M.M 四角い恋人




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 7 84 2〜3 2018/1/10
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<分かり易いテキストとストレートなシナリオの中で、絵を描くという事、相手を想うという事を感じてみて下さい。>

 この「四角い恋人」は同人ゲームサークルである「幻創映画館」で制作されたビジュアルノベルです。幻創映画館さんの作品では過去に「光の国のフェルメーレ」をプレイさせて頂きました(レビューはこちらからどうぞ)。全ての要素を集約し表現したダークファンタジーなシナリオに完全に参ってしまい、プレイ後は暫く涙を流しながらすすり泣いていしまいました。実はこのレビューを書き始める前に久しぶりに「光の国のフェルメーレ」を起動したのですが、また泣いてしまいました。それだけストレートに心に響く内容であり、是非多くの人に触れて頂きたいです。そんな幻創映画館さんのC93の新作が今回レビューしている「四角い恋人」です。「光の国のフェルメーレ」はダークファンタジーでしたが、この「四角い恋人」は学園純愛ストーリーです。じんわりと暖かくなるシナリオを期待してプレイし始めました。

 主人公である昭斗は高校1年生です。絵を書くのが得意で、クラスメイトに自分の絵を見せてから「自分を描いて」と人気が殺到する程の腕前です。ですが、昭斗には唯一描けない絵がありました。それは人物画であり、美術の授業の課題であっても描かない程の徹底ぶりでした。そんな昭斗へのお仕置きとして、美術担当の三間先生は昭斗に1週間美術室の掃除を命令します。自分が人物画を描かない事をちゃんと良く思ってない良識的な昭斗ですので、三間先生の命令に背くことなく従いました。誰もいないはずの美術室。ですが何故か女の子の声が聞こえるのです。そこにいたのはツインテールが似合う可愛い女の子、名前を日向こよりと言います。この時から、昭斗とこよりの2人だけの美術部の時間が幕を開けるのです。

 幻創映画館さんの特徴は裏表のない分かり易いテキスト、そして幻創映画館の名前の通り起承転結がハッキリとしたシナリオ構成だと思っております。頭をフルに使わなくても素直にテキストを読み進めることが出来ます。場面の描写・登場人物達が思っている事・会話、それらがスっと頭の中に入ってくるのです。お陰様で他のビジュアルノベルと比較してクリックのテンポがかなり早かった気がします。サークルさんの指定では360分=6時間のプレイ時間ですが、私はこの半分以下の時間で読み終わってしまいました。恐らくはオートプレイでの時間なのだと思います。じっくり読むのも良し、自分のテンポでガンガン読むのも良し、何れにしてもどのような読み方も出来る作品です。

 そしてそんな読みやすいテキストや分かり易いシナリオで表現しているものは絵を描くという事、そして相手を想うという事でした。主人公である昭斗も美術室で出会った女の子こよりもどちらも絵が大好きです。ですが、とある事情でお互い思った通りの絵が描けないでいます。昭斗は人物画が描けません。こよりはそもそも絵を描く事すら出来ません。その理由を探っていく中で、一人一人が絵を描く事の意味を考えさせられると思います。彼らはどうして絵を描くのか、何を描くのか、絵を描いた先に何が待っているのか、その答えを探しに行きましょう。そしてこの作品は純愛ストーリーです。昭斗はこよりの事を好きになるのはなんとなく想像出来ると思います。では、好きになった子に想いを伝えたい時、どんな方法があるのでしょうか。言葉を交わす、プレゼントを贈る、様々な方法があると思います。彼らにとって、その鍵になるが絵です。絵を通して、人を想うという事も考えてみましょう。

 その他の要素としましてはBGM・背景・声が挙げられます。「光の国のフェルメーレ」でもそうでしたがクラシカルなBGMが作品を優雅に演出しており、絵を描くという行為の尊さを伝えております。背景は細部にまでキレイに書かれており、今どういう季節なのか、どんな時間帯なのかを絵だけで表現してくれます。そしてこの作品には声があります。こよりの天真爛漫でありながらおっちょこちょいな性格がピッタリです。その他の女性キャラクターにも声があり、シナリオを盛り上げてくれます。やはり全ての要素がこの「四角い恋人」という作品を演出するエッセンスであり、クリックすればする程世界感にのめり込むこと間違いなしです。

 プレイ時間は私で2時間45分くらいでした。選択肢はなく、クリックだけでエンディングにたどり着く事が出来ます。上でも書きましたが、サークルさんの想定時間がが6時間に対して半分以下の時間で終わってしまいました。それだけ読みやすいテキストであり、また頭に入りやすいシナリオでした。何よりも、のめり込んでしまったんですよね。私は普段日付が変わったら中断するのですが、この作品ではそれが出来ませんでした。物語の展開が気になり、早く結末が見たいと素直に思いました。それでも、この作品は幾つかのセクションで分かれております。それが途中紙芝居のようにハッキリと提示してくれます。ちょっと疲れたなと思ったら是非そのタイミングで休憩を取るのが良いですね。幻創映画館さんの作品はとにかく映画のようなシナリオ構成と分かり易いテキストが魅力です。その魅力を十二分に感じて、彼らの結末を見届けてみて下さい。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<描きたい物を描く。それが創作の原点であり一番大切にしなければいけないこと。>

