M.M 地球トつくもの - Earth's last summer -




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 5 6 83 9〜11 2018/2/9
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)


体験版
エロゲと饗



<キャラクターの魅力を十二分に活かしたCG・スチル・効果音などの演出を堪能して下さい。>

 この「地球トつくもの - Earth's last summer -」という作品は、同心サークルである「M-Arms」で制作されたビジュアルノベルです。「M-Arms」さんと出会ったのは、実は一年ちょい前に開催されたC91の時でした。サークルさんは違いますが、かつて「ism studio」さんの「現実浸蝕サモンファンタズム」という作品をプレイしレビューを書かせて頂きました(レビューはこちらからどうぞ)。超個性的な登場人物と熱いバトル展開が印象的で、とても力のある作品だなと記憶に残っておりました。そんな「現実浸蝕サモンファンタズム」のシナリオを担当された真岸無道氏が同じくシナリオを担当されたのが、今回レビューしている「地球トつくもの - Earth's last summer -」です。販売形態はDLカードという事で情報は少なめでしたが、夕焼けに染まる校舎の中のような場所で思い思いの表情で佇む少女たちの姿、何よりも「地球トつくもの」という終末感漂うタイトルが気になっておりました。C91から暫くは完全版が出るまで静観しておりましたが、いよいよ完成したという事で忘れる前にプレイする事にしました。

 舞台は今よりも遥かに時代も文明も進んだ未来の地球です。この地球では大きな大戦が起こり、多くの人間が死んでしまいました。そして殆どが人の住めない土地となってしまいました。いよいよ人類は地球を離れ、新天地を求めて宇宙へと旅立つ決意を固めました。主人公である名護里恭司は、そんな地球に暮らす新米の教師です。幼少時代にとある事故で大怪我を負い、それが切っ掛けで彼の心臓は人工心臓となっております。幼少の記憶も失ってしまいましたが、恭司が担当しているクラスの教え子であり幼馴染である宙果希美などたくさんの人に支えられて今日まで生きてきました。いよいよ恭司達も宇宙へ旅立つ時が来ました。ですが、その時突然恭司の頭に懐かしい景色が浮かんできたのです。それはかつて通っていた小学校、そしてそこで出会った1人の少女の姿でした。地球を離れる前の、恭司にとっての地球最後の旅が幕を開けるのです。

 この作品は地球最後の時を切り取った終末感あふれる設定となっております。ですが、作品の雰囲気はむしろそんな寂しさを感じさせない明るいものとなっております。まずは登場人物達がみんなとても元気です。この作品にはヒロインが3人いるのですが、どの子も明るい性格で場を盛り上げてくれます。個人的には香野つぐもと宙果希美の掛け合いがとても好きですね。この2人、顔を合わせれば毎回喧嘩してるんです。いつも口喧嘩ばかりしていてそれがどんどんヒートアップしていきます。その掛け合いが楽しくて楽しくて、むしろもっとやれと思ってしまいました。他にもサブキャラクターがとても個性的です。頭の悪い男キャラクターに元気のあるおばあちゃん、この辺は「現実浸蝕サモンファンタズム」にも通じるものがありますね。とにかくキャラクターの勢いが作品の雰囲気を作っております。

 そしてこの作品は基本CGで作られております。「立ち絵」というよりももはや「立ちCG」ですね。表情も手足の動きもヌルヌルです。それがキャラクターの感情を表現しておりダイレクトに伝わりました。個人的には香野つぐもが怒ったときに両手を「グルン!」と回して握りこぶしを作る動作が、彼女の少女性と元気の良さを表現していてとても好きです。それでもイベントシーンは水彩画のようなスチルであり、ヒロイン達の艶やかさを演出しております。今更ですがこの作品はR-18です。エッチシーンを始め、そうした重要な場面はスチルを採用したのはその方がキャラクターが映えるのだろうと判断しての事だと思います。自分もそう思いました。是非様々な方面からキャラクターを楽しんで下さい。

 その他の点としましては、効果音が強調されております。驚きの場面、悲しみの場面などで大袈裟なくらいに効果音が鳴り響き、テキストをサポートしております。その多さは既読スキップした時に最も良く分かると思います。とにかく鳴りっぱなし、よくもまあ丁寧にスクリプトを打ったものだと驚いております。それに対してBGMはやや控えめに思いました。これは決してBGMが聞こえないという意味ではありません。効果音と比較して相対的にBGMが大人しいという意味です。オープニング曲のメロディをベースにしたアレンジ曲を多く使用しており、この作品のメインテーマを大切にしている様子が伝わりました。

 プレイ時間は私で10時間20分程度でした。この作品には選択肢があり、エンディングはメインで4つ存在します。同人ビジュアルノベルで10時間というのは比較的長いです。ですがそんな長さを感じさせないキャラクターの魅力があります。またバッドエンドも沢山存在しますが、その度にヒントをくれますので是非それを参考にしながら全てのエンディングを見て欲しいですね。1つ注意点ですが、上記の通り動きがあり効果音が抱負という事で、既読スキップを続けているとメモリが増えて止まってしまう場合があります。出来るだけ他のアプリは停止してプレイする、または定期的にセーブして再起動するなどの対策が必要でした。何れにしても、どのエンディングも登場人物達がしっかりと決意し覚悟したものとなっております。唯のドタバタコメディではない、芯の通ったシナリオを読み切って下さい。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<この作品を根底から動かしているもの、それは恭司の「バカが付くほどお人好し」な性格でした。>

