M.M AlexiA〜アレクシア〜




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 7 82 4〜5 2019/8/29
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 この「AlexiA〜アレクシア〜」は、過去に発売された「AlexiA〜アレクシア〜第一章」の内容を包括した完成版となっております。その為レビューには「AlexiA〜アレクシア〜第一章」のネタバレが含まれておりますので、ネタバレを視たくない方はご遠慮下さい。またネタバレ無しのレビューについては「AlexiA〜アレクシア〜第一章」のレビューを参照下さい

「AlexiA〜アレクシア〜第一章」」のレビューはこちら

※このレビューには「AlexiA〜アレクシア〜」のネタバレありしかありません。本作をプレイした方のみサポートしております。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。





















































































<自分を大切にして人生を生きる。その先に、きっとあなただけの幸せが待っている筈です。>

 …正直言いまして、上條游雅はどうして現実世界に帰ろうと思ったのか分かりませんでした。ディスレクシアによって小学校の時から読み書きが出来ず、それによってクラスメイトから虐められ、それは中学に入っても続いて、自分がディスレクシアだと打ち明けても結局のところ何一つ変わらないのが現実です。そして、唯一自分が信じていた車掌眞那彌が自殺したのです。こんな救いも希望もない世界に、無理をして戻る必要などあるのでしょうか。

 上條游雅が望んだ理想の世界、それは車掌眞那彌にそっくりな世話を焼いてくれる幼馴染の穂多留がいて、誰も自分をいじめる存在がいなくて、テストでは良い点数が取れて、そんな生活が永遠の続くものでした。羨ましいと思いましたね。少なくとも、上條游雅は孤独ではないのですから。隣には絶対に穂多留がいる、これだけで十分幸せな事だと思いました。まさにTrueEND、上條游雅にとって最高のエンディングでした。ですが、逆に自分はこうも思いました。この位の想像力が、上條游雅の限界なんだと。自分だったら、穂多留と幼馴染で終わるのではなく恋人になって結婚して夫婦になるまで求めてしまいます。そんな事すら、上條游雅は知らなかったんですね。誰も見方がいない世界の中で唯一言葉を交わしてくれた車掌眞那彌。上條游雅にとっての幸せは、誰かと会話が出来る事だったのだと思っております。

 上條游雅の望んだ理想の世界に対して、可哀相と思った方はいると思います。何故可哀相と思うのか、それは上條游雅が望んだ世界よりもより幸せだと思う世界を知っているからです。自分を裏切らない幼馴染がいる世界を幸せと思う上條游雅という人間もいれば、宝くじで5億円を当てて立派な豪邸を建てる事を幸せと思う人もいるでしょう。結婚して子供が出来て慎ましい家庭を築ける事を幸せと思う人もいるでしょうね。しかし、皆さん知っているでしょうか。それら幸せの基準は、人の数だけ存在しているという事に。そして、幸せの基準はどんどん変わっていくという事に。絶対の幸せというものは無いと思います。世の中の変化に流されて、文明が発達し文化が生まれていく中で、必ずや幸せの形は変化していきます。今あなたが上條游雅の望んだ世界を可哀相と思う事は否定も肯定もされません。ですが、もしかしたら将来上條游雅が望んだ世界を羨ましいと思う日が来るかもしれませんね。

 物語の最後、上條游雅は「僕は、僕の人生を生きる」と決意して現実世界に帰りました。人生を生きるとは、どういう事でしょうか。ただ寝て起きてご飯を食べる事を人生を生きるとは言わないと思います。端的に言えば、幸せを見つける事が人生を生きる事かなと思いました。上條游雅が望んだ理想の世界、これもまた上條游雅が見つけた幸せの一つです。ですが、上條游雅はその世界を捨てて、新しい幸せを求める決意をしたのですね。それが人生を生きるという事、よくもまああれだけ辛い人生を歩んできてそこから更に人生を生きる事を決意できたと思います。ですけど、理想の世界にいた事で上條游雅は気付けたのだと思います。自分を愛する存在が、ちゃんと自分の中にいるという事に。

 この作品のテーマは「人生を生きる事で幸せを見つける事が出来る」だと思っておりますが、もう一つ大切なことに「自分だけは自分を信じてあげる事の大切さ」があると思いました。実際のところ、上條游雅は強かったと思いました。ディスレクシアによって生き難い世界でも、学校には通い続けました。年相応のサボり癖もありましたが、それでも自分と向き合ってディスレクシアを告白する姿は勇気があると思いました。多かれ少なかれ失敗と成功を繰り返して、何かたどり着けるものを見つける事が出来るなと思いましたね。いじめっ子に対しても毅然と向き合うなんて、私には出来ませんよ。上條游雅は、自分が思っている程不幸な人生を歩みそうにないなと、そう思いました。

 唯一の救いだと思っていた車掌眞那彌の死を知って睡眠薬を飲んだ上條游雅。その先で出会った自分を愛してくれる存在。もしかしたら、あのTrueENDは自己愛の大切さを教えてくれる為のものだったのかも知れません。自分を好きになれなくて、周りを好きになる事なんて出来ませんからね。自分を好きな存在がいるうちは、自殺なんて千年早いというものです。「俺たちが出来るのは、現実の上條游雅を肯定してあげること」そんな存在がいる事に気づければ、あとは十分生きていけます。きっと社会は厳しいと思います。偏見の目が飛び交うと思います。それでも、そんな人生の中にきっと上條游雅だけの幸せが待っていると信じております。

 まとまってきましたのでそろそろ閉めようと思います。数多くのスチルと動的な演出を使った雰囲気は臨場感があり、上條游雅の心理描写を効果的に描いている物でした。何よりも、ヒロインの高校生らしいボイスがテキスト描写と相まって目を離させてくれませんでした。よくもまあ、これだけ沢山の素材を用意して妥協する事無くこの世界観を作れたなぁと感服しております。色の使い方、効果音の使い方、BGMの使い方、全てにサークルさんのセンスを感じました。始めは自分の事しか考えていない主人公とヤンデレな幼馴染とそれを庇うヒロインの物語かと思いましたが、そんな小さな視点では収まらないテーマが待っておりました。私たちも、人生を生きて自分だけの幸せを見つけなければいけませんね。そんな事を最後に思いました。ありがとうございました。


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