M.M Zodiarc




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
10 8 8 90 35〜40 2019/5/4
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<魔法使いは恋をした。報われることのない恋をした。・・・それは、世界を股に掛ける恋でした。>

 この「Zodiarc」という作品は同人サークルである「サークルゴリッチュ」で制作されたビジュアルノベルです。私がこの作品を知った切っ掛けは、少し特殊でした。ある日、フォロワーの方から「サークルゴリッチュさんの作品が面白いですよ!」とオススメを頂きました。正直この時は「そうなんだ」程度にしか思っておらず、まだまだ溜まっているC95の新作を消化し続ける予定でした。ですがその後別の知り合いとの飲みの場で、同じくサークルゴリッチュさんの作品をオススメされました。恐らくは面識がないはずの2人からの同時期のオススメ、これは何かあるなと思いサークルゴリッチュさんの公式HPをチェックしに行きました。サークルゴリッチュさんは主にRPGを制作されるサークルですが、幾つかビジュアルノベルもありました。その中で最も初期に制作されたのが今回レビューしている「Zodiarc」です。2007年に発表された作品であり、サンプル画像などを見てお世辞にも面白そうとは思いませんでした。それでも複数の方がオススメされるという事はプレイしなければ分からない魅力があるのだろう、そう思い覚悟を持ってプレイ開始しました。

 舞台は、剣と魔法と現代科学が混在する西洋をモチーフにした世界です。主人公であるシュガーレッドは、アルカナと呼ばれる都市にある魔法学園で教師をしておりました。ですが、シュガーレッドの年齢はまだ19歳です。ちょっと訳アリの理由で教師となった経緯もあり、その素行は非常に悪くぶっきらぼうな性格をしております。その為生徒からもからかわれ、人望があるとはとても言えない様子でした。家に帰れば口うるさい同居人であるヨハンがいて、加えて貧乏ですので日々の食事にも困る有様です。それでも、そんな無味乾燥でくだらない日常をそれなりに楽しんでおりました。ある日、シュガーレッドは夜の街でラチェットと呼ばれる女性と出会います。ですがラチェットの正体は魔人と呼ばれる存在であり、人間を遥かに凌駕する力を持っておりました。そして、同時期にアルカナでは変な噂が蔓延しておりました。それは、アルカナ通り六番目で人が失踪するというものです。自分には関係ないと思っていたこの事件とラチェットとの出会いが、シュガーレッドの人生を大きく変えて行く事になります。そしてその変わった日常を取り戻すために、ゾディアークと呼ばれている最強の魔人ベロニカを倒す決意をするのです。

 公式HPにて、Zodiarcは長編コメディ系ADVとうたっております。内容はその通りで、基本的にはぶっきらぼうで子供っぽいシュガーレッドを中心としたギャグ的なテキストが多く展開されます。割と物語序盤でシュガーレッドの人生を変えるターニングポイントが待っているのですが、そのままシリアスになるのではなくシュガーレッドの持ち前のぶっきらぼうな性格が幸いして作品全体の雰囲気は明るいです。何よりも、シュガーレッドだけではなく他の登場人物の殆どに魅力があり愛嬌があります。会話の掛け合いもテンポよいですしキャラクターに個性もあります。是非、シナリオ展開を抑えつつも登場人物一人ひとりがどのようなキャラクターなのかを意識しながら読んでみて下さい。何よりも、この作品はテキストの大半がそうした登場人物同士の掛け合いとなっております。意識するしないに関わらず、自然とキャラクターが頭の中に刷り込まれていく事になると思います。

 最大の魅力は、上でも書きましたが主人公シュガーレッドを始めとした登場人物のキャラクターです。剣と魔法が交錯する世界という事で、様々な属性をもつ登場人物が現れます。それは技や魔力の実力も様々ですし、敵味方といった立場も様々です。それでも、人間性は登場人物全員が同等に違っており同等に表現されております。是非、今この状況でこの人は何を思っているのだろうという事を想像して読んでみて下さい。また、この作品は群像劇の形態もとっており主人公視点だけではなく相手の側の視点でも物語を見る事が出来ます。きっと、相手の視点に立つ事で今まで見えなかった真実も明らかになる事と思います。そんな、読めば読むほど驚きが待っているテキストに気が付けばプレイ時間も積まれていく事と思います。

