M.M 少年オロカと不思議の森


<ファンタジーさとコメディさを演出している軸の通った作品>

 この「少年オロカと不思議の森」という作品は同人サークル「Circletempo」で制作されたサウンドノベルです。C81の同人ゲームの島サークルで見つけたことが切っ掛けであり、パッケージの力強い絵柄とあまり見たことのない設定に興味を持ち買ってみました。まあ、このCircletempoというサークルそのものの作品を買うのは本当に今回が初めてな訳ですが、事前にC81で新作を出すサークルをチェックしているときに名前だけは知っていて島サークルを巡っているときに足だけは止めようと決めていたという経緯もあります。購入から1ヶ月半経過してのプレイとなりますが、感想としてはとにかく楽しい雰囲気で爽やかな気持ちにさせてくれる内容でした。

 OHPを見ればわかりますが、この作品は完全にファンタジーです。何しろ主人公は幽霊ですからね。そんな幽霊たちが映画製作を行って人間たちを怖がらせるなんて、今までにありそうで無かった設定だと思います。これだけでも十分人を引き付ける魅力があると思いますし、それに加えてそんなファンタジーな世界観の魅力を十二分に表現しているキャラクターがまた良い味を出しています。

 一度ファンタジーという設定を前面に出してしまえば、あとはそれ以外の要素(キャラクター、BGM、背景etc)で後押ししてあげればいいのです。そういう意味で絵柄やデザインもファンタジー色にあふれるキャラクターでした。そして通常時の立ち絵とそうでは無いコメディパートでの立ち絵のメリハリも見事でした。とにかくそんなキャラクター像を始めとしてあらゆる要素でファンタジーな世界観を演出していたのが良かったです。

 そしてシナリオですが、この作品はファンタジーな訳ですが加えてコメディです。まあこの作品はコメディと言い切るのは正確ではありませんし途中シリアスになる部分はあります。それでもコメディと言い切るのは、一つに主人公の性格、もう一つに愛嬌のあるキャラクターがあります。主人公はとにかく唯我独尊で周りの事など考えずに行動します。そしてそれに対して周りも邪険にせず適当にあしらいながら付き合っています。この主人公の唯我独尊っぷりが実にスカッとして、シリアスな場面であっても緊迫した場面であっても最後にはクスッとできるんだろうという絶対の信頼を感じました。そしてほかのキャラクターも愛嬌があり悪いやつはいませんからね。もちろん悪役はいるのですが、その悪役もどこか憎めない感じで愛着を感じさせてくれます。そんなキャラクターばかりという事もあり、最後には笑い話で終わるだろうと予測できるからこそ、コメディと私はあえて言い切れます。

 後はシステム周りは見事ですね。特に立ち絵として複数のキャラクターが登場しているときにどのキャラクターが話しているのか矢印が出るのは新鮮でした。そしてロードや場面転換も速くストレスはほとんど感じません。この作品、システム周りもファンタジーさとコメディさを表現するように考えられています。ちょっと残念なのはその短さでしょうか。私は全体で約4時間程度で終わりました。今思えば4時間というのは決して短くはないと感じていますが、もっともっとこのキャラクターたちに囲まれた世界観を味わっていたかったです。

 とにかくありとあらゆる要素でファンタジーさとコメディさを演出している軸の通った作品です。長さも手頃ですしみなさん満足できる内容だと思います。間違いなくC81で出展された同人ゲームの中でも高レベルに仕上がっている作品です。各種同人ショップでも売ってますので是非手に取ってみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<全てを動かし掻き回すのはやはり人の持つ情熱の力なんですね>

 いやいや、楽しい作品でした。最後まで安心して読み続ける事が出来ました。独特なファンタジーの世界観で繰り広げられる人間ドラマ。それでも最後にはみんながそれぞれの道に向かって進みだすという心がスッとする内容でした。

 結局のところ物語を動かしていたのは全て主人公であるクレハとタイトルにもあるオロカの想いでしたね。彼らの情熱が人を動かし物語を動かしていたわけです。本来なら交じり合う事のない人間と幽霊、その2人が交じり合ったからこそ、多くの人が振り回され心も揺れ動くことになりました。クレハの最高の映画を作ろうとする情熱、オロカのジャイアントフットを追い求める情熱が全ての始まりです。

 ですが物語はそう都合よく進んではくれませんでした。それは当然の事です。何故なら、人は情熱だけでは人を動かすことはできないからです。時には相手の事を考え自分の行動を見直さないと誰もついてきてくれません。クレハとオロカに足りなかったのはそういった相手への配慮だったと思います。当初は自分の思い通りにいかないことで苛立ってましたが、現実を突き付けられたことである程度自分の中で心境を変えなければいけないと思うようになるわけです。

 クレハにとってそれは相手を信頼することでした。物語中盤でノワールボリス隊のメンバーが仲良さそうにしていたのを見ていた時に気が付いたのでしょう。まあ最後の最後まで唯我独尊ではありましたが、他のメンバーと一緒に映画製作を行っていたあたり、心境の変化があったのかもしれません。オロカにとっても同じで相手を信頼することでした。複雑な家庭環境と天才子役の名前につぶれて周りを信頼出来なくなっていましたが、ジャイアントフットをみんなに認めてもらう事やクレハとオロカで画策していた人をポルター・ピクチャーズから人を追い出す事などを実現するためには、周りの人を信頼して説得することが必要でした。そういう意味でこの物語はクレハとオロカの成長物語といっても良いかもしれません。

 後面白かったのは、同じ時間の中で色々な人が色々な事を画策していて、そんな一人一人の思惑の交じり合いで物語の先が読めなかったという事ですね。オロカもジャイアントフットを使って大人を驚かそうと意気込むノワールボリス隊のメンバーに真実を告げてませんでしたし、それに協力してポルター・ピクチャーズから人を追い払うために動いていたクレハの真の目的も違いました。そんな微妙な心理の違いによる画策が周りに影響を与え、いつしか本人たちに制御できない展開になってました。最後に火事になったときはこれどうやって締めくくるんだろうと素直に疑問でしたからね。まあ、それを締めくくったのはやはりクレハとオロカの情熱でしたけどね。

 という訳でそんな情熱の持つ力とその力を有効活用するために必要な事を垣間見れた気がします。一度人との信頼を感じる事が出来たクレハとオロカならこれからも情熱を持ち自分の信念を貫いた人生を送れると思います。そんな爽やかな気分にさせてくれる作品でした。楽しかったです。


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