M.M 蜉蝣-前編-


<丁寧で的確な日本語で誤解の無いよう事象をプレイヤーに伝える良質な伝奇ミステリー>

 この「蜉蝣-前編-」は、同人サークル「鴨mile」で制作されたサウンドノベルです。C83で同人ゲームサークルを回っている時に初めて知ったサークルでして、歴史物のミステリーであり伝奇物を髣髴とさせるようなあらすじに興味を持ったことが購入した切っ掛けでした。感想ですが、伝奇物であり正統派のミステリーである事よりもむしろ丁寧な日本語で表現される人物の見せ方が素晴らしいと思った作品でした。

 公式HPをご覧になれば分かりますが、この作品の舞台は明治時代です。江戸時代という武士が刀を持っていた時代が終わり、明治時代という文明開化で世の中が大きく変貌していた時代です。そんな時代にもかかわらず未だに古い時代のままのスタイルで生活している禁則の村があり、主人公はその村に対して明治時代の一員になるよう働きかける事から物語が始まります。そしてその村はただ世間との交流を絶っている訳ではなく、昔からの伝承により人々から怖れられている設定があります。これだけでこの物語が一筋縄ではいかず、主人公の奮闘や村や伝承の真実を巡る物語になる事が想像できると思います。

 実際にプレイし終えて伝奇物としてもミステリーとしても非常に良質なものでした。主人公視点で1つ1つの疑問を解決していき、また禁則の村に対しても少しずつアプローチしていき徐々に物語の謎を紐解いていきます。この作品の良いところは、駆け足ではなく1つ1つの事象を丁寧に説明しながら物語を進めていくところですね。登場人物のパーソナリティ、伝承の謎、それらの要素をプレイヤーの方はしっかりと把握しながら物語を進めて行く事が出来ると思っています。また登場人物の心理描写や周りの状況の緊迫さなどを行間の広さを使う事でも演出しており、事象の把握にプラスして雰囲気の把握も出来るよう拘っております。

 そしてこの作品で一番注目するべきところはやはり丁寧な日本語にあると思っております。駆け足ではなく丁寧に物語が進んでいくと書きましたが、これはただ淡々と事象を書き並べているという事ではありません。その時その時の主人公の気持ちや周りの状況などを直喩や暗喩を巧みに用い、加えて的確な単語で表現していますので誤解なくプレイヤーに伝わるのです。この的確な単語という点が本当に素晴らしく、シナリオライターの方の語彙の豊富さを感じる事が出来るかと思います。丁寧な日本語であり正しく的確な日本語を使う事で、より作品に対する理解を明確にしているのだと思っております。

 今回のディスクはまだ「前編」ですので物語は完結しません。この物語に対する1つの区切りがつくところまでちゃんと前編で描いているのですが、最後の最後に後編に対する大事な伏線を残すというにくい演出をしております。こういう事をされるともう後編がプレイしたくてたまらないですね。プレイ時間は私で5時間といったところでしたが、正直気が付けば5時間経過していたという感じで文章にのめり込んでしまいあっという間の印象でした。あらすじの内容に興味を持った方は確実に期待を裏切らないと思いますし、伝奇物やミステリーを普段読まない方でも満足できる内容になっていると思います。現在即売会でしか入手できませんが、入手できる機会があれば是非手に取って頂きたいですね。そんな作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<謎が解けていく快感と主人公の気持ちが定まっていく快感が見事に調和していました>

 先が気になる展開で純粋に物語に引き込まれましたね。迷信めいた伝承に感化されながらも事実を丁寧に繋いでいこうとする主人公、合わせて自分の過去と向き合い本当の居場所を見出そうとする姿に感動しました。最終的には全ての迷信は鉄を作る事による繁栄と衰退を示しており、本当の意味で呪いというものは無かったんですね。そしてそれら全ての迷信を解き明かし、それを踏まえて村の人間として留まる事を決意した主人公の心意気が良かったですね。最後まで飽きる事無くテキストを読む事が出来ました。

 この物語の核になるのは間違いなく主人公を始めとした登場人物同士の心の触れ合いになると思います。カラッポの主人公が七条巌の指示で織部玖郎の下に入り村を明治政府の管轄に置くという仕事を貰った時は、唯々その仕事を完遂する事のみ頭の中にあり村の人とどう心を通わせようとか自分の気持ちはどうなんだろうといった事は考えてなかったのではないかと思います。そしてそれは村の住人も同じでした。伝承に縛られて外から来た人に対して心を開くことなく、唯々疫病をもたらす存在として忌み嫌っていました。そんな交わる事の無い両者でしたが、切り開いたのはコレラに感染した子供と主人公の心の中にあった幸せな社会を作りたいという想いでした。その想いが村の人の心に響き、子供が治る事でようやく心が交わるようになりました。この段階で既に主人公には織部玖郎からの仕事について完遂しようという気持ちは無くなっていたのかも知れませんね。

 そして村の人が幸せになる為に主人公が動いた事はやはり村と街が再び交流する事でした。その為には村と街に伝わる蛇の伝承がネックになっており、これを解明する事が全ての解決に繋がると信じで行動を始める事になります。合わせて浮柚や結那と触れ合う事で村での伝承の重みを思い知らされますが、それ以上に浮柚や結那の苦悩や願望を叶えてあげたいという気持ちが強かったのでしょうね。後半では禁忌やタブーとされている事まで行い何としても村の為に伝承の謎を解き明かそうとしていました。そしてアンジェリカや十波や探偵の力を借り全ての謎を解き明かした主人公は、そのまま村に留まり主人公らしく村を幸せにするよう行動するのだと思いますね。

 という訳で物語全体にあるのは主人公の心の変化と腰を落ち着ける場所を探すという事でした。過去に出来なかった全ての人を幸せにするという志、たとえそれが全ての人ではなく小さな村1つだとしても、自分の志の達成になるのであれば自分の何を捨てても達成しようと奮闘するのでしょうね。そしてそれが主人公が本当にやりたかった事であり、主人公が腰を落ち着ける場所を探すという事だったのだと思います。合わせてこれは村と街に伝わる伝承を解明していく物語でもあります。プレイヤーとしてはこの謎の解明の方が興味をそそられるという人もいたと思いますが、こちらも主人公の足で稼ぐ調査で解明されていき満足のいくシナリオ展開であったのではないかと思います。伝承の様な超常的な現象は無く、あくまで人の手による繁栄と衰退が原因であったという点もこの物語らしいですね。

 という訳で謎解きとしても見所があり主人公の心情の変化を追うとしても見所があり、全体として良くまとまった物語だと思いました。両者のバランスが良くどんどん物語が進んでいく快感が最後まで一気に読む原動力になったのではないかと思っております。そして村の謎が解け主人公の心は定まって最後の最後で十波が動きましたね。後編は十波が何を考えているのか、最終的に村がどのような決断をするのかという点が焦点になりそうですね。楽しみにしましょう。


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