M.M AlexiA〜アレクシア〜第一章




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 7 - 76 1〜2 2019/6/20
作品ページ サークルページ



<とにかくヒロイン達の表情差分が細かい。そして動きのある演出が怖い。プレイヤーを引き込む力が強い作品です。>

 この「AlexiA〜アレクシア〜第一章」という作品は、同心サークルである「Operation:Novelty」で制作されたビジュアルノベルです。「Operation:Novelty」さんの作品では過去に「Spyral-tryaL」をプレイさせて頂きました。粗削りな部分がありつつも、プレイヤーの想像を超えた深い世界設定と登場人物の心理描写の細かさが印象に残る作品でした。リアリスティックに拘ったファンタジーであり、ご都合主義など起こらない毅然としたシナリオがサークルさんの誠実さを表している様で印象に残っている作品です。そんなサークルさんの新作が今回レビューしている「AlexiA〜アレクシア〜第一章」です。可愛らしい女の子が表紙を飾るパッケージでありながらそのジャンルは「電波障害ノベルADV」です。普通には終わらないんだろうなと予感させるシナリオを楽しみにしながら、今回のレビューに至っております。

 主人公である上條游雅(かみじょうゆうが)は、人よりも勉強が苦手なだけの高校1年生です。アパートで1人暮らしをしており、隣には幼馴染である東雲穂多留(しののめほたる)が住んでおりました。穂多留は毎日游雅を起こしに来てくれます。毎日一緒に登校してくれます。毎日朝ごはんを作ってくれます。まさに典型的な主人公好き好き幼馴染です。それでも恋愛感情を良く分かっていない游雅はそんな穂多留のアプローチを華麗にスルー、いわゆる鈍感系の主人公ですね。そんな爆発しろ!と思わせつつも微笑ましい日常を送っておりました。ある日、いつもの帰り道で穂多留によく似た先輩と出会いました。名前は車窓眞那彌(しゃそうまなみ)と言いまして、その儚げな振る舞いはどこか游雅の心に残る存在でした。少しずつ距離が近づく游雅と眞那彌。そしてその様子に少しずつ態度を変えて行く穂多留。当たり前に続くと思われた日常は、少しずつ壊れていくのです。

 この作品のジャンルは「電波障害ノベルADV」となっております。日常系の学園生活を送っている主人公たちですが、時々ノイズが走ったり不穏なBGMに変わったりとどこかおかしい事に気付くと思います。ですが、何がおかしいのか中々分からないのです。間違いなくこの日常が続くはずがないと確信できるのに、どう続かないのかが分からない。このバランス感覚が上手だと思いました。結果として、プレイヤーは先が気になりクリックする手が止まらないと思います。電波障害とはもしかしたらプレイしている自分なのではないか、そう錯覚させる程です。この作品はまだ第一章ですので、物語の真実にたどり着くことは出来ません。それでも、最後までプレイすれば一定の事実が明らかになります。まずはそこまで進めてみて下さい。

 最大の魅力は、ヒロイン達の表情差分にあります。この作品、立ち絵の差分がもの凄く多いです。そしてその多い差分がコロコロと変化していくのです。まるで本当にそこにヒロインが存在しているかのようでした。テキストやボイスだけではなく表情差分で感情が読める、この表現力は中々見る事は出来ません。そしてそんな表情豊かなヒロイン達が一瞬だけ見せる不気味な視線、これ程プレイヤーを不安に陥れる物はありませんね。まさにビジュアルノベルだからこそ出来る表現だと思いました。他にも動画的な演出も多く見られ、全体として動きを大切にしている様子が伺えました。テキストを読むだけではなく、是非ウィンドウ全体を見ながら味わってみて下さい。

 プレイ時間は私で1時間10分程度でした。この作品には幾つかの選択肢がありますが、まだ第一章ですのでエンディングに影響を与えるものではありません。ですが将来的に完成版が出たらルートが分岐しそうな選択肢ばかりですので、吟味はそこから行おうと思います。正直、1時間10分も経過していたのかと思いました。あっという間という表現がピッタリでした。それ程までにキャラクターの些細な変化と絶妙な映像・音の使い方が印象的でした。これは是非完成版をプレイしたいですね、引き続き楽しみにしております。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<游雅・穂多留・眞那彌の3人の関係が変化した時、ようやくこの作品のテーマが見えるのだろうと思っております。>

 いや〜上手な幕引きでした。始めはヒロインがヤンデレの物語かと思いましたが、最後の最後に一番の焦点は主人公になる事が分かりました。今いる世界は何なのか、穂多留と眞那彌の関係は何なのか、游雅は何を望んだのか、とにかく続きが気になる展開でした。

 ネタバレ無しでも書きましたが、とにかく穂多留の表情差分にゾクゾクしました。初めからどこか依存気質だなとは思ってましたが、後半で一気にヤンデレ気質が表に現れました。やっぱりヤンデレは目なんですかね。同じ表情に見えるんですけど、ちょっと目の開き方が違う。それだけで一瞬でヤンデレになってしまうのがお見事だと思いました。後はBGMが上手いですね。突然機械的と言いますか不協和音なBGMに切り替わり、一瞬で空気が変わった事が伝わりました。この、一寸先は闇な感覚こそヤンデレだと思うのです。あれ、普通かな?と思ったらそうではなかった。この気持ちの浮き沈みの激しさもまたヤンデレらしさなんだなと思いました。

 後はやはり主人公である游雅ですね。物語最後に見せた、テストで2点しかとれなかった一場面です。元々物の読み書きに対して不自由を抱えているのは間違いなさそうですが、これが穂多留と2人きりの生活とどのように繋がるのでしょうか。読み書きが不自由で、そんな人生から逃げた結果なのでしょうか。「ゆうくんが望んだんだよ?」の一言は本当な気がします。きっと、游雅の傍に穂多留が居たのでしょうね。生き難い人生を穂多留が支えてくれるのでしたら、それはそれで幸せな結末ではないでしょうか。

 だからこそ、そこに眞那彌という存在がどのように関わってくるのかが物語の鍵になりそうです。游雅が読み書きに不自由しているのも事実、そしてそんな游雅を穂多留が支えようと思っているのも事実だと思います。ですが、それぞれの程度の度合いは認識の齟齬が発生してそうですね。確かに僕は穂多留が傍にいて嬉しかったけどそこまでして欲しいなんて思ってなかった、そんな展開があったのかも知れません。そして、そんな2人の歪な関係を何とかしたいと眞那彌がやってきたのでしょうか。眞那彌も眞那彌で複雑な事情を抱えておりました。クラスの中で阻害されている、メダルゲームが好き、この辺りに眞那彌もまた普通ではない何かを持っている事が滲み出ております。

 何れにしても、游雅・穂多留・眞那彌の3人ともどこかしらで今の自分の境遇と環境を変えて行く必要がありそうです。誰かが誰かに依存して成り立っているのが現状です。勿論それが悪い事だとは思いませんが、人は究極的には他人だと思っておりますのでどこかで自立できる部分を持っていなければいけないと思います。今は、その自立できる部分が一切ない状態です。共依存と言うのでしょうね。少なくとも、共依存のままでは今の世界観から何ら変わる事はありません。もしそうであるのなら、この「AlexiA〜アレクシア〜」という物語も変わらないという事になります。しかし、それではこの作品の意義がありません。きっとこの先変化が現れた時、きっとこの作品のテーマも見えるのだろうと思っております。続きを楽しみにしております。


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