M.M 万華鏡の柩 -漸篇-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 - 81 5〜6 2019/1/3
作品ページ(なし) サークルページ



<探偵紫藤直樹にとって、そして探偵助手香山理穂子にとってもかつてない最大の挑戦になる予感がします。>

 この「万華鏡の柩 -漸篇-」は同人サークルである「YUKIRINS」で制作されたビジュアルノベルです。YUKIRINSさんの作品は全て「大正浪漫ミステリーシリーズ」というシリーズものであり、主要な登場人物や舞台は全て共通となっております。これまでもメインシリーズである「石榴の時計」「蝶々髑髏」「華焔櫻」と番外編である「君想う影、嵐と吹鳴に消ゆ」「六迷雪華」の方をプレイさせて頂き、大正時代の歴史観溢れる舞台設定と個性的で見どころ満載の登場人物を毎回楽しみにプレイさせて頂いております。そんな大正浪漫ミステリーシリーズの最新作が今回レビューしている「万華鏡の柩 -漸篇-」となっております。プレイし終えて、これまでの大正浪漫ミステリーシリーズの総括的な内容に思えました。

 私の中での大正浪漫ミステリーシリーズ最大の魅力は、主人公である香山理穂子と探偵である紫藤直樹の掛け合いだと思っております。香山理穂子は天真爛漫な女学生であり、気になったものはとことん追求しないと気が済まない性格です。ですが香山理穂子が向き合うのは実際に人が死んでしまう本物の殺人事件です。その天真爛漫が仇となり、自分自身が命を落としそうになる事も少なくありません。それでも、彼女の積極的な行動や素直な言動が探偵紫藤直樹の推理の助けとなっております。実際に事件の全貌を明らかにするのは紫藤直樹ですが、その陰で確かに香山理穂子の活躍が意味を持っておりました。それを、紫藤直樹は素直に認めようとしないんですね。強引に探偵助手として自分の傍にいる香山理穂子を軽くあしらいつつも、事件を重ねるにつれて彼女を理解し共に事件を解決しようとする姿にホッコリさせられました。確実に、2人の間に信頼関係が出来ている証拠だと思います。

 だからこそ、今回の事件は探偵紫藤直樹にとってかつてない難事件になる予感がありました。紫藤直樹に届いた一通の手紙、それは紫藤直樹にとって因縁の相手からの挑戦状でした。そしてその因縁の相手は、勿論香山理穂子の事も知っているのです。もしかしたら、今度こそ香山理穂子を守れないかも知れない。彼女の事を死なせてしまうかも知れない。そんな予感がしたからこそ、紫藤直樹は徹底的に香山理穂子に対して手紙の事を隠し続けました。ですがそこは流石の香山理穂子、紫藤直樹が何かを隠し何かを悩んでいる事に気付いてしまうんですね。探偵助手として、悩んでいる紫藤直樹を放っておくはずがありませんね。それでも今回の事件はこれまでの中でも最も難しい内容になるのは間違いありません。その為、探偵紫藤直樹・探偵助手香山理穂子に加えて香山理穂子の婚約者である遠野高志と信頼の置ける我らが最強の女中である七瀬八重の4人で舞台となる万華鏡の柩へと向かったのです。

 大正浪漫ミステリーシリーズは、ミステリーですので本格的に推理しなければ事件を解決することは出来ません。これまでの作品では、選択肢を選ぶものもあれば犯人の名前を直接入力するものもありました。是非途中メモを取りながら事件解決を目指してみて下さい。また、それぞれのエピソードは独立していておりますので過去作品をプレイしていなくても特に支障はありません。ですが、この「万華鏡の柩 -漸篇-」を十二分に楽しみたいという方は是非過去作から順番にプレイする事をオススメします。過去作をプレイする事で、香山理穂子と紫藤直樹の関係をよく理解してから臨む事が出来るからです。本格ミステリー・個性豊かな登場人物達が織りなす人間関係・大正時代という舞台設定、その全てを楽しんでみて下さい。

 プレイ時間は私で5時間50分程度掛かりました。この作品はタイトルにあります通り前編となっております。それでもこのプレイ時間ですので読み応えたっぷりです。また前編と言っても選択肢は沢山あり、それに応じてエンディングも沢山用意しております。あからざまにバッドエンドに向かわせるものもあれば、ちょっと選択を迷う物もあり選びごたえがあると思います。是非全てのエンディングを見てエンディングリストを埋めて欲しいですね。今回も「ここで終わるのか〜!」という最高の引きを演出してくれました。「まさかあの人があんな死に方をするなんて!」って思いましたね。他にも、理穂子可愛いなと素直に思わせる場面も沢山ありました。八重さんもカッコイイなと、紫藤君流石だなと、是非皆さんにもその活躍ぶりを見守って欲しいですね。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<やはり事件は理穂子を起点に起きてしまいました。それでも、理穂子には女の子らしさを失って欲しくないと思いました。>

