M.M 21-Two One-
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
7 | 6 | 10 | 78 | 7〜10 | 2018/5/12 |
作品ページ(DC版) | ブランドページ(なし) |
<人が人として生きる事の価値を、無数の選択とフローチャートを歩きながら考えてみて下さい。>
この「21-Two One-(以下21)」という作品は、かつて存在した「BasiL」というブランドで2001年に制作されたビジュアルノベルです。皆さんはBasiLというブランドをご存知でしょうか?私が初めてBasiLの作品に触れたのは「それは舞い散る桜のように(以下それ散る)」という作品でした(レビューはこちらからどうぞ)。2002年に発売されたドタバタ学園コメディの金字塔であり、とにかくテンポの良いテキストとキャラクター同士の絶妙な掛け合いが印象的でした。私はこの作品を通してシナリオライターの「王雀孫」とイラストレーターの「西又葵」を知り、その後ファンとして幾つかの作品をプレイさせて頂きました。私にとっての王雀孫&西又葵の代表作は、BasiLの開発メンバーで新たに立ち上げた「Navel」が2009年に制作した「俺たちに翼はない」ですね(レビューはこちらからどうぞ)。それ散る以上にテンポの良いテキストとキャラクターの魅力、そして複数主人公とヒロインという構図を上手く活かしたシナリオ展開に多くの人が楽しまれたのではないでしょうか。
そんな経緯もあり、Navelは私がデフォルトで予約購入している数少ないブランドでもあります。ここ最近は王雀孫氏がシナリオを担当している作品は少ないですが、Navelらしいテンポの良いテキストの作品は健在であり今でも十分に楽しませて頂いております。西又葵氏は現在でもメインのイラストレーターとして活躍しており、毎回可愛らしい絵柄を堪能させて頂いております。そんな王雀孫&西又葵が初めて関わり制作されたのが今回レビューしている21です。メインのシナリオはNavelの処女作である「SHUFFLE!」等でメインのシナリオを担当された「あごバリア」であり王雀孫氏はおまけシナリオのみですが、それ散るのドタバタ学園コメディに対して病院を舞台とし死生観をテーマとした設定の21がどのような作品なのかはずっと興味を持っておりました。発売が2001年と、私にとってのビジュアルノベル黄金時代のタイトルという事もあり、いい加減プレイしなければと思い今回重い腰を上げプレイさせて頂きました。
主人公である霧島拓哉(きりしまたくや)は優秀な外科医です。彼が外科医になる事を目指した理由、それはかつて自分の母親を病気で失ったからでした。あまりにも無力だった当時の自分。であるのなら、何でも治せるスーパーマンのような医者になって全ての人を救いたい。そのように考えるようになりました。そして念願の医者になり、数多くの命を救ってきました。ですが、同時にどうしても救えない命もあるという現実も突き付けられました。自分はスーパーマンになれないのか、少しずつ医者としての自信を失っていってしまいます。それでも幼馴染である榊芹(さかきせり)、同じ病院に勤めている橘唯奈(たちばなゆいな)や汽京紅葉(ききょうもみじ)、患者である二見美魚(ふたみみお)とその姉である二見真魚(ふたみまお)、といった様々な人物に支えられて仕事を行っておりました。ですが、事件は唐突に起きてしまいました。入院患者が殺されてしまったのです。それは、様々な因縁と伝説が絡み合った事件の幕開けでした。この事件の先に何が待っているのか。霧島拓哉と共に真実を見つけに行きましょう。
この作品のテーマは死生観です。日頃から人間の生と死に向き合っている霧島拓哉にとって、生きるという事の意味は一生かけて考えていく事でした。自分は何の為に医者になったのか、救えない命に対して何が出来るのか、そういった事を常に自問自答しながら事件の解決を目指していきます。ですが、この事件は唯の短絡的な殺人事件ではありませんでした。その根底にあるのは、人間にとって余りにも魅力的な存在でした。ネタバレになりますのでここでは割愛しますが、この魅力的な存在がより主人公と全ての登場人物を狂わせていくのです。そして、それは自分が人間である事の意味を考えざるを得ない側面も持っております。突き付けられた現実に自分ならどう行動するのか、きっと私ならこの魅力的な提案に迷うと思います。全ては自分で選択しなければいけません。その代償も、きっちりと払わなければいけないのです。人が人として生きる事の価値を、考えてみて下さい。
そしてこの作品の特徴は何と言ってもシステムにあります。この作品は「人物相関図」がいつでも見れます。誰が誰をどう思っているのか、是非攻略の参考にして下さい。そして「フローチャート」もいつでも見れます。まだ回収できていない分岐を見つけるのに非常に参考になります。達成度もありますので完全攻略の参考にして下さい。そして一番の特徴は「人物信頼図」です。これは、主人公が登場人物に対して「信頼」「平常」「疑惑」のどの感情を持っているのか自由に設定できるというものです。勿論、これによって分岐やセリフも変わってきます。出現する選択肢も変わってくるかも知れません。真面目に考えればかなり難解なシステムとも言えます。まずは、攻略したいヒロインは信頼してみれば良いのではないかと思います。そしてシナリオが明らかになっていくにつれ、もしかしたらこうなのではないかと色々と試してみて下さい。実際に自分が推理しているような感覚を味わえました。
他にも既読スキップ・バックログなどの基本的なシステムは揃っております。特に既読スキップは非常にスピードが速く、始めからやり直しても全く苦になりませんでした。後はエンディングリストが個人的に嬉しかったですね。この作品はグッドエンドに加えてバッドエンドも幾つかあります。それらも全てエンディングリストとして記録されますので、完全攻略の参考になりますね。他にもCGモードやシーン回想にも達成度がありますので、攻略させようという製作者の意図を感じます。是非それに乗り完全攻略を目指してみて下さい。嬉しいご褒美があるかも知れませんね。
