M.M 現実浸蝕サモンファンタズム




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 6 5 81 5〜6 2016/11/26
作品ページ サークルページ


体験版
フリーゲーム夢現



<超個性的な登場人物と熱いバトル展開は自身が少年の時の気持ちを思い起こさせます>

 この「現実浸蝕サモンファンタズム」という作品は同人サークルである「ism studio」で制作されたビジュアルノベルです。ism studioさんの作品をプレイしたのは今作が初めてで、知った切っ掛けはCOMITIA118で島サークルを回っていた時でした。同人ゲームの島を回っている時に一際威勢の良い呼びかけを行っていたのがism studioさんで、思わず足を止めてどんな作品なのか覗いてみました。コメディ風のファンタジーバトルものという事で楽しそうな雰囲気であり、その場ですぐにダウンロードカードを購入させて頂きました。その後私の知り合い何人かもお気に入りのタイトルだと話があり、過度の期待を込めてプレイし始め今回のレビューに至っております。

 サモンファンタズム(以下サモファン)とは、作中に登場する架空のスマホゲームの名称です。その中身は現代のスマホゲームとは比べ物も無い程進化したものであり、生身の体を「ファンタズム」状態に変換することで本来なら絶対にできないような動きと力でバトルが出来ます。VRの進化系の様なイメージですね。そしてバトルは1人だけではなく最大4人まで参加出来るチーム戦であり、それぞれの立場や能力を計算し全員が協力することで勝率を上げることができます。ルールや制約もそれなりに細かく設定されており、如何にシステムを理解しているかが勝利の鍵を握っております。主人公である百ヶ台磐(通称台バン)もまたそんなサモファンにハマっている1人であり、友人2人と共に自身の汚れた野望を達成する為に連戦連敗を続けておりました。そんな台バンが1人の女の子と出会うところから物語は動き始め、サモファンを通じながら勝利や友情、恋などの青春を味わっていきます。

 この作品の最大の魅力は超個性的な登場人物にあると思っております。主人公台バンは一見普通の高校生に見えて、その実はエロさを隠そうともしないストレートな変態です。女の子とセッコスする為になりふり構わずナンパしまくるのはもはや犯罪を通り越して馬鹿ですね。そんな台バンの友人2人もまた超個性的です。モルジオ=キーン(通称モンキー)はブラジル人でありながら純日本的であり、加えて重度のマザコンという突っ込みどころ満載なキャラクターです。もう1人の犬山椿は非常に凛々しい立ち振る舞いが特徴のオネエ系であり、誰からも慕われる性格であるだけに非常に勿体無いキャラクターです。他にもライバル役のコバンザメたかしは絶滅危惧種のようなヤンキーですし、台バンの育ての親であるとめさんは103歳でありながら世界最強の霊長類です。右を見ても左を見ても奇才を持った人物ばかりで、全く飽きる事がありません。是非そんな奇想天外な登場人物達の掛け合いを楽しんで欲しいですね。

 そしてサモファンの戦闘に代表される動きの演出も非常に拘っております。何気ない会話のシーンでもキャラクターを動かしてみたりカメラを寄らせてみたり画面を揺らしれみたりと退屈しません。何よりもサモファンの戦闘シーンが凄まじいですね。戦っている彼らの空気が伝わるようで緊張感があり、技の演出も全て丁寧に描写していて大変リアルです。どっちが勝っても不思議ではない、負けそうでいて一発逆転がありまたその逆もあります。動きの演出と先の読めない展開の両方がプレイヤーをも巻き込み緊張の渦を作っております。是非彼らがどうしてそこまで勝利に拘るのか、何を持ってサモファンに挑んでいるのかを是非掴んで欲しいですね。