 最後までプレイして、素直に理穂子可愛いなと思いました。婚約者である遠野高志と上手にダンスを踊りたいから月明かりを頼りに1人ベランダでダンスの練習をする様子、夜会の途中足を痛めて1人寂しく別の部屋にいて紫藤君が来た予感がして声をかける様子、ちょっと涙が出そうになりました。理穂子は確かに天真爛漫で負けず嫌いですが、普通に年頃の女の子ですからね。そんな場面をたくさん見れて幸せでした。

 今回の事件はこれまでの事件とはアプローチが違っておりました。紫藤直樹に届いた一通の手紙、もうこの時点で犯人は分かっておりました。ですが、問題はこの犯人が未だに姿を出していないのです。裏でどのように手を引いているのか、誰かを操って事件を起こしているのか、それも良く分かりません。表向きには、羽角家の確執によって引き起こされた事件に思えました。羽角珠季の婚約者である西垣桃成の突然の死、誰の仕業が分かりませんがタイミング的に確実に西垣桃成を忌み嫌っている人物の仕業だと思いました。ですが、2人目の犠牲者を見てその確信が揺らぎました。何故なら、殺されたのは羽角家とは直接関係ない本郷寺夢子だったのですから。

 今作のタイトルになっている万華鏡の柩、それは羽角家を象徴するステンドグラスと羽角家に対する様々な噂を込めたものです。そのステンドグラスが割れる音が響き、空から落ちてきたのは本郷寺夢子、この瞬間万華鏡の柩は崩れてしまいました。羽角家の人物を本当の意味で信頼出来ておらず、屋敷にどこか閉塞的な雰囲気を感じる理穂子。それでも月明かりによって万華鏡の様に輝く景色を見せてくれるステンドグラスは密かにお気に入りで好きでした。そのステンドグラスが割れたのです。ここから事件は急転直下すること間違いありません。犯人の動機は何なのか、そもそも犯人は1人なのか、まだまだ真相解明には時間が掛かりそうです。

 非常に個人的な見解ですが、どうしてもあの仮面を被ったバイオリニストである岩北源治郎が気になるんですよね。そもそも怪しさ満点なのはミスリードっぽいですが、理穂子が「どこかで聞いた事がある声」と言っているのがどうにも引っかかるのです。岩北があの手紙を出したんじゃないの?って疑ってしまいます。だとしても、岩北が人を殺した証拠も動機もありません。西垣が塔から落ちた時、上に居たのは確かに女性のシルエットでしたからね。それすらも理穂子の目をカムフラージュする為の細工なのでしょうか。女中の若菜とか庭師の簑作は、違うと思うんですよね。それでも何かしら事情を抱えているのは間違いありません。ですけど、人を殺すような玉にはどうしても見えませんね。

 そして、またしても今回の事件の第一発見者は理穂子でした。過去作品のレビューでも書きましたけど、いつも理穂子を起点に事件は動くんですよね。たまたまベランダでダンスの練習をしていたら西垣が落ちるところを見てしまった。たまたま紫藤と2人でステンドグラスを見ていたら夢子が落ちるところを見てしまった。もしこれが、わざと理穂子を第一発見者にするために犯人が仕組んだとしたら、もう流石としか言えませんね。いや、過去の事件からみてももう理穂子はそういう役回りなんでしょうね。だからこそ、普通の女学生だったはずの理穂子が探偵助手として紫藤直樹を支えたいと思うようになったのかも知れません。

 天真爛漫な理穂子は勿論好きですが、冒頭描いた女の子らしい理穂子も好きです。私、あのベランダでダンスの練習をするシーンはBGMの効果も加わって至高の瞬間だと思っております。あの部分だけ切り取って何度も見続けたいとすら思いました。実際今もあの場面のBGMを聴きながらレビューを書いております。もう二度と、理穂子を悲しませたくはないと思いました。きっと、理穂子と紫藤君であれば解決できると信じております。遠野高志と八重さんもいますからね。後編でどのような真相が明らかになるか、非常に楽しみにしております。


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