プレイ時間は私で7時間40分でした。思ったよりも短い印象でした。フローチャートを見れば自ずとわかるのですが、この作品は割と共通ルートが多いので2週目以降は殆ど既読スキップで飛ばす事が出来ます。それでも、個別ルートを攻略していく中で少しずつ明らかになっていく構成は楽しかったですね。最後のヒロインを攻略する時に迫られる選択は、これまでの全てのルートの総括的な印象を覚えました。オールクリアに非常に価値のある作品だと思いました。難しければ攻略サイトをご覧になっていいと思います。私も一ヶ所だけどうしても嵌ってしまって、そこだけ答えを見てしまいました。自力攻略するのはそれなりに時間が必要です。その際は、是非人物相関図・フローチャート・人物信頼図をフルに活用して、選択肢後に出会えるヒロインをメモして攻略していって下さい。それだけの面白みはあると思います。楽しかったです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<報われないかも知れない道をひたすら進み続ける、そんな強さを自分も持ちたいと思いました。>
ネタバレ無しで書き忘れましたが、私が21をプレイしたかった理由がもう1つありました。それはOP曲である「TRUTH and FATE」がとーーーーっても大好きだからです。それ散るの「days」や「beloved 〜桜の彼方へ〜」も勿論好きなのですが、それ以上にTRUTH and FATEが好きなんです。あのOPムービーを何度見た事か。今回プレイしている時も。リスタートするたびにOPムービーは必ず飛ばさずに見てました。現在もTRUTH and FATEを聞きながらレビュー書いていたりします。
閑話休題。最後までプレイして気が付いたのですが、結局のところ霧島拓哉がどんなに誠心誠意努力してもヒロインたちの置かれた状況は変わらなかったんですね。二見美魚は一命を取り留めましたが人魚病が治った訳ではありません。汽京紅葉も人魚の肉を食べた宿命が変わった訳ではありません。一ノ瀬木葉が呪いから解放される事も、三原香澄が人を殺した事実が消える事も無いのです。死んだ人は死んだままですし、生き返る事などありません。奇跡というものは、本当起きないから奇跡なのかも知れません。ですがそれでも変わったものがあります。それは自分が置かれた状況に対する心持ちです。運命や呪いは変えられない、それでも足掻く事は出来る。それが、人間らしさでありこれがこの作品で一番言いたかった事なのかなと思いました。
もし、目の前に人魚の肉があったらあなたは食べますか?不老不死、永遠の命、人間であれば誰もが夢見る事だと思います。それが、自分が手を伸ばせば手に入るところにあるのです。私だったら、手を出してしまうかも知れません。世の中にある無数のビジュアルノベル、それをプレイするには人生80年ではとても足りませんもの!一生遊んで暮らせるんです。こんな夢の様な事はありませんね。そんな不老不死の夢に多くの人が人生を狂わされました。人魚伝説の中での一番の敵、それは人魚そのものや人魚の肉ではなく、人間の心そのものでした。
この作品では、人間が人間である事の意味も問うておりました。人間は揺れ動く存在であり、全て理性的に行動する事は出来ません。失敗もしますし間違いもします。医者と言えども全ての患者を助ける事は出来ないのです。ですが、それだからこそ人間的であると言っておりました。霧島拓哉はスーパーマンになる為に医者になりました。ですが助けられない命が沢山ある現実に、自分はスーパーマンになれないと悟りました。本当にスーパーマンになるとしたら、もう人魚の肉を食べるしかありませんね。不老不死になり、永遠の命を手に入れて、不可能と思われる難病をどんどん直していくのです。まさにスーパーマン。これが霧島拓哉がなるべき道だったのでしょうか?そうではありませんでした。
作中何度も「人として」「人間として」という言葉が出て来ました。不老不死になれば霧島拓哉が叶えたかった事のほとんどを叶える事が出来ます。ですが、それは人間を超越した存在になる事であり、人と同じ時間から外れるという事です。その時、霧島拓哉は同じ志を持ち続けられるでしょうか。その答えの1つを一ノ瀬木葉は持っておりました。人魚の呪いにより体の成長が止まってしまった彼女は自分の事を「化け物」と言っておりました。「終わりがあるのは幸せな事」「いつかがあるのは幸せな事」そんなセリフも見受けられました。人間だから前に進める、終わりがあるから前に進もうとする、これもまた作中で何度も出てきた言葉ですね。人間を超越した存在になれる選択があるからこそ、人間らしさを強く実感できるのだと思います。
榊芹ルートの最後、霧島拓哉とプレイヤーがこれまでの全ての人魚伝説に関わった人たちを見てきて、ついに人間でいるのか化け物になるのかの選択を迫られました。ですが、ここでいう人間でいるというのは「人間のままでいて諦める」という意味ではありません。「人間のままで足掻き続ける」という意味でした。霧島拓哉が医者を目指した理由は命を助けたいからです。それも、人としてです。最後まで人であり続けた霧島拓哉の姿は、特に汽京紅葉にとってはとても輝いて見えた事と思います。霧島拓哉の戦いに終わりはありません。きっとこれからも多くの死と向き合っていきます。治せない病気を抱えたまま、いつか自分の寿命を迎えるでしょう。大切なのは、ゴールが見えない道を足掻いて前に進み続ける事です。それは茨の道であり報われないかも知れない道です。それでも前に進み続ける事が出来る、そんな強さを自分も持ちたいと思いました。ありがとうございました。
最後に1つだけ。おまけシナリオ最高でしたね!一瞬で王雀孫のテキストって分かりましたよ!個人的には「せーり!せーり!せーり!せーり!」が一番ツボりました!