M.M ジキニンキは誰が食べた




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 4 - 71 1〜2 2020/5/12
作品ページ サークルページ



<蟻喰いマムシさん独特の雰囲気が最大の魅力ですが、かなりの部分をプレイヤーの想像力に委ねられます。>

 この「ジキニンキは誰が食べた」という作品は、同人サークルである「蟻喰いマムシ」で制作されたビジュアルノベルです。蟻喰いマムシさんの作品は、過去に「ニンサンバケシチ」という作品をプレイさせて頂きました。率直に、メチャメチャ個性的な作品だなと思いました。登場人物は人間のはずなのに、立ち絵がスプーンだったりアフロだったりマネキンだったりしてましたからね。そして、ニンサンバケシチという謎の言葉を巡って不気味な物語が展開されていきます。とにかく蟻喰いマムシさんの世界に強制的に入り込ませられますので、ハマると癖になるかも知れません。そんな蟻喰いマムシさんのCOMITIA129の新作が、今回レビューしている「ジキニンキは誰が食べた」です。ジキニンキ、私は始めこの言葉を見て何の事か分かりませんでした。調べてみたら、ジキニンキとは食人鬼の事で小説の作品名みたいです。何れにしても、ジキニンキと呼ばれる何か不気味なものを巡る物語が幕を開けるんだろうなと期待してました。蟻喰いマムシさんの世界に入る心構えをして、プレイし始めました。

 主人公である西アキラは、白銀学院という財閥が運営している学院に通う学生です。アキラはその中にある料理研究サークル「パプリカ」に所属しておりました。このサークルは、名前の通り料理の研究を行うサークルで唯料理を作って食べるサークルではありません。例えば、腐食し始めた肉から新鮮な部位を切り取るやり方など料理を研究的に見ております。そんなサークルに所属していたアキラの、一番の仲良しはサオリという女の子でした。サオリは病弱で、保険委員のアキラがお世話をした事が仲良くなる切っ掛けでした。一緒に帰る時もいつも一緒で、ずっと仲良くしていきたいと思ってました。ですが、突然サオリは死んでしまうのです。失意に沈むアキラですが、何故か目の前にサオリが現れました。意識だけの存在になったサオリ、そしてサオリに続いてアキラの身の周りで次々に人が死んでいきます。そしてその死亡した現場に書かれていたのは「ジキニンキは誰が食べた」という言葉でした。果たしてジキニンキとは何物なのでしょうか。そしてアキラの命運はどうなるのでしょうか。不気味な物語が幕を開けるのです。

 やはり前作同様、立ち絵は相変わらずの個性でした。流石に人物が人物以外で描いてある事はありませんでしたけどね。個性的と言いますか、ワザと雑に作ってるという感じに思えました。何れにしてもいつもの蟻喰いマムシさんで安心しました。そしてシナリオ展開も過去作同様、ホラーに見せかけてミステリーが入ってきます。どんどん場面が展開していきますし、登場人物の関係も分からなくなりがちです。不気味な展開から見え隠れする事実関係を丁寧に洗い出す事が必要でした。良く言えば難解、悪く言えば不親切なシナリオ展開です。これもまた、立ち絵などの不気味さも相まって蟻喰いマムシさんらしさなのかも知れません。正確に事実関係を捉える事はなかなか難しいですが、とにかく作品の雰囲気に慣れるところが大事だと思っております。

 その他の要素ですが、ニンサンバケシチではBGMがありませんでしたがジキニンキは誰が食べたではBGMが導入されております。これも個人的な感想ではありますが、ワザと雑に構成している様に思いました。どんどん場面が展開していく割にはBGMの変化はありませんので、どこか置いてけぼりを喰らっているような感じがしました。むしろ、BGMが場面展開について行けてないという印象ですね。ある意味プレイヤーの心情を反映しているのかなとすら思わせました。効果音は無し、背景描写も最低限という感じです。かなりの要素をプレイヤーの想像力に委ねられると思いました。プレイヤーの数だけジキニンキの姿があると思うとちょっと楽しいですね。

 プレイ時間は私で1時間50分でした。選択肢はなく、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。途中章が幾つか別れておりますので、そのタイミングで休憩を取るのが良いと思います。全体的にプレイ時間は短めですが、何しろ雰囲気が独特ですので慣れないと読み進めるのが大変かも知れません。私は30分に1回休憩を取りながら読み進めました。上でも書いてますが物語の展開も非常に速いので、よく状況を整理しながら読んでいかないと置いてけぼりを喰らってしまいます。作品の雰囲気だけ味わるのであればそこまで丁寧に読まなくてもいいのでしょうけど、それだと悔しいと思いますのでゆっくり読み進めていきましょう。プレイ時間に対してかなりのメモの量になってました。それだけ状況把握が大変だったという事だと思います。そんな蟻喰いマムシさん世界に触れてみては如何でしょうか。楽しかったです。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人間でもイヴでも、最後には幸せだったと思える人生だったら良いですね。>