 最後までプレイし終わって、ここまで全てのキャラクターを愛せる作品もそうあるものではないと思いました。悪人なんて1人もいない、それでも誰もが自分の考えを持っていて自分の信念を貫く為にぶつかり合っておりました。そんな心の繋がりと葛藤があったからこそ、どのエンディングでもみんな晴れやかな表情をしていたのだろうなと思っております。

 この作品の雰囲気を作っている存在、それは確かにヒロイン達の快活な姿です。ですが、その根底に有るものは主人公である恭司の「バカが付くほどお人好し」な性格でした。恭司は決して頭が良い訳ではありません。ここで言っている頭が良いとは、効率的に動くとか相手の行動の裏を読むとか楽をするとか、そういった手の抜き方を知らないという事です。目の前の事に対して常に直球、どんな屁理屈やイヤミも通じない真っ直ぐな性格の持ち主でした。時にはその真っ直ぐさに誰もが呆れて口を塞いでしまいました。それでも恭司は誰からも好かれていました。それが、ヒロイン達のハチャメチャな行動に現れていたのだと思っております。

 恭司は一度自分の命を失っております。しかも、直接的であれ間接的であれ自分の周りにいる人全てが恭司の死に関わっているのです。恭司を突き落とした榎本陸、自らの力の暴走で恭司に傷を負わせた香野つぐも、そもそも恭司を突き落とす切っ掛けを間接的に作った宙果希美、そして恭司を直接ナイフで刺した榎本篝、誰もが恭司の死に関わっているのです。そんな人達を目の前にして、それでも恭司は過去を振り返らず周りのみんなを信じました。まさに「バカが付くほどお人好し」です。みんなが自分に責任を感じていて誰もが恭司に責められてそれで罪滅ぼししたいと思っているのに、そんな気持ちは何処へやらですよ。私は思いました、これが出来るのが恭司であり主人公という存在であると。

 そして恭司は一命を取り留めました。ですがその代償はあまりにも大きなものでした。魂と肉体が術式でないと繋がれない状態、そして定期的にメンテナンスが必要な人工心臓です。そしてそれは同時に地球にいても宇宙に行っても死んでしまうという事であり、香野つぐもか宙果希美かどちらかと離れ離れになるという事でした。香野つぐもと一緒に地球にいて人工心臓が止まるのを待つ、宙果希美と一緒に宇宙に行って術式が解除されるのを待つ、どちらも報われない選択です。こんな状況にもし自分がなったとしたら、果たしてどうするのでしょうね?死ぬその瞬間まで誰にも顔を合わせずひたすらビジュアルノベルプレイしてるかも知れませんね!しかもとても後ろ向きな気持ちで。そんな時間を過ごしての死なんて、なんて惨めなんでしょう。

 ですが恭司は諦めませんでした。そしてそれは同時に周りの人も諦めないという事でした。私、この作品の中で宙果希美が言った「人間は前に進み続ける、どこまでも永遠に」という言葉が好きなんです。神様であるヨシオカは誰の犠牲も無しに恭司を生かすことは出来ないと決めつけてました。普通であれば、神様から「無理だ」と言われたらどうしても諦めてしまいそうです。ですが、それを宙果希美は一刀両断しました。この清々しい程前向きな気持ちこそ、「地球トつくもの」らしさだと思いましたね。時間があるのに諦めるのは罪、素直にそう思いました。

 榎本篝シナリオ及び三人ハーレムシナリオは、そんな彼ら彼女らの諦めずに足掻き続けた結果でした。常識や固定概念に捕らわれる事無く調べるものは調べ尽くし突拍子もない発想でも挑戦し続ける、その努力の結果が恭司の生を勝ち取ったのだと思います。凄いですよね、改めて振り返ってみたら殆ど悲観的な場面なんて存在しないんですもの!せいぜい登場人物達が恭司の死に責任を感じている時でしたね。それも全て、恭司が「過去なんて気にしない」とあっさり認めたことで終わりました。その後の前向きさは見事でした。あれだけ希望にあふれたHシーンもなかなか無いんじゃないでしょうか。楽しかったですし、素直に羨ましいと思えました。

 さっきから同じような事を繰り返している気がしますのでそろそろ締めたいと思います。地球と宇宙というスケールの大きな舞台設定はワクワク感を演出し、プレイヤーの気持ちを掴みました。その中で元気に生きる登場人物達の姿は、見るだけで力をもらうものでした。そして、主人公の「バカが付くほどお人好し」な性格に惹かれた彼女たちが「諦めない」事で、不可能を可能にするシナリオは私たちも真似するべき教訓になると思いました。コミカルさと切なさが絶妙に共存した、非常に技術の高い作品でした。恭司は今度こそ命を失わずに、彼女らを幸せにしなければいけませんね。いや、幸せは自分で掴むものですね。そんな事を教えて頂きました。ありがとうございました。


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