M.M 蜉蝣


 この「蜉蝣」は先に発売された「蜉蝣-前編-」の続きとなっております。その為レビューには「蜉蝣-前編-」を含めたネタバレが含まれていますので、ネタバレを避けたい方は避難して下さい。

・「蜉蝣-前編-」のレビューはこちら

※このレビューにはネタバレしかありません。前作と本作の両方をプレイした方のみサポートしております。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。





















































































<自分自身の蜉蝣送りを実現し、それぞれの道を選択して前に進む事がきっと人生の幸福に繋がっていくのだと思いました>

 この「蜉蝣」と言う作品をプレイし終えて、果たして皆さんどのような感想を持つのでしょうか。この作品ほど人によって受け止め方が違ってくる作品はないのではないかと思っております。浮柚の決断は尊い、いや浮柚の死は無為だ、十波は悪だ、いや十波の考えが本質だ、征治は優しい人だ、いや征治は唯の優柔不断だ、いや征治は孤独で強い人だ。今ここで書いたことはこの作品の中でのほんのひと握りの要素でしかありません。主人公である征治、ヒロインである浮柚・アンジェリカ・結那、弥十郎を始めとした村の住人、そして十波と多くの人が自分の生き方や自分が歩くべき道について悩み考え抜いておりました。大切なことはどんな道でも自分で選択して歩むという事、そして選択する為に大切なことは自分自身の覚悟に加え自分を慕ってくれる人達の心に思いを馳せる事だと思っております。

 作品の中で大変強調されていた事に「全体の為に個を捨てるべき」という内容がありました。富国強兵の名のもとに国策で戦争への道に進んでいく明治後半という時代です。戦争を行うという事は相手がいるという事、そしてその相手に勝つためには兵力と人間が必要だという事です。誰もが戦争になんて行きたくないと思います。それは戦争を行えば必ず人が死ぬからです。ですが戦争で勝つために数は大切な要素です。その為、たとえ国のやり方に反対するものを切り捨ててでも全体としてまとまる事が求められておりました。十波が行ったことはこの思想を真っ直ぐに体現した事、そしてその十波の理念の原点になったのは征治の戦場での行動でした。

 私は正直十波の行動には感服しておりました。あるかも分からない鉄の為に1つの村人を全員皆殺しにする、戦争に反対するかも知れない人を自分の手で炙り出してそして自分の手で殺す。あそこまで非情になって国の為に動けるのはもはや人の所業ではないのかも知れませんが、あのまま十波の想いのまま事が進んで戦争に勝利すれば後の歴史は間違いなく十波を英雄と称えるのだと思います。そこに正しいも間違いもありませんでした。村人にしてみれば悪です。ですが国にしてみれば正義です。後はどちらに肩入れするかという事だけで、それを十波は迷いなく行動に移せたという事でした。

 しかし十波は1つ過ちを犯しておりました。それは自分の理想を否応なく相手に押し付けた事です。どちらのルートに進んでも十波は死んでしまいますが、その理由は十波の理想に反対するものの恨みが原因でした。勿論十波の理想を人に口で説明したからといって誰も賛同するとは思えません。何しろ人を殺すのですから。それが分かっていたから、十波は征治を始め極々少数の人間にしか話をせず強引に事を勧めたのだと思います。まあ、十波の理想が理想ですから始めからこの結末は避けられなかったのかも知れません。ですがここで大切なのは、自分の理想を行動に移すということは多かれ少なかれ周りの人に影響を与えるという事です。だからこそ周りの人の自分に対する気持ちを無下にしてはいけないのです。

 「第四章 柳」での征治は復讐に囚われて自分を心配する人の気持ちなんて一切頭の中に無く十波を追いかけてました。「第四章 水芭蕉」での征治は逆に浮柚の気持ちを推し量り生き残った人たちの気持ちを考えずに国の為に十波と手を組みました。どちらの道も修羅の道、征治は自分の心と体がボロボロになっていく事を分かっていながら走り続けました。ですが仮に征治が選んだ修羅の道を走り抜けた先には何が待っているのでしょうか。恐らく何も待っていないと思います。待っているのは唯の虚無感であり、誰も征治の事を祝福はしないのだろうと思います。戦場でコレラに感染した兵士を殺した征治に待っていたのは自分の行動に自問自答する日々でした。正しい事をしたのに自問自答しているのです。そして誰もそんな征治を褒めないのです。きっとこれが真実であり、上でも書きましたが正しいも間違いも絶対的なものはないのだと思います。

 自分の信念を貫き通す事は難しいことであり尊い事だと思います。ですがその信念が正しいのか間違いなのかは誰にも分かりません。だから私はこう思うのです、自分の周りの人が不幸になるような信念は間違いであると。人一人の行動には限界があります。所詮自分とその周りにいる数人の人にしか影響は与えません。だから、そんな掛け替えのない自分の周りの人が幸せになれるような気持ちこそが尊いのだと思います。「終章 彼岸花」で征治は最後まで自分の信念の通りに行動しました。ですが戦場に行く汽車の中で思い描いていた事はこれまで征治が出会って来た人達の笑顔でした。この時ようやく征治は気が付きました、この人達の笑顔を守る事が自分の本当の信念なんだと。「終章 散菊」での征治はまた愛しい人達の下を離れて十波と決着をつけに行きました。結果征治は死にませんでしたが、これで死んでいたら残された人はどうやって生きていけば良いのでしょう。征治に死なれたくないから、浮柚は1人山に向かいました。そして征治は足を怪我しましたが最終的には愛しい人に囲まれる日常に帰ってきました。

 どちらのルートへ進んでも多くの人が死んでしまいました。その悲しみは決して消えることはなく、生き残った人達はその想いを抱えなければいけません。ですがそれは悲しみにくれるだけではなく前に進むという事。そしてその気持ちは自分と自分の周りの人を幸せにし新しい自分の信念として蘇るのだと思います。蜉蝣送りとは「全体の為に個を捨てる」事ではなく「自分を慕う人の為に個を大切にする」事だと思います。自分自身の蜉蝣送りを実現し、それぞれの道を選択して前に進む事がきっと人生の幸福に繋がっていくのかなと思っております。

 そろそろ閉めようと思います。水彩画のような美しい人物描写の中で描かれる物語は大変丁寧であり明治という時代を視覚的・聴覚的に感じる事が出来ました。そしてそんな美しい世界で表現していたものは誰もが向き合わなければ人生観。自分の人生の中で何を大切にし何を捨てなければいけないのか、そんな命題に対する答えを見つけたような気がしました。本当であればヒロインである浮柚・アンジェリカ・結那の気持ちに寄り添った文章も書くべきだったのかも知れませんが、それはプレイヤー1人1人に想うところがあると思いますのでここでは割愛します。本質的に彼女たちは強いですので私が心配しなくても大丈夫ですね。女の子よりもよっぽど男の方がブレます。そしてブレる事こそが魅力であり、悩んだ末の結果だからこそこれ程までにプレイヤーの心に残るのだと思います。このシナリオを完成させた鴨mileさんが描きたかった蜉蝣という名の「蜉蝣送り」、それを心に刻む事でレビューの終了としたいと思います。ありがとうございました。


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