M.M MYTH




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 8 8 90 13〜17 2018/3/20
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<あなたも是非、この作品が言わんとしている事を肌で感じ、自分に置き換えてみて下さい。>

 この「MYTH」という作品は、同人サークルである「Circletempo」で制作されたビジュアルノベルです。恐らく同人ビジュアルノベルをそれなりに嗜んでいる方であれば、名前は聞いた事がある作品だと思います。壮大な世界観と難解なシナリオで多くのファンを生み出し、多くのプレイヤーの方々が高評価を付けている作品です。「MYTH」が発売されたのは今から10年前の2008年でした。当時私は同人ビジュアルノベルは殆どプレイした事がなく、あったとしても商業で活躍しているライターさんの個人サークル作品など有名なタイトルのみでした。そんな私でも当時から「MYTH」の名前は知っておりましたし、機会があればいつでもプレイしてみたいと思っておりました。

 Circletempoさんの作品は、これまで少年オロカと不思議の森(レビューはこちらからどうぞ)やW-standard,Wonderland(レビューはこちらからどうぞ)をプレイさせて頂きました。印象としては、とにかく動く演出が残りました。まるで映画を見ているかのような臨場感のある動き。そしてそんな動きに良くミックスされたBGM。そのどちらもビジュアルノベルに欠かせない要素であり、まさに目と耳と文章で楽しませてくれる作品でした。そんなCircletempoさんの処女作が今回レビューしている「MYTH」であり、本来であれば真っ先にプレイしなければいけないタイトルでした。ですがそのプレイ時間の長さと難解さに腰が引けてしまい、今までプレイするのを渋っておりました。ですが今回私のレビュー本数がちょうど500本に到達する事を記念して、1つ大きな作品をやってみようかと思い今回プレイさせて頂きました。

 この作品のジャンル名は「影探しADV」となっております。主人公である田辺命人は影を持たない青年です。ですがそれは命人が生活している世界では普通の事でした。何故なら、誰もが影を持っていないのですから。その世界は光に包まれ、争いごとは一切なく誰もが安寧な生活を送っております。毎日決まった時間に決まった場所を通る人々、そんな秩序ある世界に1つ影のある存在が横切ったのです。鮮やかなピンク色の髪を振りかざした1人の女の子、彼女にはあるはずのない影が存在しておりました。彼女の事が気になった命人は一時の気まぐれで追いかけます。そしてそこに登場したのは1つのゲート、その先には何と実態を持たない影だけの人しか生活していない影の世界が存在したのです。命人にとってあらゆる常識が覆っていきます。それでも自分が生きる理由を求めて、命人は影の世界の先にあるものを見つけていくのです。

 タイトルになっているMYTHとは神話・作り話という意味です。この作品は視点や世界が次々に入れ替わっていきます。基本となるMYTH編から始まり、違世界編、胎動編、Aguni編と次々に展開していきます。それぞれの世界で登場人物は様々で、場面転換は唐突です。一見それぞれの世界で脈絡は何もないように思えますが、もちろんそんな事はありません。一見関係ない用に見えるそれぞれの世界の秘密を解き明かす事で、最終的な目標にたどり着けるのです。ハッキリ言って非常に難解です。まったくバックグラウンドが分からないままどんどん物語が進んでいくのです。何よりも、一人称の人物が自分が何者なのかや自分の目的を分かっていない場合が多いのです。これでは第三者の視点であるプレイヤーも太刀打ちできません。それでも、そんな彼らと共に進むしか物語を解く方法はありません。是非あきらめずに最後まで進めてほしいと思います。

 そして、この作品にはそんな勇敢なプレイヤーをサポートするシステムが用意されております。それはノートの存在です。主人公である命人は、物語を進めていく中でその過程の出来事をノートに記していきます。プレイヤーはそのノートを確認する事で、これまで見聞きしてきた事実を復習する事が出来るのです。また、ノートには事実の列挙だけではなく人物相関図なども掲載されており、それぞれの世界で誰が登場したとかお互いにどのような関係なのかを一目で把握する事が出来ます。このように、ノートは非常にありがたい存在なのですがそれは同時に作中の登場人物にとっても無くてはならない存在であるという事です。プレイヤーを導くアイテムであると同時に物語にも関わってくるノートを是非有効活用してみて下さい。

 また、この作品はいわゆるループものとなっております。ニューゲームから始めて様々な世界を行き来して、とりあえずはエンディングらしいものにたどり着きます。ですが、それは誰がどう見てもエンディングなどではなく、一度タイトル画面に戻ります。すると、殆どのプレイヤーは驚きに包まれると思います。そこから始まる2周目3周目を通して、何が同じで何が違っているかを検証していくのです。勿論、登場人物達は1周目で行ってしまった失敗は二度と繰り返しません。それぞれの周で失敗した事を糧として、次の周で生かして新しい展開を期待していくのです。そして、1周目2周目それぞれの出来事はしっかりとノートに記載されます。それぞれの周で何が起きたのかを一度ノートで確認し、そこから新しい周へと進めていくのが良いと思います。

