M.M INDELIBLE SCAR




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 7 5 74 2〜3 2017/11/11
作品ページ サークルページ
フリーゲーム夢現



<彼女たちの復讐心の原点に何があるのかを探りながら、死が身近にある雰囲気を堪能して欲しいですね。>

 この「INDELIBLE SCAR」はフリーゲームを制作されている「紡唄-tsumugiuta-」で制作されたビジュアルノベルです。紡唄-tsumugiuta-さんの作品をプレイしたのは今作が初めてであり、また今作を知るまでサークルさんも知得しておりませんでした。切っ掛けは少し前に「ナイト・メアリー」という作品をプレイしレビューを書かせて頂いた事です(ナイト・メアリーのレビューはこちらからどうぞ)。私はレビューを公開する時は同時にTwitterでも告知するのですが、そのツイートをいいねして頂いたのが紡唄-tsumugiuta-さんの管理人であるりゆ氏でした。お話を聞いてフリーゲームを制作されているという事で、鉄は熱いうちに打てという事で早速「INDELIBLE SCAR」の方をダウンロードさせて頂きプレイさせて頂きました。

 この作品の世界にはマーカーと呼ばれる普通の人とは違う特徴を持った人間がいます。その特徴とは、普通の人間には使えない特殊な能力を持っている事です。ある人は他人の心を読めたり、ある人は炎や水を操ったり、まるで魔法のような能力です。そんな特殊な能力、持ってない人から見れば驚異にしか思えません。その為マーカーの人たちは酷く差別され、見つかったら死刑が確定しております。全人口の約8%しかいないという割合も差別を助長する理由であり、マーカーの人たちはその能力を隠しながらひっそりと生きております。この作品は、そんなマーカーの人たちが受けた差別や苦しみから解放されたいという復讐心が原点となっております。

 主人公であるりん(名前変更可)もまたマーカーでした。彼女も過去に凄惨な出来事にあってしまい、住む家も大切な家族も失ってしまいました。そんなりんに手を差し伸べてくれたのは霧雨という男性でした。彼もまたマーカーでした。霧雨は暗殺集団であるrejectを結成しており、そこには沢山のマーカーの人たちが所属しておりました。ですが政府や行政の手が伸び次第にその数を減らしていき、今では主人公含め5人しか残っておりませんでした。りん・霧雨・クロ・ライ・ユキの5人による復讐劇はまだまだ終わっておりません。彼女らが何に対して復讐しているのか、復讐の先には何が待っているのか、死が身近にある彼女らの物語がここから始まります。

 タイトルの「INDELIBLE SCAR」は、直訳すれば「消えない傷痕」です。ここで言っている傷痕とは、恐らくは外観的なものだけではないのだと想像できます。体に負った傷よりも、むしろ心に負った傷の方が消えず燻り残るというものです。それは彼女らマーカーが歩んだ歴史とそこから生まれた復讐心が証明しております。他人を殺したい、その気持ちを継続して持つ事は日常生活ではそうあるものではありません。殺したい程憎い人がいたとしても、実際にそれで殺しに走らず折り合いをつけて生活しているのが現代社会です。だからこそ彼女らマーカーの気持ちは一際強く、口先だけで止める事は出来ないのです。まずは彼女らの過去に何があったのか、復讐心の原点に何があるのかを掴んでみては如何でしょうか。

 最大の魅力はやはり登場人物の心理描写ですね。主人公であるりんは復讐心を抱えつつも普通に恋する乙女であり、人目を憚らず自分を拾ってくれた霧雨に対して好意を隠そうとしません。そしてそんな霧雨を始め、クロ・ライ・ユキは皆性格も雰囲気も様々です。この作品は乙女ゲームですので最終的には何らかの形でりんと誰かの男の子が結ばれる事になります。始めから霧雨が好きなりんがどのように他の男の子と関係を築くのか、また他の男の子もどのようにりんにアプローチしていくのか是非見届けてみて下さい。また、そんな彼女らの活躍は枚数の多いスチルで表現しております。この作品、スチルが登場する頻度が非常に大きいです。要の場面は勿論、それ以外の様々な場面で彼女らの表情を伺う事が出来ます。それだけ彼女らの心理描写を重要に捉え表現しようとしている事が伝わりました。

 プレイ時間は私で2時間20分くらいでした。共通ルートで30分、個別ルートで30分という感じです。この作品のエンディング数は4つですが、始めは特定のルートにしか行くことが出来ません。それはシナリオ上のネタバレを配慮したものであり、攻略した男の子が増えれば増えるほど深く深く潜っていきます。まずは気になった男の子にまっすぐ進んでみれば良いと思います。また、この作品は共通ルートをバッサリと飛ばす事が出来ます。同じ文章を読むのが面倒な方にはありがたい仕様です。他にも痒いところに手が届くシステムであり、プレイヤーの事を考えて作られている事が伺えました。全体的に暗い雰囲気の中にも笑いあり涙あり熱さありで、良い読後感でした。楽しかったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<互いを愛しても暗殺稼業は辞めない、この決意の表れが素直にかっこよかったです。>

