M.M 光の国のフェルメーレ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 8 8 88 4〜5 2017/2/6
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<ありとあらゆる素材に一切の妥協がなく、全てがこの「光の国のフェルメーレ」という作品を演出するものでした。>

 この「光の国のフェルメーレ」という作品は同人サークルである「幻創映画館」で制作されたビジュアルノベルです。幻創映画館さんとの出会いはC91で同人ゲームサークルを回っている時で、その時に手に取らせて頂いたのがこの「光の国のフェルメーレ」です。笑顔が似合うとても可愛らしい女の子が印象的です。裏のあらすじを読みますとどうやらファンタジーの様で、おとぎ話の様なあらすじに期待が高まります。しかし決して平坦な物語ではなさそうで、山あり谷ありのシナリオが待っていそうです。ファンタジーの作品は同人ビジュアルノベルでも数が少なめですので、そういう意味でも期待が高まりました。

 舞台はノイエンフェルトと呼ばれる小国です。この国は昔から朝が訪れることがなく、厚い雲に覆われた空は蒼の色から変化する事がありませんでした。主人公であるノエル・シュトラッセはそんなノイエンフェルトのとある名家の次期当主。ですが次期当主とは名ばかりで実際は自分の部屋から一歩も出ることが出来ない生活を送っております。唯一の楽しみは召使であるレーナとの会話や勉強と、自分の大切な人形達を愛でる事。ここで言う人形とはいわゆる無機物の人形ではありません。人間の下に位置する存在です。様々な理由で普通の人間から人形となってしまった彼女達に人権などありません。雇い主に奴隷のように扱われ死ぬまでこき使われます。ですがノエルは人形を乱暴に扱いませんでした。人間に接するかのように優しく扱い、そんなノエルの事を人形たちも好いておりました。ある日そんなノエルの元に1人の人形が迷い込んできます。人形の名はセフィア、そしてこの出会いが壮大な冒険の幕開けだったのです。

 このノイエンフェルトには誰もが知っている有名なおとぎ話があります。それはフェルメーレと呼ばれる蝶の物語。あるところに動物たちが楽しく生活する森がありました。ですがある日突然空の光が届かなくなります。光が失われ寒くなっていく森、沢山の鳥たちが光を求めて空を目指しました。しかし空を覆う厚い雲を突き抜ける事が出来ず、一匹また一匹と倒れていきます。そんな時一匹の蝶が光を取り戻すと空に飛び立ちました。その名はフェルメーレ。鳥ですら届かなかった空に蝶が届くはずがない、みんなフェルメーレを信じませんでした。ですがフェルメーレが飛び立ってどのくらいの時間が経ったでしょう。ある日再び光が蘇ってきました。森は再び光に包まれ、みんな平和に暮らしましたとさ。まるで今のノイエンフェルトの様ですね。果たしてノイエンフェルトはおとぎ話の様に光を取り戻す事が出来るのでしょうか。フェルメーレは本当に現れるのでしょうか。

 この作品の魅力ですが、正直どれだけ字数を掛けても語り尽くせません。ファンタジー設定を丁寧に表現した世界設定。フェルメーレのおとぎ話を説明する時に代表される朗読のような演出。感情のこもったボイスアクター。弦楽器を中心としたオリジナルBGM。非常に多くの差分が用意してある背景と立ち絵。そしてプレイヤーの心にダイレクトに突き刺さるストレートなシナリオ。その全てがこの「光の国のフェルメーレ」という作品を表現する為に用意された最高の素材です。引き込まれる作品とはこういう作品の事を言うのだと思いました。セリフ一つ一つ、背景描写一つ一つに目が離せません。正直な話、この作品をプレイし終わる前に泣いてしまいました。それだけ心に突き刺さるシナリオであるのは勿論ですが、全ての要素において妥協せず描ききったサークルさんへの謝辞の気持ちがあったのかも知れません。是非皆さんもこのノイエンフェルトの世界を味わって頂き、どのように物語が紡がれていくかじっくりと読み進めていって下さい。

 最大の魅力はやはり主人公であるノエルとメインヒロインであるセフィアのキャラクターです。ノエルは次期当主ではありますが素直な性格であり、世の中の常識に縛られません。人形を人間のように大切に扱い、例え周りから奇異の目で見られようとも決して信念を曲げない誠実さを持っております。またセフィアはちょっとおっちょこちょいで舌っ足らずな性格です。何もないところで転び、その度に自己嫌悪してしまいます。それでも持ち前の明るさを失う事はなく、ノエルと触れ合う事でとても感情豊かな姿を見せてくれます。可愛いとは彼女の為に用意された言葉かも知れません。決して優秀ではありませんし豊満な体をしているわけでもありません。それでも何故か彼女の事から目が離せない。それがセフィアの魅力かも知れません。この2人がどのような物語を紡ぐのか。そしてどのような結末が待っているのか、是非最後まで見届けて下さい。

 プレイ時間的には私で4時間15分掛かりました。選択肢はなく、一本道ですので自分のペースで読む事が出来ます。また途中章で区切られておりますので、そのタイミングで休憩を挟むのも良いと思います。西洋をモチーフとした世界ですので、紅茶等でも用意して優雅にプレイしてみるのも良いかも知れません。またこの作品は現在公式HPでダウンロード版をフリーで提供しております。これだけ綿密に練られた作品がフリーでプレイ出来るのです。正直驚きました。普通に2,000円〜3,000円で販売しても差し支えない程のクオリティです。イベントで入手出来なかった方は是非ダウンロードしてみて下さい。幻創映画館というサークル名の通り、本当長編映画を見ているかのような感覚になります。夢のような時間を是非あなたにも。そして私のように最後まで泣かないでプレイして下さい。超オススメです。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<この作品はノエルとフェルの愛の物語であり、ノイエンフェルトの皆の想いが詰まった物語でした。>

