M.M 忘却のリコリス・エンブリオ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 - 85 3〜4 2018/10/1
作品ページ サークルページ



 この「忘却のリコリス・エンブリオ」は先に発売された「また逢う日を楽しみに」の続きとなっております。その為レビューには「また逢う日を楽しみに」を含めたネタバレが含まれていますので、ネタバレを避けたい方は避難して下さい。

「また逢う日を楽しみに」のレビューはこちら

※このレビューにはネタバレしかありません。前作と本作の両方をプレイした方のみサポートしております。


→Game Review
→Main

以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。





















































































<本当に大切な物を守る、その為だったら最愛の人とも決別する、その信念と覚悟の強さこそシズらしさですね。>

 私ね、自分が一番愛するものを守るために全てを投げ出せる覚悟を持つヒロインって大好きなんです。本当はもっと楽になる方法があるはずなのにそれを選ばないで最後まで気丈に振る舞い自分の信念を貫く、これ程カッコいい生き方ってないと思います。そしてそれが全て大好きな人の為ならば、もう私は泣くしかありませんでした。

 人間と妖怪の間を取り持つ現人神という存在になってしまった高天原シズ、辛い生い立ちや宿命を背負っているにも拘らず、彼女の事を慕う妖怪たちに囲まれながら少しずつ成長していく姿が印象的でした。本作はそんなシズが女学院に通い、16歳という結婚適齢期を迎えて再び高天原家に帰ってきてからの物語でした。また色々と難題が降りかかりつつもそれらを解決していく物語が展開されるんだなと、正直軽く考えてました。そしてまた様々な妖怪たちが登場しその個性と個性がぶつかり合うコミカルな雰囲気を味わえるんだなと、馬鹿正直に思ってました。それが、まさかここまでそれぞれの登場人物を掘り下げ真っ直ぐに書ききるシナリオが待っているとは思ってもみませんでした。どうしても道を分かつ瞬間がやってくる、その時こそ生き様という物が見えるのかも知れません。

 この作品の上手なところは、どのキャラクターにも裏の顔があり隠された真実を持っているという事です。最強クラスの妖怪でありながら妖力を補充する事が出来ない景明、人間にあこがれていながらがしゃどくろという外見を持つ京士郎を始め、高天原家とよしのしか心の拠り所が無かったひばね、新に囚われていたのではなくちゃんと信頼関係を持っていた銀之助、他にも全てのキャラクターに周りには言えない事実がありました。この作品では、全体を通して第一印象で決めつけてしまう事の危うさと、後悔した時にはもう遅いという事の無常さがテーマだと思っております。そして、第一印象を打破する為には自分自身の信念と覚悟を固めて曇りのない眼で見る事が大切だという事が伝わりました。

 シズは、本当に心の底から京士郎の事が好きなんですよね。好きだからこそ、現人神としての務めだけではなくその全てを捨てて京士郎とよしのとの3人暮らしを始めました。そして身ごもった子供が新の子供かも知れないと思った時、迷わず異形降ろしを選びました。この覚悟の強さは本当に美しいと思いました。ですが、まさかその先にもっと美しいものが待っているとは思いませんでした。縁が京士郎とシズの子供だと分かり、そして京士郎が行方不明になった時、シズはあれほど嫌っていた新との婚約に応じました。そして新との子も宿しました。見る人が見れば、どれだけ自分勝手なんだろうって思うかも知れませんね。多くの妖怪にとっては最低の現人神だと思います。同じく人間にとっても自分勝手に見えたと思います。ですけど、シズはちゃんと自分の行動には責任を取ってました。京士郎と生きると決めたらだれにも頼らす生きました。縁を守るために、最後まで縁に母と呼ばせず徹底的に現人神として振る舞いました。気丈だと思いました。美しいと思いました。そんな凛としたシズの姿に、ホロリとしてしまいましたね。

 そして、この作品が時間的に非常にスケールが大きい物である事も大切な要素でした。人間の人生は長くても精々100年だと思います。ですが、妖怪であれば何百年も続くのです。今回、シズ以外の登場人物はやはり妖怪だらけでした、そしてそれは、自分の息子である縁もまたそうでした。最後の最後の番外編、これは本編から100年以上も未来の話でした。縁は立派な青年ですが、既に100歳を超えているんですね。当たり前のように存在するシズの墓、主人公が死してなお語り継がれるというスケールにも惚れこんてしまいました。伏線の答えが本当に斜め上のスケール感なんですよね。それでも、シズが一番大事にしたいと思った縁が100年経っても立派に生きている、この事実だけで充分かも知れません。その他のキャラクターはどうなったのだろう、それも気になりますがそれこそ番外編として1人1人の未来を描いて欲しい程愛おしかったです。

 さて、そんな「また逢う日を楽しみに」シリーズですが、またまだ本編は終わらなそうです。最愛の京太郎と別れ、同じく最愛の縁と分かれ、徹底的に現人神として生きる決意をしたシズ。その行動もあり、多くの妖怪たちとの信頼関係を取り戻したみたいです。そんなシズが「京士郎を討伐せよ」という命令に「許可します」と言ったのです。そして京士郎を「われもこう」と言い切ったのです。もう、シズと京士郎は結ばれないのでしょうか?流石にここからの逆転劇はないのでしょうか?私はまだドラマがあると思います。100年後の未来で無残に扱われているシズの墓、それはきっとシズがその後も美しい現人神として終わった訳ではない事の現れです。何かあったのですね。ですがその何かは、きっとシズの覚悟がこもった何かだと思っております。まだまだ終わらない「また逢う日を楽しみに」シリーズ、続きが早く読みたいと切に思っております。素敵な作品を、ありがとうございました。


→Game Review
→Main