M.M 万華鏡の柩 -昿篇-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 - 88 9〜10 2019/8/23
作品ページ(なし) サークルページ



 この「万華鏡の柩 -昿篇-」は、前作である「万華鏡の柩 -漸篇-」の続編となっております。その為レビューには「万華鏡の柩 -漸篇-」のネタバレが含まれておりますので、ネタバレを視たくない方はご遠慮下さい。またネタバレ無しのレビューについては「万華鏡の柩 -漸篇-」のレビューを参照下さい

「万華鏡の柩 -漸篇-」」のレビューはこちら

※このレビューには「万華鏡の柩 -昿篇-」のネタバレありしかありません。本作をプレイした方のみサポートしております。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。





















































































<真実を白日の下に晒す。その信念が揺るがないからこそ、流石は僕たちの紫藤直樹ですね。>

 ・・・正直言いまして、開始30分でもう呑まれてました。夢子が死ぬという凄惨な現場を目の当たりにして、紫藤・遠野の静かな会合、そして理穂子が想いを巡らせる部分でお腹がいっぱいでした。悲しみに暮れる中で、それでも犯人を見つけ出すという決意が美しかったからだと思います。

 「万華鏡の柩 -漸篇-」のレビューでも触れましたが、今回の事件は探偵紫藤直樹と探偵助手香山理穂子にとってかつてない程重要で且つ危険な内容でした。何故なら、紫藤直樹にとって因縁の相手である伏見一郎が直接関わっているからです。羽角家のお家騒動を利用してまた誰かが伏見一郎の遊び道具にされてしまう、絶対に防がなければいけませんでした。それでも殺人事件は起こってしまいました。しかも、夢子というシリーズ全体に関わる人物が殺されてしまいました。凄惨な事件に心打たれましたが、同時にこの事件をどうやって解決させるのだろうというこれからの紫藤直樹と香山理穂子の活躍に期待が膨らむ気分でした。

 その後の展開は、本当想像の斜め上を行くものばかりでした。伏見一郎の登場、羽角家の地下に広がる広大な空間、木乃伊を超えた屍蝋という存在、複雑な羽角家の人物構造、これは中編とか挟んだ方が良かったのではないかとすら思いました。途中メモを取りつつも、ついつい夜更かししてしまう日々が続きました。先が気になるのに、いつまでたっても事件の出口が見えてこない。犯人どころか死体すらも見つからない。こんな暗中模索を繰り返して、ようやく事件は紫藤直樹の手によって白日の下に晒されたのです。

 蓋を開けてみたら、そこにあったのは欲望に取り憑かれた醜い心根でした。途中紫藤・遠野・慶一の3人が事件解決を決意した時にも行ってましたが、人はどうしても「カネ、女性、権利、名誉」からは逃れられないのでしょうか?まあ、人間ですので神や仏でもない限り欲望を無くする事は出来ません。むしろ欲望がある事が人間らしさでもありますからね。それでも、自分の欲望のために殺人を犯すのは絶対に許される事ではありませんでした。何故なら、これだけ多くの人が悲しんでいるのですから。ましてや、人が悲しむ事を目的とする殺人なんてもう人の所業とは思えません。しかし残念ながら、それを平気でやってしまうのが伏見一郎という人間でした。

 この大正浪漫シリーズは、もはや紫藤直樹と伏見一郎の愛憎物語なのではないかと思うようになってきました。いやいや、伏見一郎紫藤直樹の事好き過ぎでしょ!そこで顔を赤らめるな!お前はどれだけ自分に正直なんだと!もう安定の伏見一郎に唯々感服するばかりでした。勿論、紫藤直樹にそんな伏見一郎と戯れるつもりなど全くありません。逆に、自分が一刻も早く伏見一郎を捕まえないとますます犠牲者が増えてしまう。きっとそんな風に思っていると思います。悪いのは伏見一郎です。ですけど、ここまで伏見一郎を虜にさせた紫藤直樹ですので、ある種の罪悪感を感じていないか心配になってしまいました。

 ですけどそんな心配は不要でした。紫藤直樹は探偵でした。真実を白日の下に晒す、その使命感を忘れる事はありませんでした。いつもはお高く留まって理穂子をいじり八重さんに忠実な憎めない紫藤直樹ですが、そこの根底がブレる事はありませんでした。最後、徹底的に福丸を糾弾する姿は探偵の姿そのままでした。人によっては、お家騒動としてまとめようとする羽角家に愛想をつかして去ってしまうかも知れません。自浄作用のない人間に物を説いても意味がありませんからね。それでも、紫藤直樹はやめませんでした。これこそが、僕たちの紫藤直樹だと思いました。

 エンディング、横浜でいつもの紫藤直樹と八重さんに囲まれる日常が帰ってきました。ああ、やっぱりこの光景が一番だなと、改めて思いました。理穂子には、絶対に信頼できる人がいました。紫藤・遠野・八重さんがいれば、理穂子に何も恐れるものはありません。この光景を守る為にも、これから紫藤直樹と香山理穂子にはまだ見ぬ敵と戦わなければいけないんですね。今回は本当に何度も命の危険にさらされました。実際、選択肢を誤って殺されました。それだけ緊迫感があり、また事件全体のスケールが大きく読み応えのある内容でした。「万華鏡の柩 -漸篇-」と合わせて15時間にも及ぶ長編ミステリー、何とかここに終幕を迎える事が出来ました。また次回、この大正浪漫ミステリーの世界に触れられる事を楽しみにしております。ありがとうございました。


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