M.M また逢う日を楽しみに
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
6 | 8 | - | 80 | 2〜3 | 2018/9/29 |
作品ページ | サークルページ |
<沢山の妖怪と織りなすコミカルな日常の中で、主人公の成長をBGMと共に見届けて下さい。>
この「また逢う日を楽しみに」という作品は、同人サークルである「筍lavoratore」で制作されたビジュアルノベルです。筍lavoratoreさんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。切っ掛けはCOMITIA125で同人ゲームの島サークルを周っている時でした。こう言ってはあれですが、実はCOMITIA125で入手した同人ビジュアルノベルは全て「当たり」だという確信がありました。理由なんてありません、直観でどれも間違いなく面白いという自信があったのです。この感覚はホント久しぶりでしたね。そんなCOMITIA125の戦利品の1つが今回レビューしている「また逢う日を楽しみに」です。彼岸花が添えられたミステリアスなパッケージと可愛らしいキャラクターデザインが、プレイするハードルを下げてくれました。
舞台は現代の日本。ですがそこには人間だけではなく妖怪も当たり前に生活しておりました。そして、そんな人間と妖怪の橋渡しをする存在がいました。その名を「現人神」と言います。主人公である高天原シズは、そんな現人神である高天原ユカリを姉に持つ10歳の女の子です。幼い時に辛い境遇に会い人間を信じられなくなったシズは、人間よりも妖怪との触れ合いを楽しみにしておりました。それでも、人間で唯一自分を慕ってくれる姉の事は勿論大好きです。そんなシズに、突然の試練が訪れます。大好きな姉が、死んでしまったのです。そして自分に降りかかってきた現人神の立場、沢山の妖怪や人間と関わっていく中で、シズの成長物語がここから幕を開けるのです。
この作品の魅力は、たくさん登場する個性的な妖怪たちと彼らと織りなすコミカルな日常の雰囲気だと思っております。冒頭、大好きな姉が死んでしまうという悲しい始まりですが、そんな姉の死を悲しませる暇を与えないくらい妖怪たちがあれよあれよと問題ごとを持ってきます。まず妖怪たち同士がそれ程仲良くありません。絶対にどこかでいがみ合っています。ですけどそれは心の底からいがみ合っているのではない、軽口で笑える絡み合いです。そんな妖怪たちだからこそ、シズもいつまでも悲嘆に暮れる事無く次の一歩を踏み出す勇気を貰えたのかなと思っております。現人神を引き継いだとはいえ、シズはまだ10歳の女の子ですからね。カッコ良くて強い妖怪が守ってくれないと心配ですね。そんなコミカルな日常を楽しむ事が出来ました。
他には、BGMも使い方が上手いなと思いました。この作品はフリー素材のBGMを使用しております。同人ゲームに慣れ親しんだ方であればどこかで聞いた事があるサウンドばかりです。ですが、そのサウンドの使い方が本当に上手でした。特にエピソードが終わり次のステップへと移るときに流れるピアノ曲は心にジンワリと広がりました。少しずつ成長しているシズの様子が、彼女の言葉とBGMからしっかりと伝わります。この作品は、本当にシズの成長をちゃんと印象的な言葉で彩ってくれるんです。コメディで賑やかで、ほんのりとシリアスでホロリと来る、それをBGMが良く演出していたと思います。
プレイ時間は私で2時間30分程度でした。選択肢はほとんどなく、基本1本道で最後まで読む事が出来ます。この作品にはセーブ&ロード機能はありません。ですが、章の中で10分程度の感覚でブレイクタイムを設けており、その段階でオートセーブされますのでセーブしなくても特に気になる事はありません。是非自分のコンディションと相談して、集中できる状態で読み進めて頂ければと思います。人間×妖怪の乙女ゲームですが、男である自分でも普通に楽しめました。まあ、男女という見方を超越して人間と妖怪が登場する作品ですからね。オススメです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<視野を広げる事、それは今まで見えなかったものが見えるようになる事。>
最後まで本当にホッコリと読む事が出来ました。様々な妖怪がシズの前に現れて、それでも決して諦めたり逃げたりする事がなく、ちゃんと現人神らしく振舞えたと思っております。そして、そんなシズの周りにはひばね・京士郎・景明と沢山の妖怪がいました。皆、シズの事が大好きなのが伝わって嬉しかったです。
改めて振り返ると、この作品に人間の登場人物は殆ど出て来ませんでした。これは物語に登場しないという意味ではありません、立ち絵として登場しないという事です。ですがそれはある意味当たり前でした。何故なら、他ならずシズが人間に対して距離を取っていたからです。自分の話で恐縮ですが、私が嫌いな人の特徴は私の事を嫌う人です。言葉遊びにも聞こえるかも知れませんが、自分に対して敵対心を持つ人に愛着を持つ事は難しいと思います。シズは人間の事が嫌いでした。そしてその事はきっと相手側にも伝わったのだと思います。だからこそシズの視点の中に、殆ど人間は登場しなかったのです。
この作品はシズの成長物語です。では、成長とは何を指すのでしょうか。私は視野が広がる事だとこの作品を読んで思いました。物語最後、女学院に行く事に対してシズは決して後ろ向きな気持ちではありませんでした。勿論、今まで自分に良くしてくれた妖怪たち、そしてほのかに恋心を抱いていた京士郎や景明との別れは寂しいです。ですが、それは分かれが悲しいだけであって女学院に対する嫌悪の気持ちはありませんでした。視野を広める事、その事に対しての恐れがいつの間にか無くなっていたんですね。これだけで、十分な成長だと思いました。シズが視野を広げるのはこれからです。今は、その視野を広げるという事に対する抵抗がなくなるだけで充分だと思いました。
シズは現人神です。残念ながらその宿命からは簡単に逃れることは出来ません。これは言い換えれば妖怪だけではなく人間ともしっかりと向き合っていかなければいけないという事です。つまり、きっとこれからのシズの視点の中には人間もたくさん登場するのかなと期待してしまいます。視野を広げる為に女学院に行ったシズ、そして6年経過して久しぶりに帰ってきた高天原、ここからどのような出会いがあるのか楽しみに思いました。結婚の話もあるみたいです。現人神を悪用しようとする人間も、そして妖怪もいる事でしょう。それでも、今のシズであれば臆する事無く真っ直ぐに物事を見つめて行動できると信じております。
後は純粋に京士郎や景明との恋模様も楽しみです。第一部ではまだ10歳の淡い恋心が描かれました。とても可愛かったですし、素直に京士郎のがしゃどくろを受け入れた様子は涙が出そうになる程純粋だと思いました。それから6年経過しました。今やシズは17歳です。女の子から女性と呼んでも差し支えない年齢となりました。京士郎や景明との関係が、これまでと同じはずがありませんね。そんな乙女ゲームらしい心の揺れ動きにも期待したいです。読んでいてとても心地よい伝奇ものでした。コメディ的な雰囲気も調度良く、嫌いなキャラクターは誰ひとりいませんでした。楽しかったです。ありがとうございました。