M.M ナイト・メアリー




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 5 6 73 3〜4 2017/11/3
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<心に闇を抱えた主人公、それを溶かすのは主人公以上に癖のある5人のヒーロー達でした。>

 この「ナイト・メアリー」はフリーゲームを制作されている「塩路ハル氏」が制作されたビジュアルノベルです。今回塩路ハルさんの作品をプレイする切っ掛けになったのは、同じくフリーゲームを制作されているcrAsm(公式HPはこちらからどうぞ)の倉下さんがプレイされていた事です。ここ1年ですが、倉下さん始めフリーゲームを制作されている方々の作品に触れる機会に恵まれております。普段の私は即売会で入手したパッケージのタイトルをプレイするのが殆どであり、フリーゲームは殆ど縁がありませんでした。ですが、それは同時にビジュアルノベルの幅を広げるチャンスでもありました。おすすめのフリーゲームをプレイしたいならフリーゲームに長く携わっている方の真似をするのが王道というものです。そんなご縁で、今回「ナイト・メアリー」の方をダウンロードさせて頂きプレイさせて頂きました。

 舞台は日本ではないどこか遠い異国のとある街です。そこは強盗殺人が頻繁に起こり一部の裕福な家系の者が街を牛耳っている殺伐とした世界でした。そんな秩序のない街で、ある事件が起こっておりました。それは7日に1人必ず悪人が殺されるというものです。夢も希望もない時代です。そんな時代だからこそ、街の人はこの殺人鬼に恐れを抱くだけではなく密かに憧れも抱いておりました。名前も知らない殺人鬼、いつしか彼女は「ナイト・メアリー」と呼ばれるようになり、暗い時代の中で一際輝いていたのです。ナイト・メアリーの正体は残酷な殺人鬼なのでしょうか?いいえそんな事はありませんでした。その正体はどこにでもいる普通の女の子。そんな彼女の視点に立ち、殺人に手を染める理由と救う方法を探しに行きましょう。

 この作品は長編ダークファンタジー乙女ゲームとなっております。主人公はとある理由で殺人をしなければいけない女の子であり、そんな彼女が5人のヒーローと出会うところから物語が動いていきます。殺人を犯さなければいけない重い事情を抱えている主人公です。そんな主人公ですので、攻略するヒーローもみな一癖も二癖もあるキャラクターばかりであり必ずやお気に入りのキャラクターが見つかる事と思います。深い闇を抱えた主人公を様々な角度から救い出そうとするヒーロー達はみな魅力的であり、男の私ですら惚れ惚れしてしまう程でした。勿論単純な恋愛シミュレーションではなくお互いの心を垣間見るシナリオも待っており、純粋なハッピーエンドではないかも知れません。むしろ純粋なハッピーエンドではないからこそ印象に残り、物語としての読後感の良さになると思います。

 その他の特徴ですが、男の子全員に声があります。全てに声があるわけではなく共通パートの部分だけですが、それぞれのキャラクターの印象通りの声で親近感が湧きますね。そしてどの段階で各キャラクターのルートに入ったのか一目で分かるようになっております。選択肢の数も決して多くはなく、分岐に迷う事は無いと思います。1つ注意点なのは、ヒーローの1人であるマキを攻略した状態でゲームを閉じないと他のキャラクターに上手く分岐しないバグがあるみたいです。解決するには一旦ゲームを終了して再起動するだけですが、連続してプレイする場合はお気をつけて(こちらの情報は倉下さんから教えて頂きました。ありがとうございます。)。

 プレイ時間は私で3時間30分くらいでした。共通パートが15分くらいで、それぞれのキャラクター個別ルートで40分といったところでしょうか。この作品のもう1つの特徴としまして全てのキャラクターが何らかの形で関わりがある点があります。つまり、1人のキャラクターを攻略すると割と他のキャラクターの正体や関係性が見えてしまうという事です。公式HPの方でも注意しておりますが、とりわけルチアーノについてはかなりのネタバレになりますので初めに攻略するとその後の楽しみが損なわれるかも知れません。まあ、遅かれ早かれ全員の関係性は分かる事になりますのでそこまで神経質になる必要もないかもですね。一番は自分が気に入ったキャラクターを攻略する事です。どのように主人公とヒーローが心を通わせていくのが、是非自分の事のように読んでみて下さい。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<覚悟を持って一歩前に進む。例え普通の幸せが手に入らないと分かっていても。>