 そして、サークルゴリッチュさんがRPGをメインに制作されているという事もありエフェクトや効果音やBGMはRPG的なものを連想させます。民族楽器を使用し異国の雰囲気を漂わせるBGM、街からフィールドへ出る時に「ダッタッタッ」という効果音、何よりも剣や魔法が交錯する時の画面演出と効果音には非常にセンスを感じましたし臨場感を持ちました。今自分が放った魔法が相手に効果があったのかが、テキストが無くても画面と効果音だけで分かるのです。カットインの枚数も非常に多く、バトルシーンに並々ならぬ拘りを持っている事が伝わりました。ただ、Hシーンでの効果音はちょっと直接過ぎな印象でしたね。申し訳ありませんが、エロというよりは笑いの方が先行してしまいました。これもまた、サークルゴリッチュさんらしさなのかも知れません。

 ただ、システム面ではどうしても不便さを感じてしまいました。まずは非アクティブ時に止まってしまいます。私の様にメモ帳を起動させながらプレイする人にとっては、唐突にBGMが切れますので作品に乗り切れないかも知れません。また、そのBGMですがOSの関係なのか再生されず暫く無音のまま進むという事が多々ありました。こういう時は一旦非アクティブにして再びアクティブにすると再生されますが、ここぞという場面で本来なるべきBGMが鳴らないのは興が削がれるというものです。2007年に制作されたという事もあり今後終生パッチなどは出されないのかも知れませんが、折角の大作であり名作ですので正直非常に勿体ないと思ってしまいました。

 プレイ時間は私で38時間10分掛かりました。この作品は全部で三章構成であり、それぞれが10時間オーバーと非常に長くなっております。それでも章の中で一話二話と話を区切っておりますので、そのタイミングで休憩したり飲み物を飲んだりするのが良いと思います。とにかく長いですが、無駄なものは一つも無くその長さに見合った何かを持ち帰る事が出来ると思います。是非、登場人物達のキャラクター、ゾディアークと世界の真実、群像劇によるシナリオ展開を楽しんでみて下さい。今回私はこの作品に90点を付けさせて頂きましたが、これはBGMやシステム周りの不便さを加味して下げて下げてそれでも89点以下には出来ないと思いました。これでシステムに不便さを感じずBGMがちゃんと再生されれば、95点以上の何かになったのかも知れません。それ程までに熱く熱く泣かせてくるシナリオです。必ずや、プレイして良かったと思える作品でした。非常にオススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<貴方のお陰で、みんな幸せになれたんです。だから、自分の人生に意味は無かったなんて言わないで下さい。>


「……ワカ、れ……さイ、ゴ……いイ、タか、ッタ…。」
「でモ、オれ……バケ、もノ……。キラわ、レる……イヤ、ダっ、た……。」
「アイつ、ニ…キラわ、れル……こ、わ…カッた…。」
「ダ、から…お、レ……ナにも、いエナカっ、た……。」


 孤高ENDの最後、シュガーレッドがクーに漏らしたセリフです。私、Zodiarcの中でこのセリフが一番堪えたんです。途方もない時間を掛けてゾディアークと戦い、新しい世界を作る為に文字通り命を懸けたシュガーレッド。片翼のウィルヴィッシュとなり人々の記憶から忘れられた存在となってなお、相手の幸せを願うその姿に涙無しでは読めませんでした。ですが、そんな神のような存在になったシュガーレッドが気にしていたのは、恋をする人であれば誰でも頷く事が出来る普遍的で当たり前の感情でした。付き合って下さい、じゃないんですよ。別れの言葉なんですよ。もう会わない、と言いに行くんですよ。でも、嫌われるのが怖かったからそれすらも言えなかったんですよ。なんて、切ないんですかね。そんな、最後の最後まで人間であり続けて、なおベロニカを含め皆の幸せを願うシュガーレッドの姿が尊かったです。

 この作品は恋の物語でした。そして、恋の先には必ず自分の想い人が幸せになって欲しいという気持ちが詰められておりました。余りにも多くの登場人物の気持ちが交錯しておりますし、ここでそれら一つ一つを書き記すのは野暮ですので書きませんが、この作品を包んでいたのはそうした人間的で当たり前な感情でした。恋という自分勝手な気持ち、それでも相手の幸せを思えば諦めざるをえない、それでも一緒に居たい、そんなやり取りばかりでした。どうして、全員が幸せになる事が出来ないんでしょうね。全員が幸せになる方法って、あるんでしょうかね。幸せって、何なのでしょうね。それを考える事がこの作品のテーマなのかなと思っております。