 私、正直プレイ前は勝手に「始めは復讐心を持っていたけどどうせ男女で結ばれてそのまま足を洗ってハッピーエンドになるシナリオなんだろうな〜」って思ってました。だからこそ、最後まで復讐心を忘れず暗殺稼業を辞めないエンディングに素直に感心しました。愛する人と一緒にいる事は勿論幸せな事ですが、それ以上にマーカーとしての業の深さも無視できない、このリアルさが好印象でした。

 りんを始め、全ての登場人物が自分の過去を話そうとしませんでした。マーカーにとって過去を話すという事は自分が過去に経験したトラウマを掘り返し復讐心の原点を曝け出すという事です。それは同時に相手に弱みを見せるという事ですので、絶対に信頼できる人でなければ話せません。ですが、彼女らは既に絶対に信頼できる存在を奪われているのです。何が言いたいのかと言いますと、彼女らが自分の過去を告白する事がエンディングを迎える為に必須であるという事です。

 白夜は父親がマーカーでした。その為当然自分もマーカーであり、それが発症した事で両親から捨てられました。そして孤児院に行っても辛辣ないじめが繰り返され、その反動で施設の職員を殺してしまいました。ですが、施設の職員によるいじめは孤児院の子供全員に対してであり、白夜1人に対してではありませんでした。子供達にとって英雄的行動のはずです。それが一転、味方のはずの子供たちからも忌み嫌われました。そのトラウマはとても大きいものであり、無意識に子供を避けておりました。そんな赤裸々な気持ちを一番感じたのは「頼むから、汚れた俺を見ないで」と教会の子供たちに訴えた時ですね。ひと時でも楽しい時間を過ごせた白夜、それでも殺人の業から逃げる事は出来ません。それを自覚する事で、少しでも前向きな気持ちになれたのだと思います。愛するりんと共に暗殺稼業は続けるのでしょう。それでも、過去を告白しトラウマと向き合った白夜に怖いものは無いのかも知れません。

 ライは両親がマーカーではありませんでした。ですがライはマーカーでした。ライがマーカーと知れたら自分たちの地位は落ちてしまう、そんな身勝手な理由でライを地下牢に閉じ込めました。それでも最愛の母がずっと気遣っており愛情を注いでくれました。そんな母親が殺されたのです、絶望し暴走する気持ちはよく分かりました。結果自分の周りに何もなくなってしまいました。「俺はバケモノだ」、このセリフにライの悔しさと哀愁を感じてしまいます。それでも持ち前の明るさで振る舞い、rejectのムードメーカー的な立ち位置にいたのは立派だと思いました。そして人並みに恋する男子でした。陽炎にヤキモチを焼くなんて、マーカー関係なしに普通の人間ですね。母親から愛されたライはその愛情をりんにも与えたい、そんな事を思ったのかも知れません。

 そして最後に攻略出来た霧雨ですが、まさかこいつがりんの復讐相手だったとは思いませんでした。薄々怪しいなとは思ってましたが、ここまで直接的だとは思いませんでした。霧雨が明らかにした過去、それはりんとの初めての出会いでした。彼女の右脇腹に付けられた「INDELIBLE SCAR」、そして自分の復讐心の原点となった「INDELIBLE SCAR」、りんの人生において霧雨は何が何でも切り離せない存在でした。霧雨シナリオだけ2ルートありました。それは霧雨が死ぬルートと生きるルートです。どちらに転んでも、りんは自分の体についている「INDELIBLE SCAR」を忘れませんでした。というよりも、りんはどうしようもなく霧雨が好きでしたね。「馬鹿だけど、好きなんだから仕方がない」と自分でも言ってますからね。良くも悪くも強い感情は愛情に昇華する、これぞ乙女ゲームの真骨頂ですね。

 という訳で3者3様のエンディングでしたが、共通していたのは暗殺稼業を続けているという事とお互いを愛しているという事でした。以前は唯の復讐心で行っていた暗殺ですが、今はそれだけではなくマーカーとしての使命感と自分達の安息を探す事も理由に加わっていると思います。1人ではなく2人で行う、それだけで心持ちは全然違うと思います。私にとって印象的な場面は、彼らが抱き合い愛を囁く場面よりも殺しを続けていくと決意した場面でした。白夜シナリオであれば教会の子供に「俺たちの事は忘れろ」と言った場面、ライシナリオであれば陽炎にサヨナラした場面、霧雨シナリオであれば「貴方が育てた私で、貴方に勝つ!!!」と言った場面です。相手を愛して、それでも暗殺稼業を辞めない、かっこよかったです。そんな人間の弱さと強さの両方を見る事が出来たシナリオでした。ありがとうございました。


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