 最後までプレイして、最終的に大きな決断をしたのはパメラというよりもそれぞれのヒーロー達の様に思えました。人殺しの業を背負っているパメラ、それならば自分が代わりのその業を背負おう、そんな男の子らしいカッコよさが光るシナリオでした。そして全てのシナリオに関わってくる弟のアルト、彼にとっての決断は全て自らの命を掛けたものとなりました。今作の中で私はこのアルトに一番の傾倒を持ってネタバレ有りのレビューとさせて頂きたいと思います。

 全ての始まりは、ルチアーノがアルトに呪いをかけた事でした。その呪いとは「パメラは7日に1人殺さないとアルトが消えてしまう」「アルトが消えたらパメラはアルトの事を忘れてしまう」です。そしてルチアーノの呪いには1つの制約がありました。それは「願いを叶える代わりに代償として罪を与える」というものでした。私は正直、初めてこの呪いの内容を聞いたときに「どこが等価交換なの?」と思ってしまいました。アルトの願いはパメラがアルトの事を忘れる事です。自分が消えるだけではなく存在まで忘れられてしまう、一般的にこれ程悲しい事があるでしょうか。加えて、その願いの代償がパメラを殺人鬼にする事です。願いも呪いもどちらもアルトとパメラを苦しめるものである、始めはそう思ってしまいました。

 ですが、読み解いていく中で2人の事情は外野が簡単に言葉にしてはいけない事が分かってきました。両親の愛情に恵まれないどころか疎まれて育ったパメラ。アルトという存在はそんな憎き両親の象徴であり、いるだけでパメラを不幸にするものでした。もっとも、そう思っていたのはアルトだけでしたね。パメラはアルトに救われてました。憎き母親と名前も顔も知らない父親の子供だ、なんて関係ありませんでした。本当にパメラはアルトの為であれば自分のことなんてどうなってもいい、そう思ってました。こんなにも相手の事を思っている2人。一番の不幸は、その2人の気持ちがまるでかけ違えたボタンのようにズレてしまった事かも知れません。

 今回私が一番初めにエンディングにたどり着いたのはたまたまマキでした。つまり、この時点で私はアルトに課せられた運命を知ってしまいました。この段階で私は、最後に攻略するのはアルトにしようと決めておりました。唯一パメラの殺しの運命の原点になっているアルト、彼とのハッピーエンドとはどのようなものかを最後に取っておきたくなったのです。そうして迎えたアルトのハッピーエンド、それは幼さも甘さも全て捨てて冷酷に殺人を犯すアルトの姿でした。それでもこのエンディングがハッピーなのは、そんな鋭いアルトの姿をパメラは見なくて済むからだと思いました。

 臓器が弱り目が見えなくなったパメラ。それでも幸せだと心から思っているのは、自分が殺しをしなくてもアルトが死なないという事とアルトと慎ましくも一緒に入れる生活を手に入れたからでした。ですがそれすらも嘘で塗り固められた幸せ、実際はアルトがパメラの殺人を引き継いだだけでした。思うに、きっとパメラもその事に気づいていると思います。それでも愛する人が自分を犠牲にして戦っている、その気持ちは他でもないパメラが一番理解しているはずです。そしてアルトもまたパメラが自分が殺人を続けている事に気づいていると気づいていると思います。それでも殺人をやめない、この幸せを続けていく。この覚悟こそがアルトの立派なところだと思いました。

 他のヒーローとパメラの幸せを考えて自分の命を捨てる事も立派な覚悟、パメラとの一生を続けていく為に殺しを続けていく事も立派な覚悟、この作品において覚悟という言葉を切り離す事は出来ませんね。他のヒーローもパメラの深い闇を抱え込む覚悟を持っておりました。それでも、呪いの当事者であるアルトの覚悟が一番深い気がしました。この作品は、ヒーロー達の覚悟を読み解く視点で読むか、いわゆる乙女ゲームとして読むかでも全く印象が変わると思います。私は作品のテーマを紐解く事を生業としておりますのでもちろん前者で読ませて頂きました(本当ですよ!)。唯の乙女ゲームではない、ヒーロー達の覚悟の重さを感じる事ができたシナリオでした。ありがとうございました。


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