 ネタバレ無しでも書きましたが、この作品の上手いところは群像劇の形態を取っている事です。特に、ジャンヌの中にクーとゾディアークの力が封じ込められた1,000年前の出来事と、ソルファが魔人から普通の人間になった数百年前の出来事については、立場が違うだけで全然違う物語に思えました。前者の場合はケイザーとネロス、後者の場合はジャンヌとソルファですね。相手の見えないところはどうしても推し量って考えるしかない。そしてその推し量る考えは大体自分の都合の良い考えになってしまう。そうした小さな誤解と勘違いが、最後の最後まで相手に対する疑問や不信感として残る様子がもどかしかったです。そうであるのなら、全ての気持ちを言葉に出せば良いのでしょうか?そうではありませんでした。全ての気持ちを曝け出した先に待っているのは何もない焼け野原、そこに幸せなどある筈が無いのです。

 自分の気持ちを素直に言葉に出来る、私はこれが出来る人を本当に尊敬します。可愛い人に可愛いと言う、好きな人に好きだと言う、こんな簡単な事がどうしても出来ないんですよね。どうして出来ないのでしょうか。それはきっと、自分が相手に嫌われるのが怖いから、そして本当の意味で相手の幸せにならないと考えているからだと思います。私は、やらない後悔よりもやる後悔の方が良いという言葉が好きではありません。理由は、基本的に自分の事しか考えていないからです。やって後悔してもそれを糧に次頑張ればいい、そんなの自分だけの都合であり相手にとっては何も関係ありません。告白でも何でも、言葉にすれば必ず相手に影響を与えます。波紋のようなものです。波紋は、どんなに小さくても必ず相手に届きます。その影響を想像出来ないから、簡単に言葉に出来るのだと思います。

 だからこそ、相手に自分の気持ちを言える人が羨ましいのです。自分の気持ちを伝えたら相手はきっと応えてくれる、そう思える自信と信頼を築けた証拠だからです。可愛いと言って相手が嫌な顔をしたらどうしよう、ではないんです。可愛いと言ったら冗談でも本気でも不快に思わないで返事を返してくれる、その自信と信頼があるから可愛いと言うんです。だからこそ、ネタバレ有りレビューの冒頭のシュガーレッドの言葉が痛い程私には共感出来ました。嫌われるのって、本当に怖いんですよ。きっとあの子なら自分の事を信じてくれる、それでももしかしたら嫌われるかも知れない、そうしたらどうしよう。そんな女々しい気持ちがずっと心の中をかき乱すんです。どれだけ世界を救っても、どれだけ相手に言葉をかけても、プレゼントを用意しても、そんなものは関係ないんですね。これが、魔法使いの恋の物語の本質なのかなと思いました。

 自分の気持ちを伝えられなかったシュガーレッド、私はあなたの事を愛おしく思います。そして、あなたのそんな相手の幸せに思う気持ちを、尊敬します。そんなに自分を卑下しないで下さい。ほら、あなたが自分の魂を懸けて守りたかった世界は、こんなにも輝いているではありませんか!皆楽しそうですよ。アズラッテもコノハもプリッツも普通に学生してますよ。イッシキとソルファも兄妹になってますよ。何よりも、貴方が守りたかったベロニカはジャンヌとしてソルファの隣を歩いてますよ。みんなみんな、貴方のお陰なんです。貴方のお陰で、みんな幸せになれたんです。だから、泣かないで下さい。辛くて辛くて死にたくなっても、自分の人生に意味は無かったなんて言わないで下さい。私は、そんなセリフを貴方に届けたいと思っております。

 私はこの作品のTRUE ENDは孤高ENDだと思っております。あのたった一つの選択肢において、殆どの人は「イッシキを受け入れる」を選んだと思います。つまり、最後に見たENDもまた孤高ENDだという事です。物語冒頭にイッシキから魂を奪われウィルヴィッシュ化したシュガーレッド、そして最後の最後で魔人の魂も奪われ片翼のウィルヴィッシュになったシュガーレッド、それでも、相手の幸せを願う気持ちを持ち続けておりました。魔法使いは恋をしました。そして、恋の先に相手の幸せを願う想いを持ちました。それが、シュガーレッドというぶっきらぼうでやんちゃな男の人生でした。願わくば、次の世界では、シュガーレッドもまた、幸せになれますように。ありがとうございました。

 約束ENDについては、続きがあるみたいですので割愛します。正直、コノハが居なければ私自身もこの無常観に押しつぶされてました。コノハに救われたのはシュガーレッドだけではなく、私もでした。ぞでぃあーくりんぐ、期待してます。


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