 最後、二匹のフェルメーレがノイエンフェルトの街を飛び交っている様子を見て涙が決壊してしまいました。魔女の森を進んでいく途中の段階で既に目は潤んでいたのですけど、決して涙は流さないと思ってました。でも無理でした。最愛の人と仲良く楽しそうに空を飛び回る2人を見て、ああやっと自由になれたんだな、今までの努力が報われたんだな、夢を叶える事が出来たんだな、と思ったとき涙が流れておりました。おとぎ話はハッピーエンドだからこそおとぎ話だと思っております。例え人間としてではなくても、愛する人とずっと一緒に入れればそれが幸せなのだと思いました。

 正直な話、IV章のはじまりのページで物語は殆ど終わりかなと思ってしまいました。ノイエンフェルトが厚い雲に覆われた歴史の真実、人形とセフィアが生まれた経緯、レーナの正体と姉の真実、自分のそばにずっと寄り添っていた青い蝶の正体、シュトラッセ家の役割。そうした様々な伏線が明らかにされていき、そして全ての真実を聞かされたノエルがフェルと共に光を取り戻す旅に出ると決断したところでシナリオとしては終わりかなと思ってました。ですが全然違ってましたね。むしろここからが本番でした。屋敷を脱出した段階で荷物の殆どを失い、加えてフェルが怪我をしている絶望的な状況からのスタート。いつ終わるとも知れない魔女の森の試練。しかも進めば進むほど試練の内容が過酷になっていき、それに比例して2人の体力と気力が削られていきました。いやいや本当にすごい演出でしたね。同じ背景が一つもないんですもの。加えてフェルの声がどんどん力を失っていく演技。絶望感とはこういう事を言うのかも知れません。どれだけ酷い運命を背負わせるのか。それだけこの2人が悪い事をしたのか。私自身悔しい気持ちでいっぱいでした。それでも試練は終わらないのです。

 魔女の森の歴史はノイエンフェルトの歴史そのものであり、光を失った歴史そのものでした。初めての生贄となったセフィアがどのような気持ちで森へと向かったのか、それは2人に降りかかる試練の内容を見ればそれだけで分かりますね。さぞかし無念であり、恐怖だったのだと思います。自分は死ななければ役に立たない、何のための人生だったのでしょうか。人間なんて滅んでしまえ、光なんて与えてやるものか。そんな怨念の声が聞こえてくる様です。その後セフィアに続き何人もの生贄が送られました。しまいには人形という奴隷を生み出しさらに数多くの生贄が森へと向かいました。それでも光は帰ってきませんでした。ただ、恨みの気持ちを蓄積するだけだったのです。

 だからこそ、ノエルの姉であるフラックは魔女の森へと立ち向かいました。こんな悲しみの連鎖は自分で終わりにしなければいけない。例えこの命が朽ちても光を取り戻す、とても強い決意が込められておりました。ですがフラックだけでは魔女の森の試練を超える事が出来ませんでした。最後の最後できっと力尽きてしまったのでしょう。であるなら、次に挑戦する物に自分の意思を受け継がなければ。その想いがフラックと蝶へと変身させ、最後のチャンスとしてノエルの元に帰る事が出来たのです。偶然にもその姿はおとぎ話で語られていたフェルメーレの姿そのもの。既にノイエンフェルトとおとぎ話の相似に気づいていたノエルは、この蝶がフラックである事に気づく事が出来ました。

 振り返れば、ノエルとフェルには様々な人達の想いが込められておりました。自分の命を犠牲にしてでもフェルを脱出させたいと願ったメルテ。人形を愛でるノエルが奇異の目に晒されないよう全ての真実を隠した両親。セフィアであるフェルに対して平等に接した屋敷の人形達。ノエルに内緒で光を取り戻そうと決意しその後ノエルのサポートに徹したフラック。そしてそんなフラックに救われ再び人間として名前をあたえられたレーナ。レーナもまたかつての親友であるリオとすれ違ってしまいました。リオは悔やんでおりました。打算なんてこれっぽっちもなかったのです。そんな数多くの人達の想いと願いが、再びノイエンフェルトに光を取り戻せたのだと思っております。だから最後エンディング、ノエルとフェルは懐かしい人達の前に現れました。きっとお礼を言いに行ったのだと思います。光を取り戻すことが出来ました。フェルメーレになってしまったけど僕たち2人は一緒です。幸せな時間をありがとうございました。そんな声が聞こえてきそうです。

 この作品はノエルとフェルの愛の物語。そして数々の悲しみの連鎖を断ち切る物語でした。何百年と続く負の歴史を終わりにする為に、数多くの人達が命を落としました。何人が生贄になったのでしょうか。そしてそんな生贄にする決断をしてきたシュトラッセ家の歴代当主達の無念もあったと思います。だからこそノエルとフェルの2人の愛と決意だけではなく、その裏にあるメルテ、両親、人形達、フラック、レーナ、リオも必要だったのだと思います。誰一人欠けても駄目でした。誰か一人欠ければ、ノエルとフェルは光の下へたどり着けませんでした。でもたどり着きました。2人の愛と強い決意、そして周りの人の想いがたどり着かせました。おめでとうノエルとフェル!おめでとうノイエンフェルトの皆!もう、もう二度と過ちを繰り返してはいけませんよ。やっと負の歴史を断ち切ったのですから。最後フェルメーレになったノエルとフェル。きっと2人で温かい日が降り注ぐお花畑で、おいしい紅茶でも飲んでいるのだと思います。素敵な物語を、ありがとうございました。


→Game Review
→Main