 予想以上にスケールの大きなシナリオでした。最初パプリカ篇、私正直に言えばこのパプリカ篇が終わって闇人篇に入るまでそういえばまだ最初の篇だったなという事を忘れてしまった位でした。え、この展開の速さで新しい篇に行くの?って思いましたからね。それだけパプリカ篇で一つ完結していて、更にその続きが楽しみでした。

 ジキニンキという存在、それは同じ人間を喰らう事でより高い次元になる事が出来る存在でした。作中に登場したジキニンキ、もといその過程の存在であるイヴ達は強力な身体機能を有しており人間を超えた感覚機能を備えておりました。その様な別次元の存在、それを国が放っておくはずがありませんね。国は白銀財閥を利用して、イヴの研究を行い完全なるジキニンキの完成を目指しておりました。ですが、その過程で起きた事は皆さんがご覧になった通りです。人を人とも思わない非人道的な行為、多くの別れと悲しみ、そして残ったのは恨みつらみという感情でした。そんなおぞましい存在であるジキニンキ、許せなかったのは他ならぬ本人たちでした。物語最後、全てのイヴは自決し二度とこの世にあらわれる事は無くなりました。それは全てのイヴ達の願いであり、悲願でもあったのです。

 振り返って思ったのは、どの登場人物も割と良識的な考えを持った人物ばかりだったという事でした。もちろん立場の違いがありますのでぶつかり合いはありますが、そういった信念以外の部分はまともな人ばかりだと思いました。割と人の話はちゃんと聞きますし、命に対する価値観も普通ですし、自分がイヴという普通ではない存在である事も認知しておりました。そういう意味で、どうして彼らがこうして違う立場で出会ってしまったんでしょうねって残念に思えてなりません。特に、主人公であるアキラとサオリはお互い人間だったら最後まで唯一無二の大切な親友で入れたのではないかと思います。いや、思えばサオリは自分が完全に消滅する最後の最後までアキラの中に居ました。お互い人間であるとかそんな事は関係なかったのかも知れません。人間だろうとイヴだろうと最後には死にますので、その死ぬまでの時間をどう過ごすかが大切だったのかなと思っております。

 それにしても、物語の中心にいた西アキラという人物は本当は何者なのでしょうね。裏表のない性格なのはそうなのだと思います。そして友達想いで友達の為に泣ける人なんだと思います。ですが、それ以上にアキラの周りにはイヴが良く集まりました。まるで、蜂を吸い寄せる花の蜜の様です。作中で、サオリはイブでありアダムであると言っておりました。つまり、この世界にはイヴという存在に加えてアダムという存在もいるという事です。本編ではそのアダムに相当する存在はサオリしかいませんでしたし、どんな性質を持っているかも分かりません。仮に、イヴを惹きつける存在がアダムだとしたらそれはもしかしたらアキラなのかも知れませんね。少なくとも、イブとアダムが交わる事によって最終的にこの世界には人間しか残りませんでした。まあ、もはやイヴもアダムの居なくなった世界で、イブとは何かアダムとは何かという事を問う意味は無いのですけどね。

 個人的にですが、作中で一番好きな登場人物は白銀ミコだったりします。特に、再会篇でのミコは白銀財閥からも切り捨てられこれまでの自分の行いを償う日を過ごしておりました。そして、イヴ計画によって作られた身寄りのない子供たちを全員引き入れて第三寮の寮長となっておりました。なんて幸せな景色なのでしょうね。パプリカ篇では間違いなくイヴ篇の中心に存在し、本来であればもうこの世にいてはならないレベルの事を行っておりました。何しろ、料理研究サークルパプリカを利用してジキニンキを食べさせていたのですから。それでも最後の最後でミコは自分らしい穏やかな生活を送る事が出来ました。確かに大罪を犯した人物は最後には消えてしまう運命だったのかも知れません。第三寮の全ての人達が消えてしまったのは、あまりにもむごいと思います。それでも、その瞬間まで間違いなくミコは幸せを感じていたと思います。

 人間であろうとイヴであろうと、自分らしく生きる権利はあると思います。そして、自分らしく生きれた人はそれだけで幸せなのかなと思いました。自決したイヴ達が幸せかどうかなんてイヴ達にしか分かりません。それでも、自分の意志で消える事を選択しそれが叶えられたのです。私には幸せだったのかなと思いました。イヴを失いサオリを永遠に失ったアキラですが、果たして今後どんな人生を歩むのでしょうか。先生の道を歩むのか、それとも全く違う道を歩むのか、それはきっと本人にも分からないのだと思います。願わくば、アキラにとっても今後幸多い人生が待っている事を祈るばかりです。ジキニンキを食べたのは他ならぬジキニンキでした。そしてジキニンキはいなくなりました。そんな、哀愁を感じる物語でした。ありがとうございました。


→Game Review
→Main