M.M 華焔櫻 -昿篇-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 7 - 83 7〜9 2016/11/16
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 この「華焔櫻 -昿篇-」は前作である「華焔櫻 -漸篇-」の続編となっております。その為レビューには「華焔櫻 -漸篇-」を含めたネタバレが含まれていますので、ネタバレを避けたい方は避難して下さい。

「華焔櫻 -漸篇-」のレビューはこちら

※このレビューにはネタバレしかありません。前作と本作の両方をプレイした方のみサポートしております。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。





















































































<真相を知ることを恐れないこと、それが探偵として最も大切な事なのかも知れません。>


「事件に探偵を呼び込むのが、助手の仕事ですもの!」


 とても力強い言葉ですね。ここまで理穂子は頼れる存在になっていたんですね。そしてそれ以上に探偵助手という仕事に誇りを持てるようになったんですね。この華焔櫻をプレイして一番うれしかったのは理穂子の成長した姿を見れた事でした。天真爛漫で正義感溢れる明るい性格は変わらず、それに加えて真相を知りたいと思う気持ちが芽生えた理穂子はもう立派な探偵助手だと思いましたね。

 大正浪漫ミステリーシリーズもこれで3作目になります。どの事件も凄惨な殺人現場と難解なものばかりでしたが、今作はこれまでの事件の中でも一際難しいものでした。毒殺し更に顔を潰すという殺しの残虐性と桜の木を燃やすという大よそ日本人としてありえない手口、そして盗難や新たな殺人と連鎖的に発生する事件にどこを目指せばいいか困惑するばかりでした。何よりも探偵紫藤直樹は風邪をこじらせて入院中でした。事件を解き明かす唯一の存在が絶不調であり、いよいよ迷宮入りするのかとすら思いました。ですがそんな紫藤直樹を支えたのが本作の主人公であり探偵助手の香山理穂子です。この事件は香山理穂子が探偵助手としてデビューした初めての事件であり、理穂子がいなければ解決できないものでした。

 今回の事件の特徴として凄惨な殺人現場が挙げられますが、もう一つの特徴としては全ての殺人現場を理穂子が早い段階で目撃しているという事です。由梨江さんとお菊さんの殺人現場の第一発見者は理穂子であり、燃える桜の熱さを肌で感じや黄燐に苦しむ声を聞いたのも理穂子です。いつの間にか自分自身が事件の中心におりました。そのことに気がついたとき、理穂子は本当の意味で恐怖を覚えました。そりゃ泣きますよね。理穂子が17歳の女学生という事を差し引いでも怖いと思うと思います。今回理穂子が初めて知ったのは、死の現場は簡単に忘れる事などできないという事です。何度も何度も酷い殺人現場を思い出してしまうのです。そんな苦しい思いをしてまで探偵助手をする必要があるのでしょうか?それこそ紫藤直樹に全部丸投げすればいいのではないでしょうか?そんな問いに対して理穂子は答えました。

「私、忘れたりはしません。」

と。探偵は真相を明らかにする仕事。たとえその真相が最悪の結末だったとしても、それが現実なのです。理穂子は紫藤直樹と共に幾つかの事件を経験してそのことに気づいていたんですね。自分がどんなに辛くても見えない殺人犯に恐怖してももう無視する事は出来ない。むしろそんな恐怖に立ち向かいそれに打ち勝ってこそ探偵です。まだまだ知識も技術も足りない理穂子ですが、心持ちは十分に探偵だと思います。そんな理穂子の性格だからこそ紫藤直樹も探偵助手を安心して任せられるんだと思います。作中でも紫藤直樹と香山理穂子は合わせて1つと言ってました。お互いの足りないところを綺麗に補えるんですから。真相を知ることを恐れないこと、それが探偵として最も大切な事なのかも知れません。

 そして今回の事件も複雑な人間模様が引き起こした悲劇でした。自分は空っぽだと言っていた高柳満。自分の価値や性別など人が持つ当たり前の感情や存在意義すら否定された半生をもつ彼女にとって、人を殺すという事もそんなに特別ではなかったのだと思います。ですが、そもそも殺人を犯そうと思った切っ掛けは「嫉妬」という実に人間らしい感情からでした。満はきっと家族みんなで過ごす当たり前の生活を望んでいたんですね。自分という存在を否定された満、そんな自分の気持ちの置き場はどこにもなくただドクとして溢れ出るだけでした。唯一受け止められるのは双子の咲良のみ。何故この2人が一緒に過ごす未来が無かったのかと悔しく思いました。

 今回私は一発で犯人がわかりました。というよりも消去法でもう満しかいないと思いました。凄惨な殺人事件が続く中でいつまでも冷静に且つ淡々と過ごしていたのは満だけでした。被害者である4人の人間関係を線で結んだ時に唯一交わるのは満だけでした。最後、咲良と心中した紅坂謙吾という男が犯人だと聞いてより満が犯人だと確信しました。顔を潰すという行為、桜を燃やすという行為、殺人以上に恨み辛みがこもった行為が出来るのは満しかいないと思いました。彼女の人形としての半生と、それでも家族みんなと当たり前のように過ごしたいという思いは、華焔櫻と共に天に昇ったのだと思っております。ありがとうございました。


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