 プレイ時間は私で5時間45分程度掛かりました。メインヒロインは2人であり、共通部で約3時間で個別シナリオで1時間30分といった感じでした。この作品には声もありますのでボイスをじっくり聞けばもっと時間は掛かると思います。一般的な同人ゲームと比べてやや長い印象ですね。ですけどそんなプレイ時間の長さを感じさせない演出と熱さ、何よりも登場人物の個性があります。是非自分自身が少年に戻った気になり、どっぷりとサモファンを楽しんで頂ければと思いますね。必ずや手に汗握る展開が待っていると思います。かなりオススメです。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<執愛度、それは情熱を持ち真剣に取り組む人への神様からのプレゼント>

 最初から最後まで終始ずっと楽しい時間を過ごさせて頂きました。超個性的なキャラクターによく動く演出、そして努力・友情・勝利という少年漫画の王道が揃ったシナリオに大変満足しました。サモファンを通じて様々な教訓的な事柄をプレイヤーに訴えてきた本作ですが、原点には純粋な強い気持ちと考えることを止めない事が流れているのだと思いました。

 全国的に流行し数多くのプレイヤーが存在するサモファン。最大4人一組で行われる架空世界のバトルは大変なリアリティがあり、誰もが勝利を求めてチームを組み熱中しております。ですがそんなサモファンの中で未だに解明されていない要素がありました。それは執愛度です。執愛度というものは公式には存在していないと言われております。プレイヤーの本質と非常に関わりが深いパラメータであり、能力のバランスや覚えるスキルに関係しているそうです。なるほど、確かにこの作品の超個性的な登場人物を見ればそのようなパラメータが存在すると思わざるを得ません。誰もが素の自分を反映したようなビジュアルであり、スキルの特性も本人の性格を反映させたようなものばかりです。ですが逆に言えばそれはあまりにも不確定なものであり、勝利を目指す上で非常にランダム要素の大きいものです。果たして本当に執愛度といったものが存在するのでしょうか。

 実際に執愛度を信じず自分の力量とゲームのルールとパートナーのスキルを見極めて理論的に勝利を収めていくチームも勿論存在します。最後に戦った仮柴慈路がそうですね。ビーストの特性を正確に理解し勝利の為にはどんな非人道的な手段も辞さない、流石全国ランカーだけの事はあります。ゲームの強さはルールの熟知と情報の数にある。そう確信させる的確な責めです。逆にそういった計算ではなくチームメンバーの友情と信頼だけで戦っているチームも勿論存在します。それが台バン達ですね。一見非効率的でお世辞にも上手とは言えない戦い方です。始めこそ一回すら勝利出来ずなぜ勝てないかすら理解していませんでした。ですがしっかりとした目的意識を持ちお互いの信頼関係を深め勝利の為に考えるようになった時、そこから彼らの快進撃が始まりました。

 信頼関係を深める事、そしてよく考える事については本当に沢山のアドバイスがありました。「勝つなら手段を選んではいけない、ただしその責任は全て自分に来る。」「思考停止してはいけない。」「己に負けなければいつかは勝てる。」「自分が有利とする戦い方を見つける。」「最速なる次策は、愚鈍なる最善策より上策。」これらのアドバイスは育ての親であるとめさんやヒロインである冬子やかな、そして自分自身で気づいたものです。始めは邪な考えで始めたサモファンですが(今もそうですが)、ゲームを通じて仲間と協力する事や相手を観察する事を学んでいきました。そうした向上心と負けず嫌いな心があったからこそ、最後の最後で全国ランカーである仮柴慈路からの勝利を掴み取ったのだと思っております。

 情熱を持ち真剣に取り組む人には神様は必ず微笑んでくれる、そう思わせる程タイミング良く台バン達はスキルを覚えていきました。本当最高のタイミング、ロードオブビーストなんてその最たる例です。ですがこれは決してステータスが一定値に達したとか、一定時間経過といった決まったパターンが理由ではありませんね。執愛度、果たして本当にそんな不確定なパラメータが存在するのでしょうか。それでも台バン達の活躍を見ると執愛度の存在をどうしても認めざるを得ません。執愛度、それはきっと情熱と真剣さを持った人に対して神様が微笑み与えてくれるそんな奇跡なのかも知れません。ありがとうございました。


→Game Review
→Main