 プレイ時間は私で14時間30分でした。この作品にはもちろん選択肢があるのですが、数はプレイ時間に対してそこまで多くはありません。というよりも、ほとんど意味のない選択肢と物語の根幹を担うような重要な選択肢しか存在しません。フラグ管理の為の選択肢ではなく、自分自身がどう歩んでいくかを決定する為の選択肢です。その為、何も考えずに選択すると後々後悔する事になるかも知れません。最悪総当たりでも最後までプレイする事は出来ますが、可能であればしっかりと吟味してしっかりと1クリックして先に進んで頂きたいですね。同人ビジュアルノベル界で多くの人の知る事になっている本作、その人気の高さが伺える内容となっておりました。まだまだ消化出来ていない部分も多くありますが、自分なりの答えを見つける事が出来ました。あなたも是非、この作品が言わんとしている事を肌で感じ、自分に置き換えてみて下さい。非常におすすめです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<私が彼らに出来ることは、この物語を語り繋いでいく事だけなんですね。>

 人は何故夢を見るのでしょうか?それはきっと現実でそう簡単に実現出来ない事があって、一時でもそれが現実になったら良いのになと思うからだと思います。それって当たり前の感情であり普通の事だと思うのです。むしろ、夢を見る事を否定されたら、人は何を糧にして生きていけば良いのでしょうか。ましてや、現実で実現不可能であるのなら、せめて夢で実現したいと思うのは当然の気持ちだと思いませんか?そのような優しい世界がMYTHの正体であり、その世界の中で自分の人生を見出す事がMYTHの目的だったように思えます。

 幾つもの視点を巡り何度も世界を周った先に待っていたのは、余りにも残酷で優しい真実でした。気象の変動で人類が生活する事が困難になっていく地球。それでも何らかの形で自分が生きてきた証を残したい。そんな尊い想いからMYTHは生まれました。そして2052年、人類はたった1人を除いて絶滅し後はMYTHの中で生き続ける無数の意識のみが存在する世界となっておりました。もし、どこか遠い星から宇宙人がやってきてこの2052年の地球とMYTHを見たらどう思うでしょうか?人間というものは哀れだな、と思うでしょうか?きっとそう思うと思います。何故なら、現実で生きていないからです。何も生み出さず永遠の輪廻を繰り返すだけの世界がMYTHです。そんな世界に、これから新しく未来を切り開くことは出来ないのです。

 だからこそMYTHの住人は訴えました。「夢見るくらい、いいじゃないか」と。世の中にはどうしても現実で生きていけない人が存在します。それは運が悪かったら、たまたまタイミングが悪かったりと様々な理由です。現在、その殆どが自己責任で片付けられがちなこの社会です。それでも、どうしようもない事はあると思います。ましてや、世界的な気象の変動ともなればもうどうしようもありません。誰が悪いとかないのです。誰も悪くはないのです。そんな人たちに対して、他者が「哀れ」「可哀相」と思うのは勝手です。私が思うのはただ一つ、放っておいてほしいという事ですね。

 オーディンは、そんなどうしようもない無常観とそれに抗いたい気持ちを持っておりました。だからこそ、せめて自分だけのハッピーエンドを目指したいと思いました。それって、夢の中でありながら生きている事と全く同じだと思いました。たとえ閉じられたプログラムの中だったとしてもやれるだけやってやる、私はオーディンの行動は尊いと思いました。生きるという行為に夢も現実も関係ありませんでした。ましてや、オリジナルだろうが二次創作だろうがそんな事は全くの方向違いでした。事実、オーディンが作り上げた田辺命人という存在は、オリジナルでありながらしっかりと現実の2002年で自分の存在意義を確立しました。併せてアースガルドで自分の目的も見出しました。結果、田辺命人という人格は世界で認められる存在となり、2016年でも当たり前のように在り続けました。これが生きる力、想いの力なんだなと思いました。

 物語最後のセリフ「架空の人間だって生きているんです、それが私の人生、誰にも文句は言わせない」には、そんな人が生きる意味を訴えた気持ちが切実に込められていると思いました。誰にも褒められないかも知れません。誰にも認められないかも知れません。それでも、あなたの人生はあなただけのものなのです。たとえ永遠の輪廻であり先がないものだとしても、それでも生きているのですが。それは、何度も繰り返したあの「影の世界」を見ればよく分かると思います。彼らには実態がありません。シナリオに沿って決められたセリフを繰り返すだけです。それでも、あの「影の世界」は温かいと思いませんでしたか?それでいいのだと思います。平凡でも、ありきたりでも、確かにあなたはそこで生きているのです。それが分かれば、それで良いんだと思います。

 MYTHは永遠に物語を紡いでいきます。今の物語が終わったら次の物語へ、それが繰り返されるのです。私たちが彼らに出来ることは、せめてそれらの物語を覚えている事くらいですね。この作品のキャッチフレーズともなっている「この物語が、次の誰かに語り継がれますように」は、きっと私たちプレイヤーに対して訴えたものだと思っております。オーディンにとって市井諒子は神のような存在です。ですが同時に市井諒子にとってCircletempoやプレイヤーは神のような存在であると思います。だからこそ市井諒子は私たちに訴えるのです。そうであるのなら、私もまたこのMYTHという作品を伝えていきましょう。それしか、私たちが彼らに出来ることは無いのですから。MYTHという神話を巡る物語、確かに堪能させて頂きました。ありがとうございました。


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