 幻創映画館さんのテキストは本当に分かり易いですし、変に伏線を隠さないのが素敵だと思いました。途中でこよりが人間ではない事は誰でも気付けると思います。絵の中だけの存在であるという事も割と気付けるのではないでしょうか。それでも、流石に手がない女の子という事には気付けませんでした。まあ、そんな事は昭斗とこよりの前では何も気になる事ではありませんね。何しろ、人間ではないキャンパスの女の子を好きになってしまったのですから。そして、どんな形であれ好きになったものに一生懸命になる姿は素敵だと改めて思いました。

 この作品で印象的だったセリフ、それは「絵は心でかくもの」でした。自分の技術によって絵の良し悪しはあったとしてもまずは自分が描きたいものを描く、そこから絵を描くという事が始まる。これは天辺先輩が信条としている事であり美術部の皆もそれを徹底する天辺先輩を尊敬しておりました。絵というものは不思議なもので、本当に作者の心が入っていないと感動しないんですよね。世の中の天才画家と呼ばれている人の作品を見れば分かると思います。見る人が見たら、まるで落書きの様な絵が多いとは思いませんか?そして、そんな落書きの様な絵なのに何故心が惹かれるのでしょうか?それがきっと心で描いた証拠なのだと思います。

 だからこそ、親愛なるこよりの為に絵を描いていた天辺先輩がその絵を途中で止めてしまったんですね。届けたい人、見せたい人はいなくなってしまいました。その瞬間、どれだけ取り繕ってもこよりの絵に心を込めることが出来なくなってしまいました。どれだけ技術があっても、描けないものは描けないという事を見せつけてくれました。ですが逆にそれだけ思い入れがあったからこそ、こよりは絵の中だけの存在になっても外に出れたのかも知れません。恋人が欲しい、その強い思いをちゃんと天辺先輩が絵で表現したからこそ、昭斗が美術室に来た時に自分を外に出せたのだと思っております。

 そして、そんな一生懸命なこよりだからこそ昭斗は好きになったのだと思います。おっちょこちょいで、メロンパンが大好きで、手のないキャンパスの中の彼女、昭斗にとってそれらの要素なんて何も意味を持っておりませんでした。だからこそ、昭斗はこよりの探し物を見つけてあげたいと思ったのだと思います。その探し物とはこよりの手、もっと言えば大好きな人を握り締める事が出来る手です。天辺先輩が途中まで仕上げたこよりの絵を、昭斗が引き継いで何が何でも完成させなければと動き始めました。結果として体を壊してしまった昭斗、展覧会には間に合わないと思いました。ですが、天辺先輩が途中から仕上げてくれました。こよりの為に一生懸命になる昭斗を見て、こよりがいなくなったわけじゃない事に気付たのだと思っております。再び心が灯った天辺先輩、だからこそこよりの絵は展覧会に間に合ったのです。

 さて、この作品を読んでいる方はきっとビジュアルノベルに思い入れがある方だと思っております。この作品をプレイして、自然と「絵 → 創作」と置き換えてしまったのではないでしょうか?創作をされている方は、きっと皆さん同じ気持ちを味わっていると思います。描きたい物がある、表現したいものがある、それを形に出したい、外に出したい、そんな純粋で尊い気持ちから作品は生まれます。それは決して打算的なものではありませんでした。結果として売れる売れない、読まれる読まれないはあると思います。周りの人の反応で一喜一憂する事もあると思います。ですが、それでも描きたい物を描ききった、その瞬間は必ず喜びを感じたはずです。その気持ちこそが創作の原点であり、一番大切にしなければいけない気持ちだと思います。

 昭斗が好きになったのはキャンパスの女の子です。でも、その気持ちが嘘偽りのない真実だからこそ、誰に言い訳するでもなく昭斗はこよりの事を好きで居続けることが出来るのです。周りに祝福されなくても構わない、それでも自分はこよりが好きだ。これって、自分の創作物が売れなくても構わない、それでも自分は自分の作品が好きだ、と同じですね。この作品は、創作活動をされている全ての方へのエールだと思っております。自分がなぜ絵を書いているのか、なぜ創作活動を行っているのか、是非それを彼らの姿から思い出してください。そして、絶対に自分が描きたい物を完成させて下さい。完成させる事が全て、これは昭斗も天辺先輩も言っておりました。完成させた先に、きっと笑顔が待っているのだと思います。

 最後に一言。この作品を語る上でメロンパンは欠かせない物でした。それはエンディングのクレジットを見れば一目瞭然ですね。もう、世の中にこれだけメロンパンがあるなんて思いませんでしたよ!!どれだけ好きなんでしょうね!!もしかして、この作品の目的って「みんな!メロンパン食べようぜ!!」って事なんでしょうかね!まあ、こよりがあんなに美味しそうに食べるのですから食べたくなるのは当たり前ですね。ちょっとメロンパン買ってきます。メロンパンの魅力に気付かせてくれて、ありがとうございました!


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