔化している真実は何なのか?受賣命に課せられた宿命は本当に力の解放だけなのか?大正時代の戦いの真実は何なのか?あやかしたちの目的は何なのか?様々な「本音と建前」が入り乱れている中で、ついにレンが動いてしまいました。

 もしかしたらレンはこの汚い世界に耐えられなくなったのかも知れませんね。みんな本当のことを言えば心がスッキリする、真剣に話し合えばきっと和解できる、そんな綺麗な世界を信じておりました。ですがそんなレンの気持ち通りに世の中は動きませんでした。むしろ自分のその気持ちの為に戦いで仲間を傷つけてしまい、受賣命からも離れる事になりました。元々人間としての戸籍を抹消され両親も行方不明という状況です。自分も気がつかないうちに参っていたのかもしれません。誰も頼れない、誰も守れない、誰も信じられない、そんなレンの前に現れたこれまた純粋なあやかしである白狗。この2人が手を取り合うのも時間の問題だったのかも知れません。何故彼女があやかしと共に行動しているのか。何故剣の力を解放できたのか。何故しのと戦うことを選んだのか。ぜひ後編で明らかになって欲しいですね。

 個人的にこの作品の好きなところは、レンと白狗が会話をしているシーンなんですよね。流れているBGMも過去作で使われていたものですし、そもそも白狗の立ち絵も過去作と同じでしたのでどこか懐かしく思ったからかも知れません。何よりも純粋で何も知らない白狗と戦いを好まず話し合いで解決したいレンの波長が自分とも合ったからかも知れません。利益や種族や立場を超えた会合、これってもしかしたら数千年続いてきた神々の戦いを収束させるヒントが隠されているのではないでしょうか。知らず知らずの内に背負ってしまっている思想や立場などの重石、そんな重石がない状態だからこそ実現した会合でした。私ももっと素直な気持ちになり曇りのない眼で物事を見れたらと思いますね。

 後はやっぱりHシーンは至高ですね。レンとうずめの身長もおっぱいの大きさも全然違うのにお互い素直に相手を求める姿、しのとルカの同じくらいの身長とおっぱいなのに見事にしのを手篭めにしているルカの姿、この対比もまた狙ったものなのかなと思いました。体に対するコンプレックスと心に対するコンプレックス、それをそれぞれのパートナーが保管してくれるのです。だからこそ百合というものはは美しいんですよねきっと。2人で1つという事をこれでもかと見せつけてくれます。彼女たちにとって最も大切なものは目の前にいる女の子です。この絆もまた決して失って欲しくありませんね。世の中の流れに翻弄されながらも絶対に失ってはいけないものを見つける。これこそが彼女たちに課せられた一番の試練なのかもしれませんね。後編を楽しみにしましょう。


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